「警視庁物語」~観るときは古き良き欧州映画用の眼鏡を~ | 独立映画隊

独立映画隊

邦画の感想 ネタバレあります

 

地味。地味。地味である。

登場人物も話の展開も結末も地味なんである。

「太陽にほえろ!」などといった刑事ドラマを見慣れた目には殊更地味に映るであろう。しかし、この地味さが醍醐味なのである。

主任は神田隆、他に堀雄二、山本麟一、花澤徳衛など。お互いを「主任」「苗字」で呼び合い、「金さん」などという特定の呼び名もない。この人はコレと言った役割も特にないようで、捜査はいつも手分けしてたまに徹夜などして進めていく。

派手さは皆無である。

ドラマもない。

捜査のみに焦点を絞っているため、犯人の生い立ちや性格、刑事たちの私生活もほぼわからない。

数人は結婚していて、花澤徳衛には5人目にしてやっと男の子が生まれ、堀雄二は寮暮らし、山リン(よく全てカタカナ書きになっているのをSNSで見かけるが、一度読み違えて驚いたことがあるのでヤマを漢字にする)は下宿住まいである、というくらいの情報しかない。

しかし無駄を全部省いたわけではない。

他のドラマであれば絶対に切られると思われる「この人かと思って捜査してたけど違った」みたいな、このエピソード要らんやろという「無駄骨」の話はキッチリと毎回あるのだ。

ある男に目星をつけて、交友関係から当たっていき、ついに追い詰め、さあ逮捕かという所まできて全く犯人ではありませんでした、というのがやたらとある。そこからふりだしに戻ったり、別の線から再び洗い直そう、となるのである。

そして最後に捕まるシーンが犯人の初登場シーンであったりする。

見ている方に「この人が犯人だったのか!」「やっと捕まった!」という感情がほゞわかない。馴染みがないのである。

最初はここが面白くなかった。

出だしはいつもとても面白く、さあ事件だ!と意気込むのだが、捜査がモタモタし、間違ったりして、何なんだという気がしていた。

しかし何回も見ていくうちに、ここが大変面白いのだと気づいたのである。

リアルなのだ。

ひとつひとつ、模造紙にわかったこと、事実をマジックで書いていき、だんだんそれが増えていく。事件によっては表になっていて、表の空白のマス目がだんだん埋められていく。

とんとん拍子にはまったく進まない捜査。無駄骨につぐ無駄骨。しかしそれがある日、実を結ぶ。

そしてゲストがいつも豪華だ。木村功、東野英治郎、加藤嘉、沢村貞子などなど。

「欧州映画を観るときには、アメリカ映画用の眼鏡をかけてはいけない」と淀川長治氏が書いていたが、まさに「警視庁物語を観るときには、太陽にほえろ!用の眼鏡をかけてはいけない」、と思った。