画鋲 | 田窪一世 独白ノート

田窪一世 独白ノート

ブログを再開することにしました。
舞台のこと、世の中のこと、心の中のこと、綴っていきます。

 

ポスター張りでもうひとつ。

 

町中のポスターを、

張り替えて回るときに必要なのが画鋲です。

ところがこの画鋲が入った缶が錆びていて、

いちいち開けたり閉めたりするのが面倒でした。

(そうか大工さんみたいに口に画鋲を入れておけばいいんだ!)

これは名案とひとつかみを口に放り込んで、

自転車を発車させました。

 

ところが当時の田舎道はデコボコだらけ。

大きな穴に自転車がガダンと入った瞬間、

画鋲を飲み込んでしまいました。

あわてて自転車を止めてオエーッと吐き出すと、

喉の奥から画鋲がひとつ出て来ました。

やれやれ助かったと思って家に帰ってしばらくすると、

なんだか吐く息が錆くさいような……。

それに胸のあたりがチクチクするような……。

トイレに入って何度もオエーッとやってみたり、

逆立ちしてみたりしましたが、

一向に出て来る気配がありません。

 

けっきょく母親に事情を説明して病院に。

すぐにレントゲンを撮ってもらったところ、

やはり肺の入り口のところに引っかかっている画鋲を発見。

でも、もし肺の中に入っていたら、

背中を切り開いて大手術する必要があったとか。

不幸中の幸いでした。

 

で、先っぽにカメラとマジックハンドがついた鉄の筒を、

口から入れて画鋲を取り出すことになりました。

僕が何度もオエーッと吐きそうになってることなど構わず、

医者は鉄の棒をするすると入れていきます。

そして画鋲を発見するや、隣にいた看護婦さんに、

「君、君、ちょっと見てみたまえ」

(おいおい、ちょっと見てみたまえはないだろ、勘弁してよ)

僕は心の中で思わず突っ込んでいました。

 

まあ、でもその直後、

無事に画鋲を取り出すことが出来て一安心。

あんなことやこんなこと、みんな懐かしい想い出です。

 

 

▶︎近景