ロー&トップ | 田窪一世 独白ノート

田窪一世 独白ノート

ブログを再開することにしました。
舞台のこと、世の中のこと、心の中のこと、綴っていきます。

オートマチック車と違い、マニュアルの車を運転する場合、ロー、セカンド、サード、トップと走行状態に合わせてギアチェンジをする必要があります。これを演技に例えると以下のようになります。

 

相手と二人きりで会話する▶︎ロー

喫茶店など数人で会話する▶︎セカンド

デモ隊でのアジテーション▶︎サード

二人きりで感情が爆発する▶︎トップ

 

こう定義すると、ローとトップはプライベートで、セカンドとサードはパブリックということになります。ところが舞台の場合、そこそこ大きな劇場で演技するときには、たとえ二人で会話する場面でもローでは声が小さすぎ観客の耳には届きません。従って本来プライベートな環境であるにも関わらずパブリックなボリュームで演技することになってしまうのです。

 

20代の頃、舞台俳優を目指していた僕に対して演出家は「客席の一番後ろまで声が届くよう発声しろ」と執拗に言って来ました。ところが当時熱中していたアメリカ映画の中では、俳優たちは終始ボソボソと会話をし、ドラマのクライマックスには激しく怒鳴り合うというプライベートな演技を駆使していたのです。そのリアル感溢れる演技に若かった僕は魅了されました。けっきょく20代、30代は舞台と映画の狭間で暗中模索を繰り返していました。

 

30歳になった頃に座キューピーマジックを創立し、当初は大きな劇場に出ることを目的にして精進を重ね、演技人にとっての甲子園とも言える本多劇場に立つことが出来たときには天にも昇る心地でした。しかし数回公演を繰り返すうちに徐々に違和感を感じるようになり、自分にはパブリックな演技は馴染まないと判断し、再び小劇場に戻って行くことになるのです。

 

ローとトップを多用するするリアルな演技、今はそれを目指しています。