それはまさに事件だった。
2023年12月3日、熊本のアイドルヲタク界隈に衝撃と動揺が走った。
1月14日にデビューする熊本の新アイドルグループPOTIONのXのポストだった。
「1/14(日)のPOTIONデビューライブイベントに関しまして
先日チケットが設定枚数を完売いたしました✨」
ぼくもこのポストに動揺したひとりだ。
2024年の1月14日で会場も熊本ではそこそこ広いライブハウスNAVARO。
チケットの発売開始は11月11日だったが、ライブは2か月も先の話である。
Re:fiveの出演が決まっていたのでぼくもこのライブには行きたいなあと思っていたが、現在の熊本アイドル界隈の感覚としては、そんなに急いでチケットを取ることもないだろうと余裕をかましていた。
11月30日に「残りわずかです」というポストもされていたが見逃していた。
そもそも今の熊本のアイドル現場で1か月以上も前からチケットを取らないと入れないことなんてないのだ。
幸い、ぼくはなんとかこのポストに気づいて追加分で前売りのチケットを取ることができたが、この動揺は年が明けても続き、古参の熊本アイドルヲタさんの中でも、結局なんとか当日券が出たので入れたという人も何人かいた。
そんなわけでチケット発券から異様な盛り上がりを見せていたPOTIONデビューライブイベント。
開場は11時半でぼくは11時15分ごろに会場のNAVAROに到着したが、すでにNAVAROの入口には人があふれていた。
そのあふれている人の列整理をしている女性スタッフらしき人がいた。
AKB48などの地上系のアイドルの場合、女性スタッフが列整理することが多いので、そんな感じかなと思って女性を見ていたら、ぼくも整理される側になり、その女性の顔を見て驚いた。
そのときはすぐに名前は出てこなかったのだが、仙台のアイドルグループPOEMの上野あいさんだったのだ。数年前に佐賀の656広場で何度かPOEMを見たことがあったので、なんとなくそうなんだろうなと感じた。並んでいる間に同じPOEMの水咲爽さんがPOEMのアー写がプリントされたポケットティッシュを配ってくれたので、それは確信に変わった。
どうやらPOTIONはPOEMやペペロンチーノが所属するOncePromotionのアイドルだったらしい。
ローカルアイドルで成功した実績を持っている事務所が本気で熊本にアイドルを作る。
だからこそ、これだけの人がこのライブを訪れているんだと思った。そして、来てくれたたくさんの人を事務所全体でおもてなしする姿勢として、POEMのメンバーにスタッフ的な役割を任せていることにも好感が持てた。
実はライブの後に、会場が物販に転換するため、ライブハウスの外で待たなければいけない時間があったのだが、そのときもPOEMの永瀬愛瑠さんが会場入口でたむろしているヲタクにXのフォローを呼び掛けていたりして、こういうわずかなチャンスも生かす姿勢も上に行くグループは違うなと感じさせた。
話をPOTIONに戻そう。
この日のライブは、前物販→ライブ→後物販というスケジュールになっていた。
熊本ではこの前物販というのも大変珍しい。
ぼくはこの前物販で今年初のRe:fiveの推しとチェキを撮ったりして、うはうはしていた。
どこのグループも通常の物販をやっている中、お披露目ということでPOTIONがやったのは無料の握手会だった。
ぼくも無料ならばと参加させていただいた。
握手をするとき、これからステージが控えていることもあり、かなり緊張されていたように感じた。もっとも、ぼくのようなヲタクという特殊な人種のおじさんと話すのが怖かったのかもしれない。
話してみた感想は、率直に「初々しい」だった。
普段ヲタクをやっていると気づけないが、普通に考えて十代の若い女の子が父親よりも年上かもしれないおじさんと会話するなどほぼほぼキセキみたいなものなのである。
普通にびびってしまうだろうし、なにを話をしていいのかもわからないものだろう。
それなのに、ちゃんとまず名前を言って、こっちの名前を聞いて、「緊張してます」「楽しみよりも怖いです」みたいにライブへの意気込みを言われる姿は初々しくて、好感が持てた。
ライブはオープニングアクトとして、POEMとPOTIONのトークからスタート。
POEMがたくさんのヲタクで埋まったフロアを見渡し、ひとりでも多くの人にPOTIONを知ってもらおうと質問を投げかけたりする姿はさすがの一言だった。
その質問に膝や唇を震わせて、答えるPOTIONの初々しさも初ライブおめでとうって暖かい気持ちになれた。
熊本に限らず、長崎や鹿児島からもゲストが駆け付け、POEMが最後に締め、暑い熱気の中でこの日のゲストのステージが終わった。
残すはPOTIONの御披露目ステージのみ。
会場のボルテージは最高潮に上がっていたが、クールダウンするように十分ほど休憩を挟んでいよいよPOTIONのステージが始まる。
入口で配られたサイリウムも白だったが、グループのコンセプトカラーが白らしく、白い衣装に身を包んだPOTIONのメンバーが、話しているときの初々しさからは感じられない堂々とした姿でキラキラ輝きながら登場。
Youtubeでも公開されていたデビュー曲「スキスギスキス」は、そこで予習をしていたのか、ヲタクのミックスも初見なのにきれいに入り、またもや会場は熱気に包まれる。
曲はいかにもな好き好き歌詞の王道アイドル曲。振りに関しても舞台端にメンバーが集まってフロアに手を振るような、王道アイドルっぽさが随所にあった。
ぼくのイメージだと、しっかりもののリーダー浦田のこさん、キレのあるダンスが魅力のKUREHAさん、天真爛漫な笑顔が魅力のくしやまみらいさん、美人なのに天然キャラの岩本ここなさんという印象で、その四人の個性がぶつかりあうことなく、調和して楽曲に溶け込んでいるような、これも「THE 王道アイドル」のスタイルだった。
MCに関してはまだまだ浦田のこさんがひとりで引っ張ている感じだったが、これはSHOWROOM配信に力を入れているらしく、そのような配信をやっているうちに他のメンバーの個性もステージ上で見れるようになっていくだろう。
また「THE 王道アイドル」の曲のステージに関しても、いまでもある程度は完成しているのだが、これからどんどん良くなるのは間違いないだろう。それは単純に楽しみだ。
ぼくは主現場が熊本のヲタクなのだが、熊本のアイドル界隈というのはある意味ガラパゴス化している。
これは熊本の芸能全般に関してそうなのかもしれないが、九州第二の人口を抱える県だからこそ、仕組み的にそうなりやすいのだ。
たとえば、ローカルのテレビ番組にしても、九州第一の人口の福岡県の番組だったら、福岡で人気が出れば九州全域でネット中継されることが多い。
ただし、熊本のテレビ番組はそうはならない。
福岡の人が熊本の面白さを認めるのはプライドが許さない。そしてここがガラパゴス進化の根拠なのだろうが、その逆に熊本も他の九州各県のように素直に福岡のものを受け入れるのには抵抗があるのだ。そういう県民性なのである。
だから熊本のローカルテレビ番組は独自の進化をしている。
これはアイドルも同じで、他の九州各県のアイドルがまず福岡を目指すのに対し、熊本のアイドルは熊本の中で独自に進化を進めている印象をぼくは持っている。
だから、熊本の現場はおもしろいとぼくは常々思っているが、そんなガラパゴス化している熊本に、東北で全国的な活躍をするアイドルを生み出した事務所が新グループを立ち上げた。
これはだからこそ非常に大きなことだと思う。
折り畳み式の独自の携帯電話がどんどん高性能化しているところに、iPhoneがやってきたような状態なのだ。
もちろんPOTIONの今後の活躍も期待だが、熊本アイドル界隈全体に、このグループがどんな影響を生み出すか。それらも含め、POTIONの今後の活動は見逃せないとぼくは感じている。