
学習がだいぶ進んでくると、まだまだ自分からは言葉が出にくいけれども、
聞くのは大分解るようになってきた、という楽しい時がやってきます。
レッスンの初めには、生徒にはできるだけ自分から話してもらうことにしています。
みなさん、母語の順番や、母語ならこういう言い方をする、ということがありますから、
かなり大胆に間違えますが、この、間違えると言うのがとても大切です。
私は生徒が話してくれるのを同時にドキュメントに入力していきます。
話が終わったら、助詞の間違いを色でハイライトして、直してもらいます。
その次に細かい間違いに色をつけ、「これを直してください」と言います。
間違いの多くが、間違いというよりは、
「そのことを初めて言おうとして、それはまだ習っていないので、当然間違える」
という部分です。
私は言います。
「いいですね。大変よくできました。
でもここね、『大きい朝ごはんを食べた』って言ったでしょう?
間違いではない、あなたの国だったらそう言いますよね。
でも日本だと、大きいと言うのはまず、サイズですね。
どんな朝ごはんだったの?
それによって違ってきます。
『しっかり食べた』とか、『ちゃんと食べた』でしょうかね。
「しっかり」と「ちゃんと」は、似ていますが違いもあります」
これも、各人のレベルに合わせ、理解できるところは日本語、そうでないところは英語となります。
この私のチャンポン話法の中に 徐々に日本語が増えてきて、
日本語だけでわかるようになると楽しくなるよね、
ということをよく私から言っています。
今日はかなり学習が進んだ人に言いました。
「どのぐらい日本語がわかるようになったか、ちょっとチェックしましょう。
このお話を聞いてください。
ほとんどわかります。
新しい言葉は英語で言いますが、とにかく聞いてください」
昔、浦島太郎という男の人がいました。
彼の家は、丹後の浦島にありました。
浦島太郎の浦島はファミリーネームではなくて、
浦島の太郎さんという意味です。
浦島はビーチです。
ある日、そのビーチで、子供たちが亀をいじめていました。
太郎は 子供達に ポケットマネーをあげて、
亀をいじめてはいけません。
と言いました。
亀は海に帰りました。
その晩、太郎の家のドアを 誰かがノックしました。
それは亀でした。
亀は言いました。
「太郎さん、今日はありがとうございました。
私のマスターは、海の中のプリンセスです。
彼女はあなたに、ありがとうと言いたいです。
どうぞ、私と一緒にきてください」
太郎は言いました。
「ありがとう。でも私は海の中で死ぬでしょう」
亀は、
「私といっしょに来てください。大丈夫です。死にません。
プリンセスのマジックがあります」
と言いました。
太郎は亀に乗って 海の中のパレスに行って、綺麗なプリンセスに会いました。
彼女の名前は 乙姫様でした。
乙姫様は毎晩 太郎に、たくさんのおいしい料理とお酒を出しました。
ロマネ・コンティも出しました。
シーフードは出ませんでした。
いろいろ、楽しいエンターテイメントもありました。
イカは、イカゲームをしました。
まぐろは ぐるぐる ダンスをしました。
あまり面白くなかったと思います。
太郎は3年ぐらい、海のパレスにいました。
でもある日、彼は乙姫様に言いました。
「乙姫様、今まで、いろいろありがとうございました。
とても楽しかったです。
でも今、私は家に帰りたいです。
帰ってもいいですか?」
乙姫様は、
「そうですか。さびしいですが、しかたありません。
では、このおみやげをあなたにあげます。
これを 絶対に開けてはいけません」
と言いました。
太郎は乙姫様にさようならと言って、また亀に乗って、家に帰りました。
でも、ビーチは変でした。
空に、知らない何かがとんでいます。
大きなピカピカした箱が走っています。
すごいスピードです。
遠いところには、長くてピカピカした白いものが
これも、すごいスピードで走っています。
浦島には、太郎の家族も友達もいません。
太郎は悲しくなって、箱を開けました。
箱から白いスモークが出ました。
太郎は今、300歳のおじいさんになりました。
太郎は、3年間 海の中にいましたが、
本当は、300年いました。
箱の中に、その300年が入っていました。
太郎はおじいさんになって、死んでしまいました。
めでたしめでたし」
じっと聞いていた生徒に爆笑されました。
「ねっ? 全部わかったでしょう?」
「ほとんどわかりました」
「簡単なことばかりだなぁと思ったかもしれないけれども、
これがわかるには、辞書形・ないの形・ての形・全部マスターしていることが必要だったのです。
英語に置き換えをしなければならない部分はほとんどなかったです。
これは、なんとなくレッスンを重ねていたのではなく、
あなたに新出語が出ると全部ちゃんとノートに書いて、
しっかり都度、覚えてきた、その賜物なんですね。
もっと頑張って、愚痴や悪口も自由に言えるようにしましょう。
どこまでも一緒に走って行きます」
・・私も大きく出ました。
次はこの生徒さんに、ボスニアの民話を日本語だけで話してもらうことになっています。
私の日本語の浦島太郎がギクシャク、不自然なのは、
「・・なのです」系の表現をまだ教えていなかったから「なのです」ね。
これがまた曲者ですが、避けては通れない面白いところ「なんです」が、
それについてはまた改めて・・