暗転 | 田窪一世 独白ノート

田窪一世 独白ノート

ブログを再開することにしました。
舞台のこと、世の中のこと、心の中のこと、綴っていきます。

 

ある舞台人が、

「暗転はごめんなさいの時間だから、

出来るだけ短くしなきゃいけない」

と言っているのを聞いて、

だったら暗転のない芝居にすればいいじゃないと、

心の中で突っ込んだことがあります。

でも僕自身は暗転を、

けっしてごめんなさいだと思っていません。

 

普通、暗転中にはブリッジといって音楽を流します。

でもあくまでも「ごめんなさい」ですから、

転換が早く終われば、

すぐに音楽をフェイドアウトして明かりを点けます。

僕にはこの考えが昔から疑問でした。

つまり転換を早く終えることが一番なので、

音楽は途中でカットされるわけです。これが気持ち悪い。

だったらやっぱり暗転などないほうがいい。

 

で、あるとき発想を変えて、

音楽をたっぷり聞いてもらうことにしました。

実際、僕が演出する舞台の場合、

だいたいジャズが多いのですが、

ひとつの作品に一人のアーティストを選んで、

その人の曲だけを流します。

世界観を統一したいからです。

 

だから曲もちゃんと聞いてもらいたいのです。

ですからたとえ転換はとっくに終わっていても、

曲が一区切りつくまではフェイドアウトしない。

つまり音楽の方をメインに考えたわけです。

場合によっては1分近くまでのばしたこともあります。

でも結果お客さんの評判は上々でした。

「音楽に浸れて心地いい」

「ほっと一息出来る」

「暗い中でいろんな感慨が浮かんでくる」

「むしろ短く感じる」

ようするに生理的に気持ちいいかどうかなんだと思うのです。

 

「暗転はごめんなさい」という概念は、

いかにも左脳で論理的に考えた意見だと思います。

暗転を長くして以来、

いまだに「長い」というお客さんはいます。

でも、それはたいがい演劇関係者だったりします。

 

 

▶︎近景