ポスター張りでもうひとつ。
町中のポスターを、
張り替えて回るときに必要なのが画鋲です。
ところがこの画鋲が入った缶が錆びていて、
いちいち開けたり閉めたりするのが面倒でした。
(そうか大工さんみたいに口に画鋲を入れておけばいいんだ!)
これは名案とひとつかみを口に放り込んで、
自転車を発車させました。
ところが当時の田舎道はデコボコだらけ。
大きな穴に自転車がガダンと入った瞬間、
画鋲を飲み込んでしまいました。
あわてて自転車を止めてオエーッと吐き出すと、
喉の奥から画鋲がひとつ出て来ました。
やれやれ助かったと思って家に帰ってしばらくすると、
なんだか吐く息が錆くさいような……。
それに胸のあたりがチクチクするような……。
トイレに入って何度もオエーッとやってみたり、
逆立ちしてみたりしましたが、
一向に出て来る気配がありません。
けっきょく母親に事情を説明して病院に。
すぐにレントゲンを撮ってもらったところ、
やはり肺の入り口のところに引っかかっている画鋲を発見。
でも、もし肺の中に入っていたら、
背中を切り開いて大手術する必要があったとか。
不幸中の幸いでした。
で、先っぽにカメラとマジックハンドがついた鉄の筒を、
口から入れて画鋲を取り出すことになりました。
僕が何度もオエーッと吐きそうになってることなど構わず、
医者は鉄の棒をするすると入れていきます。
そして画鋲を発見するや、隣にいた看護婦さんに、
「君、君、ちょっと見てみたまえ」
(おいおい、ちょっと見てみたまえはないだろ、勘弁してよ)
僕は心の中で思わず突っ込んでいました。
まあ、でもその直後、
無事に画鋲を取り出すことが出来て一安心。
あんなことやこんなこと、みんな懐かしい想い出です。
▶︎近景