ZASSHO JAM 藤崎みくり 「雑餉のみなさんはじめまして」が最高だったワケ | 君が好き

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2月15日水曜日、藤崎みくりさんが出演するZASSHO JAMに行ってきた。
かつては国鉄雑餉隈(ざっしょのくま)駅という日本有数の難読駅だった現・JR南福岡駅前で腹ごしらえをして、歩いて五分ほどで会場のZASSHO JAMへ。
このあたりはぼくが二十代の頃は、雑餉隈を略してざっしょと呼んでそれなりの歓楽街だった。その空気はいまも健在で、楽しげなネオンが街に浮かんでいる。
告知では開場が20時になっていて、ぼくが到着したのは20時10分ぐらいだったと思う。
初めて入るZASSHO JAM。どんなところだろうと、ライブハウスらしい重い扉を開くと、長めのカウンターとテーブル席のある広めのバーという感じだった。カウンターでは常連客らしき方がすでに楽し気にもりあがっていて、一瞬違う店に入ったのかと戸惑ってしまった。
店員さんに「藤崎みくりライブのお客様ですか?」と聞かれ、「そうです」と答えて入場料を払う。
どうもシステム的に普通にバーを楽しんでいるお客さんもいらっしゃるようだった。
ただ、結論から言うとそれがこの日はすごくよかった。

バーの常連さんや店員さんから「ファンの方は前で見られてください」とステージ前の最前席を勧められ、勧められるままに着座すると、藤崎みくりさんが出てきた。ステージではなく、フロアにである。
白のステージ衣装の上にパーカーを羽織ったみくりさんは「ようこそ」と笑いながら、ぼくらがタバコをふかしているテーブルに座り、「はじめて雑餉に来たから迷った」などと話し出す。
当たり前なのだが、普段ステージや物販など多少の距離がある場所で見ているアイドルさんが横に座るとそれは抜群にきれいで、ぼくらはヲタクらしく「みくり、きれいになったね」などと謎の上から目線で話してしまうが、どうやらこれはあとでツイートで知ったのだが前物販というものだったらしい。



20時25分頃にその前物販が終わり、ステージにみくりさんが向かおうとすると、カウンターで飲んでいるお客さんから「がんばってね!」と声が飛ぶ。奥のテーブル席には家族連れもいらっしゃって、その家族連れの小学生の女の子がやっとみくりさんの存在に気付いたのか、「かわいい」と声をあげたのが聞こえた。
ライブ前になり、戦闘モードに入るためにぼくは「みくりマスク」を被った。カウンターに座っている常連さんから「あのファンの人、熱狂的だ。マスクをかぶった」と言われた。



ただ、このライブ開始直前から会場の雰囲気はぼくらヲタクにも好意的で、おそらく常連客の方々はアイドルライブをどこまで楽しみにされていたかはわからないが、「前物販」で会場に姿を現したみくりさんのかわいさに好意的になり、これから登場するみくりさんのライブを楽しみにされている空気があふれ、最前に陣取ったヲタクのぼくらもその空気は心地よかった。

フロアの客電が落ち、プロレスの入場曲のようなSEが流れ、いつものように名前の書かれた書道紙を持って「オイ! オイ!」とあおりながらのみくりさんの登場。そのまま一曲目を唄う。
バーだったので、後ろに普通のお客さんもいらっしゃったので座って見ていたが、いつものように楽しい、声出しも自由にできた藤崎みくりさんのライブだった。

ぼくがこの日一番うれしかったのは、カウンターで飲んでいるお客さんから「口パクじゃなくてちゃんと歌ってるよね」「歌うまいよね」という声が聞こえたことだ。
実はこの日、アイドルを迎えるということでZASSHO JAMはBGMにおニャン子クラブが流れていた。約40年前のアイドルである。
その頃から比べるとアイドルというのは進化している。それにテレビで見るアイドルとは違う、みくりさんのようなライブアイドルにはライブアイドルなりの、ファンとコミュニケーションを取りながらライブを進めるノウハウもある。
それらがカウンターでお酒を嗜まれているアイドルを見に来たわけではない方々にかなり好意的に受け入れられているのが、ぼくはうれしかった。
前物販で「ステージの時間は30分ぐらい」と言われていたが、いつものみくりさんのライブを楽しむぼくらと、ライブアイドルの魅力を新鮮に感じているバーのお客さんを前に、ライブはきっかり30分で終了した。

ライブ終了後、フロアの照明が戻り、普通のアイドルイベントならば「このあと物販を開始します」とアナウンスが流れるタイミングで、「このあと藤崎みくりさんがみなさまのもとにご挨拶に参られます」と放送された。
ここでぼくはきっと延岡時代にお祭りで揉まれていたみくりさんが生きるんだろうなと感じていた。
延岡時代、お祭りのイベントに呼ばれた藤崎みくりさんはあえて物販をしていなかった。かといって、ライブが終わったらさっと帰っていたわけでもなく、ずっと会場にいた。ステージ衣装のまま、会場をまさにゆるキャラのようにブリーフィングしていた。なんなら残っているぼくらヲタクも巻き込んで、実行委員の人と祭り会場の片づけの手伝いまでやっていたこともある。
「みくりさんご登場です」とアナウンスが流れ、ライブ直後とあり、フロアは拍手に包まれる。
「ありがとうございました」とひとりひとりのお客さんに声をかけるみくりさん。カウンターで飲んでいるお客さんから「また来てくださいよ」と言われたら、マスターに「また呼んでくださいよ」と返して笑いに包まれていた。
また細かいことだけど、チェキが一枚500円とリーズナブルなのもぼくらのようにヲタクではない人間には受け入れてもらいやすいなと感じた。
なお、このままずっといたいほど幸せな空気だったが、平日だったので、ぼくは21時半ぐらいで切り上げた。
「帰ります」とマスターに言うと、マスターは「みくりさん、ファンの方がお帰りです」とみくりさんに声をかけたが、そのときみくりさんは家族連れで来ていた小学生の女の子と「あっちむいてほい」に夢中だった。
その「あっちむいてほい」の手を止めて、「ありがとう、じゃあね」とみくりさんに見送られてZASSHO JAMを出たが、こういうスタイルって本当にいいなと思った。

コロナ禍が落ち着き、お祭りなども復活の兆しを見せては来るだろうが、現在、特にライブアイドルはアイドルヲタクをどれだけ取り込むかにかかっているように感じる。
それは経済的にみると、アイドルヲタクがアイドルにお金を使う一番の上客であるから当然のことなのかもしれない。
ただ、アイドルの存在意義はアイドルヲタクを楽しませるだけのものかと言えば、そうではないだろう。
小さい女の子のあこがれであったり、あまりアイドルを見ない人に「かわいい子がいるな」と思わせることも大事だと思う。テレビ局が容姿端麗な女性アナウンサーを重要視しているように、「かわいい子」というのは人の心を癒す需要が確実にあるのだ。
しかし、悲しいかな、ここ数年、たくさんの人を集めることが犯罪的に言われていたこともあったコロナ禍では、アイドルは熱狂的なアイドルヲタクの前でしか姿を見せることができなかった。
だからぼくらもそれを当たり前のように感じ、ライブアイドルは年々減少しているアイドルヲタクのパイを取り合っているなどと分析していたが、実際にはアイドルヲタク以外にも好意的に受け入れられる潜在的魅力をかなり抱えているものなのである。
それを証拠に、藤崎みくりさんはこの日、カウンターでお酒を飲んでいる人たちをたくさん楽しませていた。家族連れの女の子を夢中にさせていた。
もちろんそこには、中学生の頃からの長いキャリアで培われた藤崎みくりさんの完成されたアイドル力があるからなのは間違いないが、その藤崎みくりさんの魅力をここまで好意的に受け入れてくださったZASSHO JAMは、ここ数年狭い世界しか見てなかったアイドルヲタクのぼくから見たら新鮮で素晴らしい空間だった。
ぜひ次回も行きたいです。