真夜中のピアノ① | 田窪一世 独白ノート

田窪一世 独白ノート

ブログを再開することにしました。
舞台のこと、世の中のこと、心の中のこと、綴っていきます。


1、ストレス


杉本哲也の毎日はストレスとの戦いだった。

学校で感じるストレス。

塾で感じるストレス。

家で感じるストレス。

ストレスのせいで哲也の目はどんよりとくもり、

肌はカサカサになり、

人と話すことがおっくうな少年になっていた。


哲也に「ストレス」という言葉を、

教えてくれたのはパパとママだった。

ある日ある時、パパがママにどなった。

「うるさいな、俺は会社でストレスがたまってるんだ!」

ママだって負けずにどなりかえした。

「なによ、わたしだって家にいてストレスがたまってるのよ!」

哲也はこのとき思った。

(ははあ、つまりこういうふうにいらいらしてるときに、

「ストレスがたまる」って言うんだな)そして、

(だったら、ボクだって毎日ストレスがたまってるよ)

と思った。

だけど、哲也はそれを心の中で思っただけだった。

だって、パパやママにそんなこと言ったってねえ……。


哲也が尊敬しているのは「槙原敬之」だ。

自分で曲を作って自分で歌う、

ああいうのってカッコイイと思う。

実は、哲也も小さい頃からピアノを習っていて、

自分ではなかなかの腕前だと思っている。


だから、大人になったら槙原敬之みたいに、

自分で曲を作ってテレビに出て、

有名になりたいと思ったりしてるのだ。

でも、今は私立中学に入るために、

受験勉強をしなくちゃならない。

だからピアノも一年くらい弾いてない。

ときどき気分転換に弾きたいときもあるんだけど、

ママが鍵をかけてしまったので弾くことが出来ない。

でも、哲也はママを責める気にはなれない。

だってママは哲也のためを思ってくれているのだから。


それにしても、哲也の毎日はストレスとの戦いだ。

どういうわけだかいらいらするのだ。

だから、思ったほどには成績は上がらない。

おかげでママはいらいらする。

おかげで哲也だっていらいらする。



▶︎みりん