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本来であるならば子どもたちをいじめ被害から守るために設置される第三者委員会。しかし委員の選任にあたっては、あまりに大きな問題が放置されているようです。今回のメルマガ『伝説の探偵』では、現役探偵で「いじめSOS 特定非営利活動法人ユース・ガーディアン」の代表も務める阿部泰尚(あべ・ひろたか)さんが、教育委員会と第三者委との関係を「泥棒が警察を選ぶ構造」として強く批判。さらに改正目前となっている「重大事態いじめのガイドライン」について厳しい意見を記しています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:いじめ第三者委員会_まるで泥棒が警察を選ぶ構造の最悪パターン
まるで泥棒が警察を選ぶ構造の最悪パターン。宮城県加美町「重大事態いじめ」第三者委員会の現実
宮城県加美町という人口およそ2万人の小さな町で、2022年当時小学2年生の児童が、いじめを受け転校したということから、町と県は「重大事態いじめ」と認め、第三者委員会を設置するよう要望があったというニュースが流れた。
各社報道を見比べてもさほど内容に差が無いことから、被害保護者と代理人弁護士が行った記者会見をリードした記事だろう。
記事によれば、2022年当時小学2年生だった児童が「母親を殺してやる」とか「お前のお弁当をめちゃくちゃにしてやる」などの脅迫の他、複数の上級生に待ち伏せされ、うち1人に体当たりされて、首にかけていた水筒が電柱にぶつかって壊れ、男児も首をねんざしたという。それ以前にも、上級生たちから棒でたたかれたり、顔をひっかかれたりしていたという。
待ち伏せをするというのは、被害者を狙った行動であるから、故意であることは明白だ。下校時に何らかの死角に連れ込んだとすると、被害者は逃げ場がない状況に絶望したことだろう。
絶望はさらにある。被害保護者が学校に相談したところ、学校から「騒ぐとお母さんの名が町中に知れ渡る」と言われたという。
この言葉は、どう考察しても「騒ぐな!どうなっても知らんぞ」と脅したことになるだろう。
被害児童は、転校するまでの5か月間不登校になったという。
被害側は加害者側に謝罪を求めたが、「体当たり」と「けが」に因果関係がないとして謝罪をしないという。謝ったら死んでしまう病になのだろうか。
およそ2年後の今年2024年7月19日に宮城県教育委員会と加美町教育委員会に「重大事態いじめ」と認め、第三者委員会の設置を求める要望書を提出したことがニュースになったわけだ。
「騒ぐな!」と脅した学校の言語道断な判断
重大事態となるためには、まず第一に、児童生徒に
○ 生命、心身又は財産に(対する)重大な被害(いじめ法第28条第1項第1号)
○ 相当の期間学校を欠席することを余儀なくされている状態(同項第2号)
(文科省HPより)
上級生が6人がかりで小学2年生に体当たりをして首をねんざさせたり、「母親を殺す」などと脅迫をしたこと自体、すでに心身の重大な被害として「重大事態いじめ(1号)」と言えるが、百歩譲って第三者委員会の見解を待ってもよいだろう。しかし、事実、いじめを受けて不登校になっているのだから、「重大事態いじめ(2号)」の要件は満たすことになり、認定をするのは日本語が読めれば十分容易な事であろう。
この容易な判断をせず、「騒ぐな!」と脅した学校の判断は言語道断だ。
私はこの言葉を吐いた学校に一言言いたい。法律を守らず、逆に脅す学校は教育機関ではないし、また教育者ではない。ハッキリ言う。この言葉を吐いた者は、今すぐ職を辞すべきだ。
教育行政側にとって「他人事」でしかないいじめ問題
本件では、宮城県教育委員会も「できる限りのことをする」とコメントしていることから、相応な対応がとられることであろう。
一方で、加美町教育委員会はおおよそ学校におけるトラブルを把握していたであろうし、十分な把握機能を有していたか甚だ疑問である。仮に、把握できる状態であったとしたら、加美町教育委員会自体も調査対象となろう。
しかし、現行のいじめ防止対策推進法では、第三者委員会の設置権限は「学校の設置者」となり、公立校の場合は管轄の教育委員会になるのだ。
つまり、第三者委員会の設置権限は加美町教育委員会となり、調査対象候補が第三者委員会を設置するという極めて歪な調査委員会が成立することになるのだ。
こうした事案はこれまでかなりの率で発生しており、自治体が常任と言える調査委員会をもっていれば、調査対象となる教育委員会直下の組織として調査委員会(第三者委員会)が調査を行ってきた。そうした組織が出す結論は真上の教育委員会対応を擁護したり隠蔽とも言える判断を下すことがあるから、首長が組織する「再調査委員会」が次に行われる事例が後を絶たない。
一方で、これら第三者委委員会が一切の忖度を捨て、教育委員会の対応を糾弾するケースがあるが、これはその委員が真っ当に判断したに過ぎず、そうした事例は少ないだろう。理由は簡単だ。そうした判断を下す空気を読めない委員は再任されることはまずないからだ。
本来であれば、法改正で立法直後から10年以上続く、この歪な構造を改正することが正義だろうが、これは未だになされていない。
結果のみみれば、教育行政におけるいじめ問題は、他人事であり、教育行政側からすれば、一定の言い訳さえ立てば、子どもたちがいじめを苦に自殺をしようが、ものすごく苦しんで再起不能になろうが、加害者が犯罪行為を黙認されこれを誤った成功体験として後に犯罪者となろうが、己の保身が優先できればそれでよい先送り事項に他ならない。
一方でこの問題を糾弾し、被害者側に立つような私のような存在は、目の上のたんこぶであり、メディアで発言しないようにしたい相手になる。
まさに嘘(隠ぺい)は泥棒のはじまりということわざの如く、といっても過言ではない。
子どもを過酷な環境に置き続ける危機管理レベルの低い学校
2024年7月現在重大事態いじめのガイドラインは改正目前で、2024年8月2日まで意見募集されているが、第三者委員の選任を緩やかにしようという動きが叩き台となっている。
つまり、これらの有識者と国に呼び出しを受ける方々が、委員の第三者性をあまりに厳格にしていくと、選任に時間が掛かり、第三者委員会発足までの労力が甚大であると考えているのだろう。
ただし、それでは、仕事ができないレベルの人しかいない組織なので、全体的にレベルを落として「良し」としましょうと言っていることに他ならないのだ。
例えるなら、自動車運転免許の試験が難しいから、超簡単な試験にしちゃいましょう。事故を起こせば責任が問われるから、きっとみんな慎重に運転しますよと言っているのとほとんど同じだ。これでは、日本中、交通事故まみれになって道を歩くのも運転をするのも命懸けのサバイバル状態になるだろう。今や、こどもたちは、その過酷な環境にいるのだ。危機管理レベルの低い学校のせいでだ。
被害者本人やご遺族が必ず言う言葉がある。
「二度とこのような事が起きないように」
これは願いとも言えるが、二度と起きなかったことはないし、まともな第三者委員会が、有効な予防策を提唱しても、これを実行に移す教育機関はほとんどないのが現状である。
立法と行政、そして司法には、この国の未来がこどもだと言うのであれば、命や将来を奪う「いじめ」について真摯に向き合い、被害側に寄り添ってもらいたいものだ。
当分続くことになりそうな子どもたちの「試練の時代」
第三者委員会の設置にはそれなりの予算が掛かります。まあ、実際、委員の報酬なんて専門家からすれば、理不尽で不当に安い報酬ですから、こればかり受けていたら破産するのは間違いないのですが…。
それでも予算は掛かります。しかし、そのかけた予算についても、専門家たる委員会が提唱する予防策や分析結果を最大限活かさなければ、二度と起こさせないという観点からも、血税をドブに捨てるのと同じなわけです。
仮に検証もせず、有効ではないやってます感だけの策しか講じないのであれば、やらなきゃいけないからやっただけのものになるわけです。
だからまずは、提唱が実行されているのか、具体案として検討されているのかを検証して対策をより進化させなければなりません。そうでないと、重大事態いじめ発生で大変にならないようにするためには、どう蓋をするかの隠ぺい策ばかりが行われることになるでしょう。
実際、隠ぺい策ばかりが講じられていますし、国レベルでも如何にレベルを下げるかの検討がされています。今回の「重大事態の調査に関するガイドライン」改正の意見公募でどれだけ意見が反映されてダメ路線から通常運転に戻せるかが今後を占う指針になるだろうと思いますが、ダメから通常運転であることから、戻せてこれまでのダメ路線には変わりがないことは言うまでもありません。
当分、こどもたちの試練の時代は続きそうです。
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社会問題を探偵調査を活用して実態解明し、解決する活動を毎月報告。社会問題についての基本的知識やあまり公開されていないデータも公開する。2015まぐまぐ大賞受賞「ギリギリ探偵白書」を発行するT.I.U.総合探偵社代表の阿部泰尚が、いじめ、虐待、非行、違法ビジネス、詐欺、パワハラなどの隠蔽を暴き、実態をレポートする。また、実際に行った解決法やここだけの話をコッソリ公開。
まぐまぐよりメルマガ(有料)を発行するにあたり、その1部を本誌でレポートする社会貢献活動に利用する社会貢献型メルマガ。
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