『ハロウィン(2007)』@12月のフロントランナー。 | 栃木県宇都宮市で攀じるパパクライマー

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12月は29本も観賞したのに評価平均が7.0オーバーというハイレベルな月となった。そんな激戦の12月のフロントランナーは、おいらがかねてより支持しているロブ・ゾンビ監督の劇場長編三作目にあたる『ハロウィン(2007)』だ。


言わずとしれた傑作ホラー「ハロウィン(1978)」のリメイク作品であるから、日本のみならず全米でも散々たる低評価を頂きましたが、それはまあファン心理のなさせる技なのであって(暴言)、本作はどう観ても傑作である。リメイク元はあくまでファンタジーであり誰でも納得する明確な主題が見てとれた。そういう意味では綺麗な古典で、詩的な映画であったが、本作は主題がまるっきり違うのであるから比べようもない。ロブ・ゾンビの作品は、一部にだけ高く評価されていて、基本的にホラー映画ファンには完全なる不支持表明を頂いている。しかし、それも納得というのもので、ロブ・ゾンビの作品は、基本的にホラー映画ではない。だからホラーとして配給サイドが売ること自体が的外れなのである。


ゾンビの映画が何故不評なのか考えるに、ゾンビが常に加害者を非難せず、被害者を無能や畜生としている点にあると思う。観る側の多くが被害者側に所属しているのであるから、居心地が悪いのは当然で、この世界は常に戦争状態にあり、それを理解していない人間は死んで当たり前だと言わんばかりで進行していくゾンビには誰もついては来られまい。


そんなゾンビ監督が始めてホラーを撮ったなと納得できたのが本作「ハロウィン(2007)」である。前半部分がリメイク元の前日譚で、後半部分がリメイクされた箇所になるわけだけど、兎に角、前半部分の殺人の描写が酷過ぎる。これはもう直視できない。いままで映画界は、殺人鬼や純粋悪、恐怖そのものといった様々な悪を描いてきたが、結局のところ殺人描写は避けてきたと言っていいだろう。なんでもかんでも観るおいらだけども、いまだまったく惹かれる縁を見いだせていないのが、ピンク系とスプラッター系の映画で、スプラッター映画を辞書で調べると「血みどろでショッキングな場面を主な見所とする映画」とのことらしいが、おいらはいまだ殺人を直接描写している映画を観たことがない。その点本作には“始めて描かれた殺人描写”が存在する。ゾンビ監督が本作でやってのけたのはタブーの一切ない形での殺人中継である。主人公であるマイケル少年に惨殺されていく家族。おいらは日本でも事実存在してきた一家惨殺に思いを馳せずにはいられなかった。誰も見ても聞いてもいない家屋の中でただ殺すという結果を求めて動く加害者。傷口をアップにしたり流血に焦点をあてたりするわけでもなく、少年をモンスターとして神格化するわけでもなく、純粋に殺人という行為にのみ焦点があたる。おいらはこんな映画は観たくなかったと言わして欲しい。


後半部分は、リメイク元へのオマージュと言わんばかりの同一構図が利用されていたり、ストーリーラインもホラーの王道から踏み外さないよう心掛けられていたりで、同じ骨組みでも演出力と表現力だけでこれだけ見せられるのかと勉強しきりである(ゾンビはやっぱり演出力もあるよ。役者もよく動いている)。結局、同じ物を純粋に再現しようとすれば、ゾンビクラスならできるのであって、それをやらないところにリメイクの意味があると結論付けたい。


結局、本作の後半部分が示す通り、人の理屈の外に位置する恐怖の象徴であったブギーマンと、不幸な生い立ちのせいで異常者になってしまった少年のどちらが怖いのかという比較の話しにゾンビは持っていっていない。情念(個人的動機ともいう)の名のもとに動いている殺人鬼は、怖いどころか滑稽なだけであり、その寂しさをただただゾンビは訴える。ぶつギレのエンディングもコミュニケーションの断絶をより際立たせるまさにゾンビ印。おいらは、世界中で繰り返されている一家惨殺事件が密室で行われるのでなく、観客がいたり、カメラが入っていたりしたなら、それは繰り返され得ないのではないかと阿呆なことを思った。本作は、家族を皆殺しにしたいという願望と闘っている少年少女に捧げられている気がしてならない。9.2


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1月のフロントランナー。 『ジェシー・ジェームスの暗殺』

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2月のフロントランナー。 『ファーストフード・ネイション』

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3月のフロントランナー。 『4ヶ月、3週と2日』

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4月のフロントランナー。 『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』

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5月のフロントランナー。 『パリ、恋人たちの2日間』

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6月のフロントランナー。 『ぐるりのこと。』

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7月並びに8月のフロントランナー。 『崖の上のポニョ』(前編)

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7月並びに8月のフロントランナー。 『崖の上のポニョ』(前編)

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7月並びに8月のフロントランナー。 『崖の上のポニョ』(考察)

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7月並びに8月のフロントランナー。 『崖の上のポニョ』(こばれ話)

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9月のフロントランナー。 『ひゃくはち』

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10月のフロントランナー。 『イントゥ・ザ・ワールド』

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11月のフロントランナー。 『州議会』

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