真夜中のピアノ③ | 田窪一世 独白ノート

田窪一世 独白ノート

ブログを再開することにしました。
舞台のこと、世の中のこと、心の中のこと、綴っていきます。


3、哲也と里香


明くる日から、女の子はいつも哲也と一緒だった。

学校へ行くときも、塾へ行くときも、

片時も離れることがなかった。

哲也自身、最初はそういうのってちょっと困るな、

いごごち悪いなと思っていたのだが、

そのうちにだんだん気にならなくなってきた。


女の子の姿は哲也以外のだれにも見えないので、

「その子だれ?」といちいち聞かれることもないし、

なにしろめちゃ可愛い子だし、

だれかがそばにいるときだけ、

その子に話しかけないようにさえすれば、

何の問題もないわけだし、

それよりなにより、

その子がそばにいてくれるとなんだか落ち着くのだ。


二人きりになったときに、

女の子は哲也のことを心配して、

こんなふうに言ってくれるのだ。

「あなたが楽しいときは、わたしも楽しいの。

 あなたがいい気分のときは、わたしもいい気分なの。

 だけど、あなたが辛いときは、わたしも辛いの。

 あなたがいやな気分のときは、わたしもいやな気分なの。

 だから、あなたにはいつも楽しいいい気分でいてほしいの」


女の子にそんなふうに言われると、

哲也は例のストレスというやつが、

すうっと無くなっていくような気がした。

そして、哲也はもうずっと前から、

その子と一緒だったような気さえしてきていた。

「ずっと一緒だったのよ」

哲也がそのことを言うと、

女の子はなんでもないことのようにそう言った。


「そんな馬鹿な、君がボクとずっと一緒だったなんて」

「一緒だったのよ」

「だって、ボク君の名前だって知らないよ」

「里香よ」

「リカちゃん?」

「そう、里香って名前なの、わたし」


女の子はそう言うと、

とても懐かしそうな表情で哲也を見つめた。

哲也には、女の子の表情の意味が全然わからなかった、

ただ、なんだか心臓がドキドキして、

思わず目をふせてしまったのだった。



▶︎みりん