映画館で儲けた祖父は、
そのお金で海水浴場のオーナーになりました。
それが愛媛県にある唐子浜海水浴場です。
もともと愛媛県今治市の出身だった祖父にしてみれば、
故郷に錦を飾るというような気分だったのでしょうか。
僕の父と母も海水浴場を一緒に手伝うことになりました。
僕と弟も一緒に連れていってもらいましたが、
弟はまだ2歳だったので海水浴場からほど近い、
親戚の家に預けられることになりました。
大人になってその頃のことを弟に聞くと、
縁側にスダレの掛かった薄暗い部屋に、
一日中、放って置かれたことしか覚えてないと、
毎日が地獄のようだったと話してくれました。
僕にとって海水浴場は天国でした。
なにしろ海は泳ぎ放題。
祖父が経営する釣り堀では、
従業員のオジさんに餌をつけてもらって、
魚が釣れたらそれをまた従業員のオジさんに差し出せば、
魚から針をはずしてまた餌をつけてもらえます。
お腹がすいたら祖父が経営するレストランに行って、
毎日毎日ビフテキを注文します。
あんなに充実した夏休みはありませんでした。
しかし、その夏は冷夏でした。
楽しかったのは僕だけだったようで、
祖父の事業はそのころから少しずつ傾いていきます。