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キューブラー・ロス著『死ぬ瞬間』
【5】「死と死ぬこと」セミナーへの考察
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【5】「死と死ぬこと」セミナーへの考察
▼不死の幻想と真実
◎スピード重視、大量生産、マスコミ、集団人間の時代
・ごく小さな個人的な“ギフト”が、再び大きな意味を持ってくる
◎“ギフト”は相互的
・患者から患者への、助けと啓示と激励
・私たちから患者へのギフト:
看護、留意、奉仕する時間、生の終わりにその思いを分かち合いたいという願い
◎患者たちの好意的な反応の理由
・死にゆく人の欲求:
⇒何かを死後に残していきたい
⇒小さなギフトを与えたい
⇒不死の幻想を創造したい
★死というタブーの主題
・患者が考えを明かしてくれたことに、私たちは深く感謝している
・患者たちの役割
⇒私たちに教えること →後に続く人たちを助けること
・患者らの死後
⇒何かが生き続けるというアイデア(=死と死ぬことセミナー)を創り出す
⇒患者らの示唆、空想、思考 →議論され続け、生き続ける
⇒小さな規模かもしれないが、“不死”の存在となる
▼防衛機制に突破口をあける
◎死にゆく患者側から、なぜコミュニケーションの扉が開かれるのか?
・現世とは、出来る限り少数のつながりだけを残したい
⇒その他の諸々の人間関係から自らを解放したい
⇒少数のつながりとの最終的な断ち切り(死)に直面したい
★そうした葛藤を誰か外部の人に打ち明け、分けもってもらわなければ、最終的な人間関係からの解放は不可能である
◎患者は防衛機制に突破口が開かれることを歓迎する
・迫りくる死について、未完遂な仕事について、喜んで話そうとする
・感情: 恨み、怒り、羨望、罪悪感、隔離(孤立化)感
⇒そのいくらかを、理解ある人に分かちたいと望む
●社会的には抑圧された主題「死」について
・私たちは率直に、複雑ではない語法で、真っ直ぐに語ってきた
・コミュニケーションの窓を開け、広汎な話題が話しやすいようにする
・必要ならば、患者の完全な死の否認をも受け入れる
・患者が望むならば、その恐怖や葛藤について、自由に気ままに語ってもらう
★私たち自身は、死を語ることを決してためらわない、否認機制を用いない
●多くの患者が、私たちを話し相手として歓迎する理由
①私たちが否認を用いないこと
②淡々と「死」と「死ぬこと」という用語を使うこと
●患者が教えてくれたこと
・彼らの全てが、告知の有無に関わらず、病気の重大さを自覚しているという事実
⇒自分が自覚していることを、必ずしも医師や近親に打ち明けない
【理由】そのような現実を考えることは辛いから
・「死については語ってはいけない」との周囲の言外の意志表示を認知している
⇒しばらくは、それを快く承諾する患者もいる
⇒しかし、患者が関心の一部を打ち明けるニーズを持つときがやってくる
⇒現実に直面し、間に合う間に、最も大切な事柄(=死)に決着をつけずにいられなくなる
◎患者が否認を使う理由
・患者が頼る人、人間関係を維持する必要がある人達が、否認することを期待しているから
◎直接告知をしなくても、患者たちは格別気にしない
・まるで子ども扱いされたり、重大な意思決定の際に無視されたりすると
⇒ひどく憤りを感じていた
・家族やスタッフの言外の表情や所作、態度変化
⇒患者の全てがそれを敏感に感じとり、容態の重大さに気づいていた
・ハッキリと告知された患者は、ほとんど例外なく感謝した
【例外】
*こちらに用事もないのに、いきなり廊下などでぞんざいに告知された
*告知に続く、親切な注意や労りの言葉が聞かれない
*全く希望のないような言い方で告知を受けた
▼死にゆく過程
◎患者たちは、悪い報せに対して、ほとんど同じ反応をした
①「衝撃」と「不信」
★致命疾患の告知(=大きな不満やストレス)を受けるときの典型的な反応
・ほとんどが「否認」を使った
・人により、それは数秒から数ヶ月、数十ヶ月にわたった
・全面的な否認ではない
②「怒り」と「憤り」に支配される
・スタッフや家族の反応によって、部分的に正当化され、また強化された
★この怒りを、周囲が個人的に受け取らずに許すならば、患者は大いに助けられる
③一時的な「取引」の段階
④「抑鬱」(=準備的悲嘆)
⇒最終的受容への踏み石
◎これらの段階は入れ代わることはなく、隣り合い、ときに重なり合う
・多くの患者は、外部からの助けを受けず、最終的受容へ達していった
・そうでない人は、平安と威厳のうちに死ぬためには、他からの助力が必要だった
◎病気や適応機制の段階がどうであれ、患者は最後まで何らかの希望を持ち続けた
★私たちはこのことを忘れてはいけない!
⇒新発見、新薬、神による奇蹟の期待、誤診、自然治癒、それは様々だった
・希望を与えられずに致命疾患を告知された患者は、最悪の反応を示した
⇒残酷な告知をした人と、患者は決して和解することはなかった
◎患者たちの内的抗争と防衛機制
・最終危機に際し、どんな防衛機制を強力に使うか、予測がある程度できた
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〇教育水準が低い、知性が低い、社会的な絆と職業上の義務が少ない人々
⇒富裕階級の人々よりも、最終危機に困難なく直面することができた
〇一生を苦労と重労働のうちに過ごした人
〇子ども達を育て上げた人
〇成し遂げた仕事に満足している人
⇒平安と威厳とをもって死を受容することが、より容易であった
〇一生を野心的に過ごし、周囲環境を支配してきた人
〇物質的な財を蓄積してきた人
〇社交的な人間関係は多いが、最終危機で助けとなる有意味な人間関係が少ない人
⇒死の受容は容易ではなかった
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▼宗教的信念と死の難易
◎宗教心の篤い患者も、宗教を持たない患者も、差異は感じられなかった
・心の底から強い信仰をもった真に宗教心が篤い人
⇒極めて少なかったが、その人たちはその信仰に助けられた
⇒極めて少数の、真の無神論者とは対照的だった
・中間にある、何らかの宗教的信仰は持つ人が、患者の大多数だった
⇒内的抗争と恐怖から解放してくれるほど、その信念は強くなかった
◎患者が受容と最終的デカセクシスの段階に達したとき
※デカセクシス・・・ 精神エネルギーを対象物から引き離すこと
・外部からの干渉は、最も深刻な動揺を引き起こした
★この「動揺」は死が近づいていることの信号
⇒それを感知することで、死の近いことを予測することができた
(*医学的見地からは、死の兆候はなかったが)
・患者は死の徴候をキャッチすることができた
⇒どんな精神生理学的信号を認知するのかは全く分からない
⇒深層部にある生得的な信号システムに反応するのだろう
⇒患者に対話を求めると、患者は自身の自覚を認知していた
⇒患者は「明日では遅すぎる」ことを知っていた
・平安と威厳のうちに死ぬことを妨げられた患者が数人いた
★私たちは鋭敏に心を研ぎ澄まし、患者の意志表示に気づかなければならない
⇒まだ間に合う間に耳を傾け、唯一無二の機会を失わないように
■著者の確信:インタビューした患者たち
▼医師自身の否認の必要度
◎患者の否認の必要度と正比例する
・自分自身の重大疾患について、語りたがらない患者は非常に少ない
・否認を必要とする医師は、患者に否認を見出す
・死との対峙をためらわない医師は、患者もためらわないことを見出す
▼医師の無関心
・患者はますます疎外感を覚え、絶望と孤独感が深まる
・急性な病状悪化に、どうにもならない消沈(憂うつ状態)へ陥ってゆく
⇒近親にも伝染する:悲嘆、無援感、絶望感
⇒近親がそばにいても、ほとんど患者の幸福につながらない
★心に希望の灯をともさない限り、患者は絶望の深淵から抜け出せない
▼医師や近親が患者に病気の真相を話せないとき
◎患者は知らぬフリをする
・進んで真相を語ってくれる誰かを待ち望む
・必要な限り、患者に自己防衛を維持させてくれる誰かを待ち望む
◎悪性腫瘍の診断を知る人が多いほど、患者は早く真相に気づく
【無言の信号】
・家族の妙に装った不吉な笑顔、親戚の涙ぐんだ表情
・患者に対する周囲の注意やアプローチの仕方が変わる
・話しかける人たちの声が低くなる
・患者に近づくのを周囲が避けるようになる
◎末期患者はそれとない言外の意味を悟ってくれるもの
・決して希望を棄てない患者も、死ぬ覚悟が出来ている患者も
◎悪い報せの伝え方が重要な因子となる
★『患者に告げるべきか否か』ではなく、『いかにして、患者と分け持つべきか』が問題
・他人がいる場所ではなく、個室で告げられたとき、患者は教えられたことを感謝した
・感情移入されているという情緒が大切
①あらゆる可能な手段が取られる
②患者が見棄てられない
③治療法がある
④極度に状態悪化した場合でも一縷の望みがある
◎生命の危機を乗り越えるための様々な反応段階
・崩れないで経過してゆける助けとなる
・時間的ゆとりを持つことができる
▼この種の仕事に携わる人:
・患者の拒絶を「私はそれについて話したくはありません」と解釈してはならない
⇒「私はまだ、心を開いて、悩み事を話せる用意ができていません」
との意味に過ぎないことを、肝に命じる必要がある
・拒絶後も、訪問を絶やさず続けていく
⇒患者はいつか、話す用意があるというヒントを何かしらで伝えてくる
★多くの患者が、私たちの辛抱強さを後で感謝した
・用意があれば、いつでも来て話を聞いてくれる人がいる
⇒それが分かると、患者はまさに適切なときに呼びかけてくる
⇒患者の内部抗争を、堰を切ったように私たちに打ち明けてくる
・患者はその悩みを打ち明け、死と死ぬことについて自由に話した
⇒話題を変えたいとき、陽気な話題へ戻りたいとき、そのサインを送ってきた
⇒感情を吐き出すことは、よいことだと認めていた
⇒対話時期や継続時間について、全ての患者に自ら選択したいとの欲求があった
【事例】
*患者
・決して誰もそばへ寄せ付けさせない ←病院スタッフから怖がられる
・自分の病気について、一度も質問したことがない。
*看護師
・患者は、容態の重篤さを知らないだろう、と確信していた
・著者のインタビューを決して承諾しないだろう、と断言した
*著者
・「ご病気はどんな具合ですか」とだけ訊いた
⇒患者:「私は身体じゅうガンなんです」と答えた
◎患者の不満
⇒誰も一度も、患者の病気について簡単に率直に問いかけてくれないこと
*病院スタッフ
・病人の憂うつな顔を見て、コミュニケーションが閉ざされていると誤解した
・患者の願望に対して、スタッフ自身の不安が盲目にした