キューブラー・ロス著『死ぬ瞬間』⑥ | 武狼太のブログ

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大学の通信教育過程で心理学を学んでおり、教科書やスクーリングから学んだことをメインに更新しています。忙しくて書けなかった、過去の科目についても遡って更新中です。

→リンク:死ぬ瞬間① ページへ

 

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キューブラー・ロス著『死ぬ瞬間』

 

【6】第一段階 否認と隔離
【7】第二段階 怒り
【8】第三段階 取引

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【6】第一段階 否認と隔離

▼ショック

  ◎最初の反応は「一時的ショック」

    ・そこから徐々に立ち直る

    ・当初の麻痺感情が消えていき、自らを立て直すことが可能となる

    ・通常は「違います、私がそんなはずはない」と答える

    ・無意識下では、我々は全くの不死である

      ⇒自身が死に直面しなければならないと認めることは、考えることすらできない

    ★患者にとって「否認」は常に必要!

  ◎致命疾患の初期

    ・否認は特に必要!

    ・初期が過ぎると「否認」の要求は現れたり消えたりする

    ・否認規制よりも隔離機制を使用するようになるのは、末期に近づいてから

 

▼否認

  ◎通常、一時的な自己防衛として「否認」が現れる

    ⇒やがて、部分的受容にとって代わる

  ◎インタビュー:臨死患者200名以上

    ・末期疾患の告知に対し、ほとんどが不安に満ちた「頭初否認」を行った

    ★いずれの場合でも否認、もしくは部分的否認が行われた

      ⇒病気の初めに率直に告げられた

      ⇒最初はハッキリと告げられず、やや後になって自分でそれを知った

      ⇒よく知らない人から出し抜けに知らされた

      ⇒得た情報の重荷を早く下ろしてしまいたいと感じた誰かから、突然知らされた

    ★『我々はいつも太陽を見ていることはできない。我々はいつも死に立ち向かっていることはできない。』

      ⇒自分自身の死の可能性を、しばらくの間は見つめることが出来る

      ⇒生き続けるためには、死の考慮を脇へ逸らすことも必要

    ★「否認」は不快な痛ましい事態に対する、健康的な対処方法

      ⇒予期しない衝撃的なニュースを聞かされたときの緩衝装置

      ⇒崩れようとする自らを立て直し、より緩やかな自己防衛法に移ることが出来る

      ⇒否認した患者が、後で「迫りくる死」について心穏やかに語れないとは限らない

    ・死についての対話は、患者からの申し出によって行なわれなければならない

      ⇒また否認態度に戻った時には、それを直ちにやめなければならない

 

  ◎著者は、患者が死に近づく前に死について語ることを非難された

    ・患者が求めるならば、健康度が高いうちに死について対話する方がよい

      ⇒迫りくる死の恐怖が少なく、よりよく死についての対話ができる

      ⇒ただ先に延ばすのは、単に患者以外の者の自己防衛機制を満足させるだけ

      【ある患者の言葉】

        「死が戸口へ来ているときよりも、まだ何キロも遠くにいるときの方が、迫りくる死の恐怖が少ない。」

    ・患者の多くが、病院スタッフに対して否認機制を使用する

      ⇒病院スタッフは立場上、患者の否認を上手に扱う必要がある

    *患者は巧みに相手を選び、病気や迫り来る死などの問題を語る

      ⇒患者の死を考えることに堪えられない人には、患者は同調するフリをする

      ★そのため、関係者間で患者に対する意見の違いが生じてくる

 

  ◎否認が最期まで維持されても、必ずしも不幸を増大するとは限らない

    (極めて稀:3人/200人、いずれも中年の独身女性)

    【事例】否認を最後まで続けた3人

      *2人の女性:

        ・死ぬことについて、ごく短くしか語らなかった

          「死は、眠っているうちにやってくる不可避的な煩い」

          「死が苦痛を伴わずにくるように望む」

          と言い、否認態度へ戻った。

      *1人の女性:

        ・クリスチャン・サイエンス派の熱烈な信者、目に見える程大きな潰瘍性乳ガン

        ・死の少し前まで治療を拒んだ

          手術は「治りやすくするために傷の一部を切り取ること」

          入院は「私の傷とは何の関係もない」

        ・末期ガンのことを話すかもしれないと、病院スタッフと話すことを恐れた

        ・体力が弱まるにつれ「化粧」が濃くなった

          始めは赤い口紅をやや控えめ →次第に鮮やかな真っ赤に →道化役のような厚化粧

          ・最期の数日、鏡を見るのを避けていたが、厚化粧は続いた

          ⇒急速に衰えゆく容貌をカバーしようとする儚い努力であった

          ⇒衣類も派手なもの、色彩の濃いものに

        ・死の1時間前の言葉:

          「私、もうこれ以上、頑張れないように思います」

 

▼患者が否認をやめ、より軽い自己防衛規制に移る要因

  ①病状の告げられ方

  ②不可避事態を認めることに要する時間経過

  ③痛ましい情況に対する心の準備の有無

  ・かかる時間や程度には個人差がある

  ・大抵の患者は、否認を徹底的に続けることをしない

  ・現実的に情況を直視することがこれ以上不可能だという徴候:

    「生や死」、「死後の生」について、何か重要なことを話しているとき

    ⇒突然話題を変えたり、以前と矛盾したことを言い出したりする

    ⇒命取りの病状にある人の言葉とは、受け取れないような内容を話す

      ★もっと明るい、もっと愉快な相を見たがっている

      (患者の幸福な夢想をなすがままにまかせる)

      ★話の矛盾に気づかせる必要はない

      (一見不可能な情況を夢み、それを現実化した驚くべき実例もある)

 

  ●患者の否認要求

    ①患者家族からの感情移入 →患者の否認要求の減少 →治療法の受け入れやすさ

    ②否認機制が働いている患者家族 →患者への感情移入が生じにくい

    ・否認規制が強い患者 →患者らしく振る舞わない →病院スタッフから敬遠されやすい

      ⇒病院スタッフに生じる合理化によって誤解が生じる

        「患者は混乱していて、何も分かりはしませんよ」

        「患者はひどく異常な考えしか持っていませんよ」

  ◎管理が難しく、コミュニケーションが取りにくい患者

    ・この患者を避けるとき、我々は何を失うのか?

      ⇒『信頼の感情』

    ・話せなくとも訪問を繰り返す

      ⇒少なくともここに1人、心配して訪問してくる人がいる、という感情が湧く

    ・話す気持ちになると、患者は孤独感の共有を求める

      ⇒言葉、僅かな仕草、言葉にならないコミュニケーション手段によって

 

  【事例】ある女性患者

    *否認を支持するための「長い高価な儀式」(←患者自身の言葉)

      ・X線装置が狂っている

      ・病理学的レポートがそんなに早く来るはずがない

      ・他の患者のレポートに間違って自分の名が記載された

    *確信しようと努め、それが得られないと知ると、病院を出たいと言った

      ・別の医師を探し「私の病気について、より確実な説明を得たい」と望んだ

      ・方々の医師を訪ね、患者の確信を支持しようとしまいと、再調査を重ねた

    *最初の診断の正しさを半ば知っていた

      ・誤っているかもしれない、という希望に客観性を与えたかった

      ・いつでも助けが得られるよう、医師との接触を維持しておきたかった

 

 

【7】第二段階 怒り

▼怒り

  ◎第一段階「否認」が維持できなくなる

    ⇒次の問いは「なぜ私を?」である

    ⇒怒り、憤り、恨み、羨望などの諸感情に取って代わる

 

  【事例】憤死した男性患者の怒り

    *患者:事業家、人工肺をつけ寝たきり状態

    *付き添い看護師:とにかく、患者をおとなしくさせておこうと努めた

      ☆激しい口論:患者が落ちないよう、看護師がベッドのレールを上げた

      ・患者はレールを下げておいてくれ、棺桶を連想するからと頼んでいた

        ⇒患者の生きている確証を得たい気持ち、を否認するような行為

      ・死期が迫っている患者 →看護師自身が持つ死への恐怖を刺激

        ⇒回避と孤立化:死の直視からの看護師自身の防衛機制

      ★結果:患者の運動不足と死の恐怖感とを助長した

 

▼許容

  ◎患者

    ・怒りの表出 →鬱屈の解放 →最期の時間を受容可能に

  ◎患者の周囲の人々

    ・自己防衛的にならない場合にのみ、許容が可能となる

  ◎病院スタッフ

    ・患者の理不尽な怒りすら、受け入れることを学ぶ必要がある

    ・自身の「死の恐怖」や「破壊的願望」を直視する必要がある

    ★患者看護を妨げる、自身の自己防衛を自覚することが先決

 

 

【8】第三段階 取引

 

  第一段階:否認··· 悲しい現実に直面できなかった

  第二段階:怒り··· 人々と神とに対して憤りをぶつけた

  次の段階:取引··· 人や神に対して何かを申し出て、何らかの約束を結ぶことを考える

  ⇒患者にとっては助けとなる

 

▼取引

  ◎その期間は短く、あまり知られていない

    ・もしかすると、この悲しい不可避の出来事をもう少し先に延ばせるかもしれない

      ⇒神が私を地上から召し上げることを決め、私の怒った嘆願にも応えてくれない

      ⇒大人しく嘆願すれば、もっと恵みをもたらしてくれるかもしれない

        (我々は子どもの頃から、こうした反応に慣れ親しんでいる)

      ⇒よい振る舞いには報償があり、特別に願望が叶えてもらえるチャンスがある

    ・願望:①延命、②痛みや肉体的不快のない日が幾日か欲しい

      ⇒要求が認められないとき →拒絶し怒りを一時的に表現する

  ◎『取引』=「延期するためのあがき」

    ・死、恐ろしい手術、疼痛、肉体的不快などを1日でも先に延ばすこと

    ・「よい振る舞い」への報償として、延期を得ようとすること

    ・必ず、患者自身が自らに「期限」を付け加える

      ⇒この一度の延期が許されれば再度の延期は求めない、との暗黙の約束を含む

        ★しかし、私たちの患者の一人として、その約束を守った者はいない

      ⇒「もう二度と○○しないから、今度だけは許してください」

        と、せがむ幼児と同じように

    ・大抵の取引は、神との間で交わされる

      ⇒秘密とされるか、言外に述べられるか、牧師の私室にしまい込まれる

  ◎聴者のいない、私達だけのインタビュー

    ・驚くほど多くの患者たちが、多少の延命との交換に約束をした

      「神に生涯を捧げる」あるいは「教会への奉仕に一生を捧げる」

    ・医師がその科学知識を延命に使用してくれるならと約束をした

      「肉体の一部を“科学”に与えてもいい」と

  ★心理学的分析

    ・「約束」は秘匿された罪責感と関係がある

      ⇒あっさりと無視しないことが望ましい

 

  【事例】 「教会への奉仕に一生を捧げる」と約束

    ・日常的に教会へ通わないことに罪責感を抱いているのか

    ・深層に無意識的な敵対願望があり、そうした罪責感を表出しているのか

    *患者のそうした悩みを最初に聞きつけるのは牧師であることが多い

 

  ◎患者の心の悩みを探り続け、その開放を目指す

  ⇒「不合理な恐怖感」や「罰せられたい願望」など

    ★過度の罪責感

    取引を二度三度と繰り返し、期限が来ても約束を守らないことで生じていく

 

  【事例】

    *女性患者

      ・極度の痛みと身体的不快の中にあり、絶えず鎮痛の注射に頼っていた

      ・長男の結婚式に出席できないと思うと、悲しくて仕方ない

      ・自己催眠を教え、数時間は非常に楽になれるようになった

      ・「息子の結婚式に出席できるまで生き延びさせてもらえれば、どんなことでも約束する」と言った。

      ・結婚式の前日: エレガントなレディの姿となって病院を出た

        ⇒「全世界で一番幸福な人」のように輝くばかりに溌剌としていた

        ★取引した時間の終わりが、どんな反動を起こすかが心配だった

      ・病院に戻った日: 疲れて憔悴しきっていた

      ・呼びかける前に、「私にもう一人息子がいることを忘れないでね」と言った

      ・私たちが、次男の結婚式への出席を許さない限り、再び会うことを渋った