綾瀬市は、藤沢市の北に隣接する人口8万人程度の小さな市です。
この、綾瀬市では、令和6年度の特別養護老人ホーム整備運営事業者の募集がありました。
特別養護老人ホームとは、所謂「特養」の事です。市は、令和9年を目処に、綾瀬市内に新しく特養を建設する計画を立案して、今回、その事業者を募ったのです。
私の妻は、20年以上、介護業界で仕事をしています。妻に取って、特養開設は、大きな夢でした。
妻の夢は、私の夢でもあります。
ってことで、この度、この事業者選定に応募しました。
応募書類を揃えて提出すると、その後に、市役所でプレゼンテーションが開催されます。そして、事業者ごとに点数付けをされて、最終的にナンバーワンになった事業者が建設運営を認可されるのです。
今日が、その運命のプレゼンテーションの日。
これで運命が決まる。
一世一代の勝負の日。
勝負服のスーツでバシッと決めて、いざ市庁舎のプレゼン会場へ。
出席者は、代表の私と、施設長の妻と、管理部門のI君の3名。
プロジェクター使ってスライドを流して、持ち時間は10分で時間厳守で、残り2分でブザーが会議室中にけたたましく鳴り響く、という恐ろしく殺伐な雰囲気の中でプレゼンテーションが始まりました。
そのスライドを何枚かどうぞ。
私たちが作る特養は、その名も「メディカルパークとくよう」
いつもながら、私のネーミングセンス、サイコー。
理念。
理念は大事。
リネンも大事だけど。
道路挟んで、小学校と中学校が隣接しています。
相当敷地が広いので、花火大会とか、盆踊りとか、家庭菜園とか、子供達と触れ合う機会があると、高齢者の方々も喜ぶと思うのです。
これがまとめのスライド。
スライドあと2枚のところで、けたたましくブザー鳴らされて、慌ててしまって、最後、早口になってしまいましたが、丁度ぴったり10分でやり切りました。
さて、その後は、質疑応答が20分。
結構厳しいことを聞かれたけれども、I君が、さながら国会答弁のように、地雷を避けながら、上手に回答していきました。
最後に、綾瀬市の地域包括支援センター担当者から、こんな質問が飛んできました。
「介護の現場では、不幸な虐待な事例が発生することがある。背景に、現場の職員の過労や心労の蓄積があると言われている。こうした職員のメンタルヘルスケアのサポートについて、どのようにお考えか?」
これに対して、I君が、「職員の心的ストレスの軽減」とか、「アンガーコントロールなどのセミナーの開催」など、模範的な回答をしてくれました。
事件はその後に起こりました。
「はい!それは私が補足してお答えします!」
と、妻が右手を挙げたのです。
おー、さすが!と、頼もしく思いました。
妻が喋り出しました。
元気いっぱいに。
ハキハキと。
「あの、私、そういった問題は、自分が勤めている老健で何度も経験しているので、良く分かっているんです。あのですね、そういう問題が起こった時は、配置換えです!職員の配置換えをするに限ります!」
一瞬、会議室が凍り付いたのが分かりました。
私は、場を和ませるために、ちょっと苦笑いしてみましたが、市の職員の人は誰一人笑っていませんでした。
「あ、ああ、そうですか。はい、分かりました。それでは以上で、1組目のプレゼンを終了致します。有難うございました。お帰りは正面のドアから退出をお願いします。」
あーあ・・・
やっちゃったよ・・・。
これで落札出来なかったら、完全に妻のせいだな。
その時は、お前を配置換えしてやるからな!