近年、体外受精の現場では、着床前診断が急速に普及しています。これはPGT-Aと呼ばれるもので、受精卵の染色体に異常がないかを調べる検査です。これまでは、受精卵の質の評価方法は、形態学的(つまり、顕微鏡越しに見た細胞の「見た目」の事です)にA、B、Cなどのグレードに分類して優劣をランキングするしかなかったのですが、PGT-Aを行うと、細胞の遺伝子の状態が分かってしまいます。例えば、所謂ダウン症というのは、21番の染色体が通常より1本多い状態ですが、受精卵が将来ダウン症になり得るかどうかは、移植をする前にほぼ正確に診断出来てしまいます。このこの検査のお陰で、反復着床障害で悩む患者さんの数が圧倒的に少なくなった気がします。
PGT-Aの結果は、受精卵の染色体本数が、正常か、そうではないか、の2択で返って来ます。(正確には、「モザイク」と言って、正常と異常が混在する場合もあります。)
患者さんから、PGT-Aさえ行っていれば、受精卵の従来のグレード評価は、考慮しなくても良いのでしょうか?とか、PGT-A正常胚が複数あった場合、どれから選ぶべきかとという質問をいただくことがあります。
今日は、こうした質問に対するデータを示します。
下のグラフは、メディカルパーク湘南の過去3年間のデータです。PGT-A正常胚を移植した場合の臨床成績を、胚のグレード別にまとめたものです。
これは全て、PGT-A検査によって、染色体には異常がない胚だけを対象にしています。にも拘わらず、大きな差が出ているのは、非常に興味深いものがあります。AAの胚では、68%の妊娠率だったのに対して、BBの場合には、37%と、ほぼ半分になっています。
PGT-Aが席巻し始めたころ、「従来のガードナー分類によるグレード評価はもう古い。これからの胚評価はPGT-Aが全てである。」という主張が声高に言われていましたが、これは間違いだと思います。PGT検査の有用性は揺らがないとしても、従来のガードナー分類も、それはそれで大事なものなのです。
胚のクオリティは、細胞質、ミトコンドリア、細胞骨格など、様々な要因によって決まってくるのだと思います。決して染色体だけで決まるものではないのです。
体外受精を行っている皆さんは、ご自分が移植する胚の選択の際、こうしたデータを参考にして頂ければ幸いです。