泣く演技をするときに、
昔、死んだ愛犬のことを思い出して泣く、
というのをときどき聞きます。
これ、相手役の俳優さんに大変失礼だと思うのですが。
昔、飼っていた犬にしろ、たとえそれが人間の家族であれ、
その記憶は俳優個人の過去の記憶です。
つまり、それは役の悲しみではありません。
たとえば、死んでしまった人を、
目の前に泣かなければならないとき、
自分の演じている役と相手の役との間にあったことを思い出す。
それも出来るだけ心の琴線に触れてくる出来事を。
台本に書かれてあることを手がかりに、
人物の心情や心理を出来るだけ具体的に想像する。
誰にも言えない、自分とその人だけの秘密。
もしくはその人にも話していない引け目に思うこと。
そんなことを想像していると、自然と気持ちが動き始めます。
最近聞いたことですが、
なんと人間の脳は、
現実と想像の区別がつけられないらしいのです。
俳優にとって、これは朗報です。
▶︎青山