昔、役者の修行を始めたころ、
大先輩が教えてくれた言葉です。
舞台俳優にとって一番大事なのは声だ。
俳優は客席の一番後ろのお客さんにも、
ちゃんと聞き取れるようにしなければならない。
だから発声練習は大事だ。
もともと大きな劇場で、
俳優が不自然に大きな声で喋っていることに、
違和感を感じていた僕としては、
この発声が1番という考えにはずっと疑問でした。
当時の先輩俳優の中には、
普段の会話でも妙に朗々と、
声を響かせるようにして話す人がいたりして、
ちょっと閉口してました。
でも確かに観客に声が聞こえないんじゃ意味はないし…。
ずっと暗中模索してきた課題のひとつでした。
自分で劇団を維持するようになってからも、
稽古場ではリアルに、
相手役とだけ会話しろと俳優たちに言うのですが、
劇場に行くと途端に不安になります。
そこで俳優たちに大きな声は出さなくていいけど、
一番後ろのお客さんは意識して、
などど中途半端な指示をしていました。
人と人がお互い向き合って、
その人にちゃんと意図が伝わるように会話する。
それだけでいい、それに応じた声のボリュームでいい、
そう割り切るまでには長い時間がかかりました。
それに合った広さの劇場の確保も大切です。
しかし、そう割り切って以降の、
お客さんの反応も意外や意外好評でした。
「声が小さくてもちゃんと聞こえる」
「小さいから芝居に集中出来る」
それでもやはり「声が小さくて聞き取れない、
俳優はちゃんと発声練習をするべきだ」
というお客さんはいます。
でも、それもたいがい演劇関係者だったりします。
▶︎近景