映画館の館主だった祖父は、
ときどき京都東映太秦撮影所に、
他の地方映画館の館主さんたちと一緒に招待されて、
撮影所見学に行きました。
子供の頃、僕も何度か連れて行ってもらったことがあります。
昭和30年代、当時は東映時代劇の全盛期でした。
僕の大好きな俳優さんは中村錦之助さんと大川橋蔵さん。
あるとき撮影所内を見学していた僕のそばに、
大川橋蔵さんが歩いていらっしゃいました。
祖父は僕を抱き上げて「ほれ、抱っこしてもらいなさい」
と言ったんだそうです。
橋蔵さんも笑顔で手を差し出してくれました。
ところが僕は火がついたように、
「橋蔵じゃない!橋蔵じゃない!」
と泣きじゃくって抱かれるのを拒絶したらしいのです。
実はそのときの橋蔵さんは素顔でした。
映画の中で化粧をほどこした橋蔵さんと、
素顔の橋蔵さんはまるで別人でした。
このことまったく記憶にありません。
でも、大変失礼いたしました。ひらにお許しください。
ちなみにうちには、
大友柳太朗さんに抱っこしてもらってる僕の写真があります。