東京二期会オペラ劇場、ワーグナー「タンホイザー」(パリ版準拠(一部ドレスデン版を使用)にて上演)(21日千秋楽)を、東京文化会館大ホールにて。フランス国立ラン歌劇場との提携公演。
指揮: セバスティアン・ヴァイグレ
原演出:キース・ウォーナー
演出補:ドロテア・キルシュバウム
合唱指揮:三澤洋史
演出助手:島田彌六
舞台監督:幸泉浩司
公演監督:佐々木典子
領主ヘルマン:長谷川 顯
タンホイザー:芹澤佳通
ヴォルフラム:清水勇磨
ヴァルター:高野二郎
ビーテロルフ:近藤 圭
ハインリヒ:高柳 圭
ラインマル:金子慧一
エリーザベト:竹多倫子
ヴェーヌス:池田香織
牧童:牧野元美
4人の小姓:
横森由衣
金治久美子
実川裕紀
長田惟子
合唱:二期会合唱団
管弦楽:読売日本交響楽団
フランクフルト歌劇場GMDにして読響常任指揮者であるゼバスティアン・ヴァイグレ、12月に来日して定期と年末の第9、そして1月の定期を振り、そのまま残ってこの二期会のタンホイザーを指揮してくれた。
本来この公演、ライン・ドイツ・オペラGMDであるアクセル・コバーが振る予定だったが、入国制限のため来日できなくなってしまった。しかし、ちょうど12月から滞在していたヴァイグレが代役になるという幸運!
ちなみに、私はバイロイトでヴァイグレもコバーも聴いたことがあるのだが、どちらも劇場叩き上げの手堅く地味なタイプの指揮者である。
さて今回の公演。オール日本人キャストということで予想はしていたのだけれど…やはり、ワーグナーはオール日本人キャストでは満足度が今一つ、というのが正直な感想だ。上演の質が低いということは全くない。しかし満足度は、どうしてもそうなってしまうのである。
ワーグナーの音楽というのは、血の滴る肉を食らう狩猟民族の音楽だ。毎日肉を食い、ビールを飲んでいるがたいが大きい歌手が歌う音楽なのである。
さて、オーケストラは第1ヴァイオリン10だそうで、私が視認したところではコントラバスは5。冒頭の序曲はさすがにちょっとペラペラ感が否めなかったのだが、その後の音楽は、編成の割には結構いい音で鳴っていたな、と思う。ヴァイグレの指揮は極めて手堅く、派手なところは皆無であるが、ここぞというところでオケをしっかり鳴らして、ツボを押さえていた。ピットの上、舞台上の左手にはハープ2台と打楽器、右手には第2幕行進曲でのトランペットが配置されていた。
歌手に関しては、女声の主役2名がいい仕事をしていた。ヴェーヌス役池田香織はかねてからワーグナー歌手として定評があるが、今回も骨太の見事な歌唱であった。エリーザベト役竹多倫子、私は初めて聴く歌手だったのだが、きれいな声で安定した歌唱であった。
問題は男声陣で、表題役芹澤佳通は声が詰まり気味で、高域の音程が不安定。これは全幕通じてそのままであった。ヘルマンはベテラン長谷川顯。声の押し出しはよかったのだが、こちらもどういうわけかちょっと音程が不安定だ。ヴォルフラム役清水勇磨は、第2幕はともかく、特に重要な役割を演じる第3幕では割といい仕事をしていたと思う。夕星の歌もとてもよかった。
しかし…やはり、歌に関しては全体として薄めとしかいいようがない。
原演出はあのキース・ウォーナー!かつて彼が演出した新国立劇場「ニーベルンクの指環」は、トーキョー・リングとして当時のワーグナー・ファンの記憶に深く残っているものだ。残念ながら、あのトーキョー・リングのセットは既に廃棄されており、もうあの素晴らしい舞台はもう、観ることができない。
そのウォーナー原演出、舞台奥に更に舞台(あるいは映画のスクリーン)のようなものがあって、現実世界と仮想世界の行き来を表しているのだろうか?第2幕では、その奥の舞台は歌合戦の舞台となって、多数の客席が置かれている。
とはいえ、難解な読み替えはなく、比較的わかりやすい演出であると言えよう。
14時開演、終演は予定の18時をわずかに過ぎていたぐらい。ワーグナーは長いが、4時間というのはワーグナーにしては短い方だ。ワーグナー作品では、ラインの黄金、さまよえるオランダ人が短く、その次に短いのがこのタンホイザーだろうか。4時間で短いと言っている時点で私の感覚は尋常ではないのだが。
小春日和の暖かい日で、休憩中に劇場外に出たときの上野の雰囲気は、とてもいい。
総合評価:★★★☆☆