東京二期会オペラ劇場 ワーグナー「タンホイザー」(パリ版準拠(一部ドレスデン版使用))を、東京文化会館大ホールにて(3月2日)。
指揮:アクセル・コーバー
演出:キース・ウォーナー
演出補:カタリーナ・カステニング
装置:ボリス・クドルチカ
衣裳:カスパー・グラーナー
照明:ジョン・ビショップ
振付:カール・アルフレッド・シュライナー
映像:ミコワイ・モレンダ
合唱指揮:三澤洋史
音楽アシスタント:石坂 宏
演出助手:彌六
舞台監督:幸泉浩司
公演監督:佐々木典子
公演監督補:大野徹也
領主ヘルマン:加藤宏隆
タンホイザー:サイモン・オニール
ヴォルフラム:大沼 徹
ヴァルター:高野二郎
ビーテロルフ:近藤 圭
ハインリヒ:児玉和弘
ラインマル:清水宏樹
エリーザベト:渡邊仁美
ヴェーヌス:林 正子
牧童:朝倉春菜
4人の小姓:本田ゆりこ、黒田詩織、実川裕紀、本多 都
合唱:二期会合唱団
管弦楽:読売日本交響楽団
イギリスの鬼才キース・ウォーナー演出の二期会タンホイザー。全く忘れていたのだが、2年前の2021年2月に東京二期会オペラ劇場ですでに上演されたプロダクションである。指揮はゼバスティアン・ヴァイグレでオーケストラはやはり読響であった。情けないことにヴェーヌス役の池田香織がよかったことぐらいしか覚えていない。
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さて、今回はタイトルロールにニュージーランド出身のワーグナー・テナー、サイモン・オニールが起用されていて、このキャストがまさに本公演の目玉であるといえよう。
オニールは過去に何度も聴いていて、すごくいいときと??のときの落差が激しいのであるが、今回はかなり満足度の高い歌唱であった。やや細めで鋭い声質であるが、全体を通じてのバランスが良く、第3幕ローマ語り〜終盤で徐々にドラマ性を増していくのは見事であった。
ヴェーヌスは病気療養中の池田香織に代わりベテラン林正子、さすがになかなか存在感が感じられる歌と演技であるが、やや安全運転で、もう少しメリハリは欲しかったかもしれない。
エリーザベト役渡邊仁美は安定しているが、聖女としての初々しさのようなものはもう一つ。「おごそかなこの広間よ」でのキラキラ感がもう少し欲しかった。ヴォルフラム役大沼徹、こちらも安定していて悪くないけれど、かといって夕星の歌がそこまで感動的だったかというと…というところ。領主ヘルマン役加藤宏隆はなかなか渋い低音が心地よかった。
割と毎回似たような、月並みな感想になってしまうのだが、日本人歌手は総じて歌唱技術が極めて高く安定しているものの、突き抜けた何かが感じられないのが残念。
指揮はライン・ドイツ・オペラ音楽監督であるアクセル・コーバー。指揮者コンクールでぱっと出てきた人ではなく、まさに劇場叩き上げでキャリアを積んだ職人タイプで、イメージ通り非常に手堅くある意味地味な指揮者である。私はバイロイトで、まさにこの人が指揮するタンホイザーを聴いたのだが、なんともう10年も前のことだ。そのときは、いつかこういう手堅い指揮者は日本で評価が上がっていくのだろうと思っていたのだが、まさに今回が初来日だそうで、今後呼ばれることが増えていくかもしれない。
https://ameblo.jp/takemitsu189/entry-11912124573.html
序曲に続くバッカナーレでトランペットをあえて目立たせることなく全体に埋もれさせるところなどは、一昔前のドイツの巨匠、ホルスト・シュタインを思い出させる。一切の破綻がなく、安心して聴いていられるタイプの指揮者だ。その反面、例えばティーレマンのようなドラマ性はやや希薄で、第1幕のヴェーヌスベルクからヴァルトブルクの谷に瞬間移動するシーンでは極端な落差が感じられないし、第1幕エンディングや第2幕でタンホイザーがヴェーヌスを讃えた後の空気が一変するところの描写などはやや迫力不足。
オーケストラはピットをのぞいたところコントラバス8、チェロ6だったので、14型か、あるいはヴァイオリンが12−12か。ピットに入った読響、やはり基本的性能は高く個々のソロも上手い。第2幕トランペットのバンダはピットの右手上に配置(5人だったか)。
「トーキョー・リング」でわが国でも有名なキース・ウォーナーの演出、このタンホイザーは意外に大人しいというか、それほど変わったことをしていない印象だ。序曲の最後で小さい子供が空から降ってくる紙に何か書いているシーンがあって、その内容をヴェーヌスが見て破り捨てるのだが、この子供は第2幕、歌合戦前の行進曲のシーンでも登場し、ヴェーヌスに手を引かれているのだが、その後は登場せずどういう位置付けなのか結局よくわからなかった。
14時開演で25分休憩を2回はさみ18時ごろ終演。
総合評価:★★★☆☆