アメリカでは国民のおよそ5%が、
臨死体験をしたと報告されています。
これまでの研究から医学では、
説明出来ないある事実を見いだしたと、
臨死体験の権威と言われるジェフリー・ロングは言います。
「私たちは世界中の臨死体験の事例を検証しています。
すると驚くほど似通っていることがわかりました。
キリスト教徒にもイスラム教徒にもヒンドゥー教徒にも、
とても幼い子供にも老人にも、
さらには目の見えない人にも起こるのです」
臨死体験とはいったいどんなものなのか、
オランダのエリー・ムアマンさん。
出産時の大量出血で命を落としかけました。
「意識を失うとトンネルにいました。
その奥には素晴らしい光がありました。
とても綺麗で暖かくてっ幻想的でした。
だから歩いてトンネルから出ました。
たどり着いた場所は黄色の世界です。
そこに大きな緑の草原がありました。
草原には花が一面に咲いていました。
そこで私を待っている人がいたのです。
それは私が十二歳の時に亡くなった父でした。
父は私の手を握ってくれました。
まさに天国のような世界でした」
アメリカのシェリー・バーディックさんは、
心臓に重い疾患を抱えています。
四年前に心臓が停止。生死の境をさまよいました。
「私の意識はある美しい別の世界へと流れて行きました。
深い海の底のような場所でした。美しくて
美しくて、そこに現れたのは兄でした。
私を水の中から引き上げてくれて意識が戻ったのです」
体験者たちの証言をもとに作成した、
臨死体験に共通するイメージです。
気がつくと暗いトンネルにいます。
その先には明るい光。光の中には見たことのない美しい景色。
そして心地よい音楽。
決してけして会えない大切な人が待っていることもあります。
無上の愛や大きな幸せを全身で感じる、
まさに天国だと言います。
臨死体験はいったい何故起こるのか、
アメリカのミシガン大学では、
臨死体験を科学で解明しようとしています。
去年8月、ジモ・ボルジギン博士たちのグループは、
臨死体験の謎を解く大きな成果をあげたと発表。
世界の注目を集めました。
そのきっかけは死に瀕したときの、
ネズミの脳を調べた実験でした。
心臓が停止した直後のネズミ。
その脳の6カ所で脳波を計測します。
これまでは心停止をすると脳は、
急速に機能を失うと考えられていました。
しかし、その常識が覆されたのです。
ネズミの心臓が停止し、
脳への酸素供給が止まっても脳は活動をやめないのです。
振幅が小さくなって周波数が非常に高くなっています。
実はこの状態は、
脳が非常に活発に働いていることを示しています。
約30秒間も脳は動いていたのです。
「これまでは心臓が停止すると同時に、
脳も停止すると考えられていました。しかし違ったのです。
脳は一生懸命働いていたのです。脳は生き残ろうと必死です。
これは脳に備わったメカニズムなのです」
死の間際生き残りを賭けて必死に働く脳。
この30秒の間に何が起きているのか、
臨死体験者が垣間見た世界とどんな関係があるのでしょうか。
それを紐解くヒントが意外なところにありました。
アメリカ軍のパイロットが受けるある訓練が、
重要な手がかりとなったのです。
軍のパイロットは高速で飛ぶ飛行機の中で、
体にかかる重力から身を守る必要があります。
そこで重力に耐えるための特別な訓練を受けます。
高速で回転するゴンドラに乗せられたパイロット。
時に地上の10倍前後の重力負荷がかかります。
するとパイロットの血液は下半身に停滞し、
脳への血流が減って低酸素状態となります。
死に瀕したネズミの脳とよく似た状態です。
このとき多くのパイロットが、
Gロックと呼ばれる意識を失う状態に陥ります。
その結果Gロックに陥る、
とある不思議な状態になることがわかりました。
「意識を喪失する時、まず失われるのは視界です。
ブラックアウトをして、
トンネルのようなものか見えると言います。
トンネルの先には白い光というか、
それに似たようなものが見えます。
穏やかで静かで、大きな幸せを感じると言います。
とても心を打たれるような印象的なものなのです」
臨死体験とは低酸素状態となった脳が起こす現象ではないか、
ミシガン大学のボルジギン博士はそう考えています。
「臨死体験は脳がもたらすものです。
実際に何かが見えているのでしょう。
昏睡状態でも視覚の認識は働いています。
だから過去の思いでや彼らの人生に、
実在した人たちが見えるのです。
死後の世界など存在しないでしょう」
しかし臨死体験には脳の働きだけでは、
説明出来ないものもあります。
太陽光発電の開発に携わる佐藤数行さん。
十八年前過労で倒れ意識を失いました。
「すっと抜けてしまったというか、
意識が飛んでしまったというんですか。
その瞬間、自分が自分を見ていた、
という状況に遭遇したんです」体脱体験です。
体から浮き上がった感覚で自分を見下ろしているといいます。
臨死体験者の半数が体験するという調査もあります。
中でもアメリカ人医師、
トニー・スコリアさんの体験は特殊なものでした。
二十年前親族が集まるパーティで、
ひとりで外に出たところ雷に打たれました。
「大きな閃光がが私の顔面を直撃しました。
そのときいきなり自刎の意識が、
体から抜け出る感じがしたんです。
そしてしばらくその場に立ち尽くした後、
家への階段を上り始めました」
スコリアさんの場合、
体を抜け出た意識は浮遊して建物の中に入り、
室内にいた妻の姿を見たと言います。
「妻は何人かの子供に囲まれて座っていました。
妻は前かがみになって一人の子供になにかしていました。
「確かに私は子供の顔にペイントしていました。
それは彼が外で倒れていた時に間違いありません」
「実際に体験したからこそ自身をもって言えます。
臨死体験は幻覚ではありません」
スイス連邦工科大学では、
体脱体験を再現しようとある実験がおこなわれていいます。
被験者はロボットアームが設置されたボードの上に仰向けになり、
それにシンクロして動く赤い点が、
人の背中を動くテレビの映像を見ます。
すると被験者は画面の人の背中が自分の背中だと錯覚し、
自分の体が浮いたと錯覚するのです。
「なんというか急に体が浮き上がり、
ひっくりかえるような不思議な感覚でした」
実験を行ったオーラフ・ブランケ博士。
体脱体験は脳の錯覚だと考えています。
「体脱体験は間違いなく、
脳のデータ処理ミスから起こっています。
たとえばここに座っている私の脳の中では、
左足、右足、腕はどこにあるか、頭の向きはどっちか、
情報の確認が自動的に行われています。
いわば我々のGPSが作動しているのです。
しかしエラーが起きると全く別の場所に自分の存在を感じたり、
体が二カ所同時に、
存在しているように感じたりしてしまうのです。
体が起きあがる感覚は脳の錯覚で起こることがわかりました。
しかし何故死の間際の脳でその錯覚が起こるのか、
離れた場所を浮遊するという体験はどう説明出来るのか、
臨死体験には依然多くの謎が残ります。
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