2010年代、各地でローカルアイドルが生まれた頃によく言われた「アイドル文化」という言葉。
それまでのアイドルファンのアイドルとの向き合い方は、よほど熱狂的ではない限り、年に数回、大きいホールでコンサートを見て、あとはCDを聴いたりテレビを見るというマスコミュニケーション的なものだった。
それが2010年代に「会いに行けるアイドル」のブームが発生したことで、毎週のように生のアイドルを見て、生活の中にアイドルが入り込むようなパーソナルコミュニケーション的なものを取り入れたアイドルとの向き合い方が生まれ、各地で試行錯誤されていたのだ。
年に数回だけ生でライブを見て、あとは動画を何度も繰り返し見るのではなく、年に何十本もライブを見て、その1回1回のライブでしか起こりえない聖なる一回性を楽しむ。
ヲタクは毎週ライブを見るために集まり、アイドルも毎週どこかでライブをやってくれている。そんな文化が生まれていた。
そのひとつの成功例として佐賀の656広場で行われる「もくむつライブ」というものがあった。
去年もたまに「もくむつライブ」の冠をつけられたライブが656広場で行われていたが、本来このライブは2019年ごろまでは毎週木曜日の18時半から行われていた。しかもその「もくむつライブ」は全盛期には400人近い観客を集めていたのだ。いまや佐賀のヲタクには伝説のライブである。
そんな佐賀のアイドルヲタクにとっての聖地656広場で、昨日はひぜんりささんの生誕祭が開催された。
5年前ぐらいにピンキースカイが生誕ライブをした以来のサガンプロ主催アイドルの656広場での生誕祭。
この日は二部制だったが、一部、二部共にトップバッターを務めたのは主役のひぜんりささんの事務所の先輩で、もともと佐賀にアイドル文化を生み出した張本人、元ピンキースカイの園田有由美さんだった。
一部のMCで「ここ656広場はわたしにとっても思い入れの深い場所です」と言われていた園田さんが「君に届け」を歌えば、古の佐賀のヲタクたちは懐かしさもあって興奮のるつぼと化し、初めて見る人もそのアイドル離れした歌唱力に圧倒される光景が広げられていた。
そして忘れていけない園田さんの魅力はその歌唱力だけではない。曲中のコールレスポンスやMC中のヲタクとの絡みなど、その日しか見られない聖なる一回性を感じられる抜群のステージングも大きな魅力だ。さすがこれまでもくむつライブを提供し続けた実力は伊達ではなく、この日も、この日この場でしか見ることのできない一回限りの楽しさを、持ち前の頭の回転の速さで場を作り提供してくれた。
更に二部でやっていた園田さんの作詞作曲曲「楽譜も読めん私が書いたラブソング」や「バイバイ、またね」などアイドル時代とは一味違う進化も見せてくれたのも特筆したい。
長崎で活動しているふりぃだむがーるずは全く予備知識もなく、もともとアニソンも詳しくなかったけれど、なにげに元アイドルさんもいて楽しくステージをやっていたのが印象的だった。
クオリティとかいろいろと評価したがるのがヲタクだけど、まずアイドル文化としてはステージは楽しませたもの勝ち。それが一番大事でその原点を思い起こさせるようなステージだった。
久々656登場の藤崎みくりさんは、実は主役のひぜんりささんとこの日のイベントを司会をしていた吉川りおさんと同い年で「りりりOSSA」というユニットをこの三人で組んだこともある仲。
こちらも相変わらずの楽しんだもん勝ちのステージを見せてくれたが、久々に「デジタルラブ」をやってくれたのがうれしかった。2012年に逝去された西森桃弥さんの楽曲で、大分のアイドルが元々は歌っていた東九州のアイドルヲタクには伝説の神曲。この曲を延岡市という東九州出身の藤崎みくりさんが歌い続けているのはすごく大事なことと感じている。
MONECCO5時代には、天草から遠いのに年初のイベントにもくむつライブを選んだこともあるファイブエンターテイメントのRe:fiveは、かつてMONECCO5が佐賀でもおなじみだったように、また先週の天草では園田有由美さんが天草の空気に合わせたセトリで天草のヲタクを沸かせたように、この日はフリーライブの佐賀の空気をよく読んでた。
前日のツイッターでひぜんりささんがRe:fiveの紹介に「朝からカツカレーを」とツイートしたため、一部の一曲目は「朝からカツカレー」。おー、しょっぱなからやるなあと思ってたら二曲目も「朝からカツカレー」。先週の卒業ライブの橘かえでさんの名言「二度あることは三度ある」を天草にいたヲタクが思い出すようにつぶやいていたら三曲目も「朝からカツカレー」だった。もうここまでくればお約束の空気ができていたが、柊わかばさんがしっとりともったいぶって「それでは最後の曲になります」と言ったあとにかかったイントロも「朝からカツカレー」だった。まさに「まさかのカツカレー」。最後には吉川りおさんと藤崎みくりさんもステージに上がってのRe:fiveも含めての6人で、ひぜんりささんの誕生日を祝うように盛大な「朝からカツカレー」だった。
二部は「君とRestart」「St…you」「なんてんまんてん」「ダンデライオン」と定番のセトリ。橘かえでさんが卒業された初のイベントだったが、一部でその空気を吹き飛ばすようにカツカレーを連発したことで新しい一歩が踏みだせて、これからも前に進めんでいけると感じた。
そして主役のひぜんりささん。
園田さんのステージを見て、そのあいだにいろんなアイドルを楽しんで、最後にひぜんさんを見ると、やはり彼女はサガンプロだなと感じられる安心感がある。
サガンプロの特徴、というとそれはそのまま園田さんの特徴になるのかもしれないけど、特に656広場ということもあるのかもしれないけど、この日この場所でしか感じられない聖なる一回性を生み出すことと思う。
フロアとのコールレスポンス、ステージの端から端まで走ってその場にいるひとりひとりに同じ場所にいまいる奇跡を感じさえるステージングは、園田さんも見事だがひぜんさんもうまい。
更に「いま世界で一番幸せ」と何度も口にし、この日を盛り上げるためにステージの飾りつけをはじめ様々な準備をした生誕委員をねぎらい、会場にいるすべての人に最上級の言葉で生誕祭への感謝と、この生誕祭に来たことの楽しさを伝えている姿は流石だった。
また、ひぜんさんのステージングは園田さんより一層ポライトに感じる。
それはピンキースカイが最初の頃、「歌のお姉さんみたい」と言われていた頃の雰囲気を継承しているのかもしれないが、初見の人も一緒に楽しめるようにすごくポライトなのだ。その細心の配慮のされたステージはやはりうまいなあと舌を巻いた。
そして楽曲は「ひぜんりさワールド」とも言える個性的な世界を作り上げている。
一部での「ももものがたり」のイントロが流れた瞬間の盛り上がりはすごかったし、「かぐや」「とらららら」と、これはいまやひぜんりささん以外に歌いこなせない、むしろひぜんりささん以外がカバーしてもひぜんりささんになってしまうような強烈なオリジナリティはさすがの一言だった。
そしてラストの「はっぴーはっぴーはっぴー」。
生誕委員さんの準備されていたサイリウムを全員が振っての本日の主役、ひぜんりささんをお祝いする最後の曲。
そこでコロナ禍も落ち着いたこともあったのだろう。久しぶりにひぜんさんはステージから降りてファンの間を歩きながら歌ってくれたのだ。
もちろん近くにひぜんさんがやってきたファンは大盛り上がり。
これこそが真の聖なる一回性。
まさにこの場でしか味わえないパーソナルコミュニケーション。
素晴らしかった。
そして、久しぶりに656広場でこんなライブが開催されたこともよかったと感じた。
4月22日は今度は園田有由美さんの生誕祭もここ656広場であるらしい。
この日を見た感じ、22日も盛り上がりそうである。
そして昨日の生誕祭は、まさに、ひぜんりさが佐賀のアイドル文化を復活させた日になったと感じた。