観峰館にて開催されている特別展で、楊峴(ようけん/1838–1914)の書作品を鑑賞してきました!

楊峴は、書の世界では「隷書の達人」として有名で、あの清朝最後の文人として名高い呉昌碩(ごしょうせき)が教えを仰いだほど。
楊峴の書は、古代の隷書に深く学びながら、そこに独自の生命感を宿らせています。
なかでも、碑学派の書法(逆筆蔵鋒や逆入平出など)をベースとしながら、筆毫の柔軟性を点画や字形に内包させる技法は、現代の書にも少なくはない影響を与えています。

筆を入れる際の繊細なねじり、筆揮の開閉、そして収筆の角度変化…。それらのすべての技法が、楊峴という人物を語っているようでした。
このような貴重な資料を、観峰館の静かな展示室でじっくりと鑑賞できることは、書を学ぶ者にとって大変ありがたいことです。
ぜひ、多くの方に実物をご覧いただきたい展覧会です。

※楊峴の書法的特質について
楊峴の書法において特筆すべきは、秦漢隷書の復古を旨としつつ、それを単なる臨模に留めず、詩書における表現力と融合させた点にあります。
とりわけ隷書における筆法の一つ、「逆入平出(ぎゃくにゅう・へいしゅつ)」──すなわち起筆において逆筆気味に入り、終筆において水平に出る構造──を、単なる型の模倣ではなく、有機的に運筆の中に取り込んでいます。
この「逆入」の角度と「平出」の微細な傾斜変化には、筆の重心と身体感覚を一致させる高度な技術が必要であり、それを無理なく詩文のリズムに織り込んでいる点が、楊峴の書法の妙です。
また、漢碑や張遷碑・石門頌などの「方筆・角筆」の影響が濃厚であるにも関わらず、鋭角的な断筆をあえて避け、線質に丸みと余韻を残す点は、呉昌碩らとの詩文交流に通じる「文人の書」としての円熟を感じさせます。
今日、現代書道においても「隷書の詩書化」「線における生命感の追求」「碑法と帖学の融合」など、複数の課題が模索されているなかで、楊峴の作品はその橋渡しとして非常に示唆的です。