レーダーチャート | 田窪一世 独白ノート

田窪一世 独白ノート

ブログを再開することにしました。
舞台のこと、世の中のこと、心の中のこと、綴っていきます。

役作りをする際、自分と役とではさまざまな違いがあります。

 

例えば喜怒哀楽で例えると、自分は嬉しい時は心の中でジワリと喜ぶが役は身体を躍動させて喜ぶとか、恐怖に遭遇した時に自分は固まってしまうが役は大声をあげて叫ぶとか、色々な点で自分とその人物とでは相違があります。これをレーダーチャートという五種類以上の種類からデータから特性を判断するグラフのように表してみて、自分に足りないものは増やし、自分が多すぎる場合は減らして行く。つまりこれが役作りです。

 

役作りは要するにその人物の「型」に自分を嵌めていく作業で、これはある意味不快で想像力を要求される作業です。減らさなければならない部分は窮屈だし、増やさなければならない部分は果てしがありません。しかしこの不快な作業の向こう側にこそ「別の人間として生きる」という快感が待っているのです。

 

「男はつらいよ」で寅さんの妹役のさくらを演じている倍賞千恵子さんは本来サバサバとしたボーイッシュな性格の人で、あのいかにも良妻賢母を絵に描いたようなタイプの人ではありません。実はあのキャラクターは倍賞さんのお姉さんのキャラクターを真似て出来上がったものだとご本人があるインタビューで答えていらっしゃいました。高倉健さんもお若い頃はお喋りで明るい性格だったらしく、後年の任侠映画の寡黙な主人公とはまるで違うタイプだったそうです。ところが「日本侠客伝」という映画に大抜擢されて主人公を演じた時に、健さんの白目の部分が多い鋭い目という外見の特徴などが相俟って映画は大ヒットしシリーズ化されました。その後「山口組三代目」という「ゴッドファーザー」に影響を受けて製作された映画に健さんが主演した時、モデルとなった田岡一雄組長の人となりを身近に学んだことであの「高倉健」が完成したのです。

 

昔から、若い未熟な俳優が「自分らしさ」を売り物にしてデビューすることが良くありますが、それではけっきょく長続きはしません。アイドルならばそれも有りですが「俳優」はそれとは全然別の職業なのです。