ポスター張り | 田窪一世 独白ノート

田窪一世 独白ノート

ブログを再開することにしました。
舞台のこと、世の中のこと、心の中のこと、綴っていきます。

 

中学生になると、

映画のポスター張りを手伝うようになりました。

 

自転車にポスターを積んで町中のポスターを張って回ります。

当時、映画産業はそろそろ斜陽になってきており、

お客が入らなくなっていました。

東映は時代劇からヤクザ路線に、

日活はアクションからロマンポルノへ。

 

ある日のこと、上映が終了したポスターを剥がし、

次回上映のポスターを、

自転車の荷台から取り出したそのとき、

うしろに人の気配を感じました。

振り返ってみると、

そこには同級生の女の子とそのお母さんが立っていました。

「偉いわねえ、お手伝い?」

「は、はい」

「今度の映画はなに?」

「いや、そんな、大したやつじゃないです」

「そう」

母子はニコニコ笑って、その場を動こうとはしません。

僕は覚悟を決めて次回上映のポスターを広げました。

目の前に画面いっぱいの白い女体が現れました。

僕は黙々と画鋲を押し続けました。

作業が終わって振り返ると、

母子の姿はもうどこにもありませんでした。

 

 

▶︎多摩川