イギリスのウェールズにマーガム城とという、
幽霊に取り憑かれた古城があります。
もとは修道院があった場所に現在の城が築かれました。
かつてこの城では凄惨な事件が起きました。
百二十年前に起きたマーガム殺人事件です。
城で働く男が進入者に銃で何度も打たれ無惨に殺されたのです。
以来、数々の不可思議な現象が目撃されているといいます。
その多くが広間にある大階段の周りで起こっています。
男の姿が目撃され、彼がいた場所に行くと、
真冬のような冷気を感じるというのです。
突然の冷気とともに現れる男の影。
多くの人が目撃したと言います。
さらには金属質な音が空気中を漂うように聞こえて来たり、
第二次世界大戦中にこの城に駐屯した軍隊の兵士たちが、
不気味な光が宙を漂うのを目撃したというのです。
2013年、この城に心霊研究協会の科学者たちが、
調査に訪れました。
その結果、実際に冷気を感じた学者が何人かいましたが、
意外なことに室内の温度に変化は見られませんでした。
しかし反面、戦争中に兵士たちが見た、
不気味な光を目撃したという部屋では、
異常な数値を示した電磁波が観測されたのです。
電気をまったく使用していない場所ではありえない数値でした。
温度変化や風の動きを伴わない冷気。
そして異常な電磁波。
マーガム城のデータは世界中の機関に送られました。
そのうちのひとつ大阪バイオサイエンス研究所。
ほ乳類の行動と、脳や遺伝子の関係を解明する研究で、
世界に知られる小早川令子博士。
博士が行ったのは謎の冷気の原因を探る分析です。
手がかりとなるのはネズミを使った最新の実験です。
まずはネズミの体温をサーモグラフィで測定します。
通常であれば体温は37度。
そこにある薬品を染み込ませたシートを入れると、
ネズミは突然動かなくなってしまい、
体温がみるみる下がり34度になったのです。
特に背中の部分の体温が下がっています。
まさに背筋が凍るという状態です。
実はシートに染み込ませていたのは天敵である蛇の匂いでした。
恐怖を感じるとネズミの体温が下がることが、
初めて実証されたのです。
「ネズミの天敵の一つに蛇がいます。
体表面の温度を下げることで蛇から見つかりにくくなるのです。
恐怖を感じたときに危険から身を守るために、
防衛本能として非常に重要なのだと思います」
小早川博士はこの本能が、
マーガム城の冷気の正体ではないかと推測しています。
実はその生存本能が別の心霊現状を起こしているといいます。
あの男の幽霊です。
ロンドン大学の心理学者クリス・フレンチ博士。
人間はなんでもない模様が人の顔に見えてしまう、
という特殊な性質を備えています。
パレイドリア効果と呼ばれるものです。
「パレイドリア効果とは意味のないランダムな模様の中に、
顔などの形があると思わせてしまう一種の脳の錯覚です。
これは人類が進化の中で獲得した能力です。
人間にとって顔の表情は非常に重要な情報です。
周りには常に敵がいる可能性があります。
そのため人の顔をいち早く捉えて敵か味方かを認識し、
迫り来る危険に備える必要があったのです」
人の顔を認識し判断して危険を察知する能力。
これこそが遊泳の正体ではないかと博士は考えています。
ではマーガム城のもう一つの不可思議な現象、
オレンジ色の不気味な光はなんなのでしょうか。
この部屋で計測された電磁波と関係があるのでしょうか。
それについてはこれまでにも一つの有力な仮説がありました。
ドイツにあるマックスクランク研究所。
ここでは光の玉を人為的に発生させる実験をおこなっています。
水槽の中央の電極に強い電流を流すと、
空気中に現れた輝く光、プラズマが現れるのです。
このプラズマがあの不気味な光の正体ではないか、
と言われてきました。
しかし強い電流を流すことが出来るこの実験室でも、
プラズマが現れているのはわずか0、5秒。
多くの人が目撃したように、
一定の時間光の玉が動き続ける理由は謎のままでした。
それを解決する新たな説として、
最新の研究が注目されています。
スウェーデンのウプサラ大学のバーノン・クーレイ博士。
電磁波について研究をおこなっています。
クーレイ博士が注目したのは電磁波と脳の関係です。
TMSという電気を磁気を利用して、
脳を刺激する鬱病などに使用される機械があります。
頭を磁気で刺激し電流を流します。
このとき患者にはあるものが見えると言います。
「なにが見えたのが患者に書いてもらいました。
それはマーガム城で兵士たちが見た、
不気味な光とよく似ています。
ではなぜ光の玉が見えたのか。
「電流は脳の視覚野を活性化させます。
そうすると実際には光が発生していないのに、
幻覚を見ることがあるのです」
そしてその刺激が続く間は光の幻覚を身続けるといいます。
第二次大戦当時マーガム城で、
強力な電磁波が発生していたとしたら、
兵士たちが見たオレンジ色の光は、
幻覚だった可能性があるのです。
今回の調査で解明されつつあるマーガム城の不可思議な現象。
しかし依然残る謎もあります。
そもそも電気が通じていない部屋で、
何故電磁波が発生したのか、
さらに不思議な金属音や物が動くという現象の、
原因はなんだったのか。
マーガム城の調査はこれからも続きます。
▶︎近景