小学校4年生の頃のことです。
算数の宿題でわからないところがあり、
映画館の切符売場にいた母親に聞きに行きました。
ところが母は「いま忙しいから」と教えてくれませんでした。
僕はなんだか無性に腹が立って、
「答えがわからんから教えてくれんのじゃ!」
観客のいる客席の通路を、
大声で文句を言いながら母屋に戻りました。
すると母が血相を変えて追いかけて来て、
「教えてあげるから座りなさい!」
と険しい顔で言いました。
僕は普段穏やかな母親が、
ヒステリックになっていることにびっくりしました。
僕は泣きながら母に算数の問題を教わりました。
母も泣いていました。
淋しかったのです。
父と母は朝から晩まで働いていました。
しかも下の弟は生まれたばかりの赤ん坊でしたし、
上の弟はまだまだ甘えたい年頃で、
母の愛情は弟たちに注がれていました。
長男の僕は母親が困るだろうと甘えるのを我慢していました。
だから算数の問題を教えてもらうという名目で、
母に甘えたかったのだと思います。
自分もかまってもらいたかったのです。
もしかしたら、そんな僕の気持ちを、
母も察していたのかもしれません。
だから母は感情的になったのだと思うのです。
女性が子供を生んだあとに仕事に復帰する。
この不況の最中そういうケースは多々あると思います。
でも、もし経済的に許されるのなら、
出来るだけお子さんのそばにいてあげてください。
お母さんの生き甲斐は仕事ではなく、
お子さんでいいんじゃないでしょうか。
