田窪一世 独白ノート -7ページ目

田窪一世 独白ノート

ブログを再開することにしました。
舞台のこと、世の中のこと、心の中のこと、綴っていきます。

演技には大きく分けて2つの種類があります。

 

ひとつは個人プレイ、そしてもうひとつがチームプレイです。個人プレイは例えばフィギアスケートのように記録を競うもの。チームプレイはサッカーやボクシングのように勝敗を競うものです。

 

日本には歌舞伎という伝統芸能があります。これはもう個人プレイの極致と言えるもので、役者は観客に向かっていかに見事な演技を披露するかが重要で、つまり相手役はどうでも良いのです。主役が演じているとき脇役は主役の演技を邪魔しないように静かに控えていなければなりません。

 

僕の好きなエピソードにこんなのがあります。明治時代の名優に守田勘弥という役者がいました。ある日彼の楽屋に弟子がやって来てこう言います。「先生、今度の舞台でこういう工夫をしてみようと思うのですがいかがでしょうか?」勘弥それに答えて「ああ、好きにおやんなさい。どうせお客様はわたししか見てないから」ここまで徹底しているとむしろ気持ちがいい。歌舞伎の場合、衣装は自前で先祖から代々伝わって来た衣装を身につけます。つまり成田屋にも中村屋にも代々伝わる弁慶の衣装が保管されているのです。あるいは舞台を見るとき、客席から向かって右側を「上手」左側を「下手」と言いますが、これも昔から主にに主役級の俳優の演技エリアは上手で端役の演技エリアが下手という身分制度のようなものが決まっていたからだと言います。なるほど、だから上手(じょうず)、下手(へた)という字を当てたのですね。まさに徹底した個人プレイです。

 

そして僕が20代の頃に影響を受けたアメリカン・ニューシネマ。これは70年代にベトナム戦争に反対する若者層の心情を綴った映画群で、当時まだ無名の青年だったロバート・デニーロやアル・パチーノたちがリアルな演技の担い手として登場して来ました。彼らは日常と同じテンションでボソボソと喋り、クライマックスでは強烈な爆発力を発揮して観客を魅了しました。

 

個人プレイの演技とチームプレイの演技というのはまったく別のジャンルです。個人プレイの演技を見たときの観客の感想は「上手だった」「あの俳優は魅力的」と言ったものですが、チームプレイの演技の場合は「登場人物たちの関係にハラハラドキドキする」「物語の先が気になる」というものです。どちらが優れている劣っているとかではなく別物の競技を見ていると考えた方が良いでしょう。

 

僕が座キューピーマジックで目指しているのはチームプレイです。まるでアパートの一室を覗き見しているような臨場感。フィクションなのにドキュメンタリーではないかと錯覚してしまいそうになる舞台。しかしこれが中々に難しく、30年間ずっと悪戦苦闘は続いています。

 

 

 

 

 

 

オートマチック車と違い、マニュアルの車を運転する場合、ロー、セカンド、サード、トップと走行状態に合わせてギアチェンジをする必要があります。これを演技に例えると以下のようになります。

 

相手と二人きりで会話する▶︎ロー

喫茶店など数人で会話する▶︎セカンド

デモ隊でのアジテーション▶︎サード

二人きりで感情が爆発する▶︎トップ

 

こう定義すると、ローとトップはプライベートで、セカンドとサードはパブリックということになります。ところが舞台の場合、そこそこ大きな劇場で演技するときには、たとえ二人で会話する場面でもローでは声が小さすぎ観客の耳には届きません。従って本来プライベートな環境であるにも関わらずパブリックなボリュームで演技することになってしまうのです。

 

20代の頃、舞台俳優を目指していた僕に対して演出家は「客席の一番後ろまで声が届くよう発声しろ」と執拗に言って来ました。ところが当時熱中していたアメリカ映画の中では、俳優たちは終始ボソボソと会話をし、ドラマのクライマックスには激しく怒鳴り合うというプライベートな演技を駆使していたのです。そのリアル感溢れる演技に若かった僕は魅了されました。けっきょく20代、30代は舞台と映画の狭間で暗中模索を繰り返していました。

 

30歳になった頃に座キューピーマジックを創立し、当初は大きな劇場に出ることを目的にして精進を重ね、演技人にとっての甲子園とも言える本多劇場に立つことが出来たときには天にも昇る心地でした。しかし数回公演を繰り返すうちに徐々に違和感を感じるようになり、自分にはパブリックな演技は馴染まないと判断し、再び小劇場に戻って行くことになるのです。

 

ローとトップを多用するするリアルな演技、今はそれを目指しています。

 

 

 

 

 

 

 

台詞を喋るとき、まず相手を見てから喋り始める。

 

日常生活では当たり前のことですが、演技となるとこれが難しいのです。日常では、相手に何かを伝えたいとき、まず相手を見ることで相手の様子を探ります。じっくり探ることもあれば、一瞬のうちに探って判断することもあります。相手の機嫌が良いか悪いか、この話題を持ち出して問題があるのかないのか、相手の表情や態度でそれを察知して判断して、言葉を選んで話し掛けるのです。余裕がないとき、あるいは相手に油断しているときなど、喋りかけてから相手を見る場合もあります。しかしそんなときは大抵その直後にトラブルが勃発するのです。

 

俳優はそれらを使い分けなければいけません。ところが多くの俳優は相手を観察しないでいきなり台詞を喋り始めてしまうのです。何故なら台本に書いてある台詞を覚えて、それをどう駆使して喋ろうかと、日常とは別の心理状態で構えているからです。これではテレビ番組の食レポで食べ物を口に入れて、味わいもしないですぐに感想を言い出してしまうお粗末なタレントと一緒です。

 

演技レッスンの中に「エチュード」と言われる訓練方法があります。これはシチュエーションのテーマ与えて、俳優たちに台本無しで会話させるというものです。このとき懸命にその状況に対応しようと必死になっている彼らはみんな名優です。

 

俳優はたとえ台詞を与えられた場合でも(ほとんどの場合はこれですが)相手役の喋ることを良く聞き、相手を良く観察し、気配を感じながらエチュードのときのように対応することが大事なのです。

 

 

 

 

 

 

 

役作りをする際、自分と役とではさまざまな違いがあります。

 

例えば喜怒哀楽で例えると、自分は嬉しい時は心の中でジワリと喜ぶが役は身体を躍動させて喜ぶとか、恐怖に遭遇した時に自分は固まってしまうが役は大声をあげて叫ぶとか、色々な点で自分とその人物とでは相違があります。これをレーダーチャートという五種類以上の種類からデータから特性を判断するグラフのように表してみて、自分に足りないものは増やし、自分が多すぎる場合は減らして行く。つまりこれが役作りです。

 

役作りは要するにその人物の「型」に自分を嵌めていく作業で、これはある意味不快で想像力を要求される作業です。減らさなければならない部分は窮屈だし、増やさなければならない部分は果てしがありません。しかしこの不快な作業の向こう側にこそ「別の人間として生きる」という快感が待っているのです。

 

「男はつらいよ」で寅さんの妹役のさくらを演じている倍賞千恵子さんは本来サバサバとしたボーイッシュな性格の人で、あのいかにも良妻賢母を絵に描いたようなタイプの人ではありません。実はあのキャラクターは倍賞さんのお姉さんのキャラクターを真似て出来上がったものだとご本人があるインタビューで答えていらっしゃいました。高倉健さんもお若い頃はお喋りで明るい性格だったらしく、後年の任侠映画の寡黙な主人公とはまるで違うタイプだったそうです。ところが「日本侠客伝」という映画に大抜擢されて主人公を演じた時に、健さんの白目の部分が多い鋭い目という外見の特徴などが相俟って映画は大ヒットしシリーズ化されました。その後「山口組三代目」という「ゴッドファーザー」に影響を受けて製作された映画に健さんが主演した時、モデルとなった田岡一雄組長の人となりを身近に学んだことであの「高倉健」が完成したのです。

 

昔から、若い未熟な俳優が「自分らしさ」を売り物にしてデビューすることが良くありますが、それではけっきょく長続きはしません。アイドルならばそれも有りですが「俳優」はそれとは全然別の職業なのです。

 

 

 

 

 

 

 

 

1年間の沈黙を破って座キューピーマジック復活です!溜まりに溜まって渦巻いているエネルギーを今回の舞台にぶつけます!(うち文科系なんですけどね)

 

▶︎座キューピーマジック Vol.72

▶︎ムーンライト・セレナーデ

▶︎作、演出●田窪一世

 

若い頃に受けた恋愛の傷が未だ癒えず、新しい恋に踏み出せずにいる内向的な高校美術教師と、多くの恋を経験して来たにも関わらず、ずっと虚しい思いを抱えている奔放な舞台女優。本来会うはずのなかった二人が、ある月の輝く夜、偶然に言葉を交わすことに。「あなたと話してると、なんだか落ち着くわ」「僕は反対だな、君と話してるとなんだか勇気が湧いてくる」それ以来、周囲の人々を巻き込んで二人の人生は急転して行きます。

 

20代の頃、アメリカ映画のヒューマンコメディが大好きで「お熱いのがお好き」「アパートの鍵貸します」「おかしな二人」などの映画に熱中していました。この「ムーンライト・セレナーデ」はそれら名作に対するオマージュ、パロディ、あるいはパクリです。日本人でももっとオシャレな会話を楽しみたい。 そんな大人のための恋愛物語。最近、お仕事や人間関係に少し疲れたと感じていたら、ぜひ劇場のドアをノックしてみてください。

 

▶︎スケジュール

5月19日(水)  19:00

5月20日(木)  14:00/19:00

5月21日(金)  19:00

5月22日(土)  14:00/19:00

5月23日(日)  12:00/16:00

 

▶︎チケット

前売券¥3,800、当日券¥4,000

★チケットお申し込みは以下の項目を明記の上メールアドレスからお申し込みください。

①氏名

②郵便番号

③住所

④電話番号

⑤メールアドレス

⑥希望日時

⑦枚数

 

takubo77@icloud.com

 

▶︎劇場

下北沢劇小劇場

小田急線/井の頭線下北沢駅東03分

本多劇場斜め前

 

▶︎制作

座キューピーマジック事務所

 

★新型コロナ対策として、 お客様の検温、マスク着用、換気等、その時点での状況に応じて実施します。初日までには世の中が平常に戻っていることを切に願って。

 

★尚、諸事情により今回から郵送での公演案内は廃止させて頂くことになりました。ご了承ください。