強烈な台風が暴れまくっている。小さい頃から本土で台風を体験しているが、本当の恐怖を知る人は沖縄以外ではなかなかいない。私が初めて本場台風の凄さを知り、恐怖を味わったのは沖縄在住の時だった。
沖縄に移住したばかりの頃、周囲の人には冗談で「本場の台風を体感してみたい」と言っていた。それまで、沖縄出身者に話を聞くと「本土の台風は本当の台風じゃない」と言っていたからだ。本土に上陸する時は弱まっているかららしい。
だから、超大型で超強力な台風が沖縄を直撃すると聞いた時は、不謹慎ながら多少ワクワクドキドキの気持ちで待っていた。
しかし、いざ襲撃されると半端じゃなかった。
「これが本場沖縄の台風か!」
怖い思いを何度もし、戦慄さえ走ったものだ。
それは2007年7月12日に沖縄に上陸した台風4号の時だった。
街は、まだ台風が来ていないにもかかわらず、明るいうちからスーパーが一斉に閉店してシャッターを下ろし始める。大袈裟だなぁと思った。ギリギリまで営業していてもいいのではないかと。
何よりも緊張感が感じられなかった。ふつう避難するとなると緊迫感に包まれているはず。だが、笑顔と行動がアンバランスだったからだ。
台風4号の風速は56メートル。体感したことがないので、どれだけ凄いのか全くわからない。しかし、いざやって来ると……
今までの経験から、台風でも車さえあればどこへでも行けると思ったが、とてもじゃないがまともに走れない。横殴りの雨の為に、外がブリザードのように真っ白で前が全然見えないのだ。当然ワイパーなど役に立たない。
ドアを開けようとしても風圧の凄さでなかなか開かない。乗るのも降りるのも一苦労。
駐車する際に、風の方向に対して横向きに停めようとしたら横転しそうになったので、慌てて前向きに停めなおした。
雨がしょっぱい。東京ではこんな味はしなかった。
怖かったのは家の中に居る時も同じ。うちはマンションの3階で、周りには大きな建物があまりない。そのため周囲の状況がよく見える。で、窓の外から眺めると、物が飛ぶのをたびたび目撃。地元の人から、「出歩いてはいけない。何が飛んで来るか分からないから」と言われていたが、確かにその通りだと思った。ハンガーやバケツが飛んでいるのを見た時は、あれが当たったらヤバイなとびびったものだ。東京では、バケツが転がる光景を何度も見たが、宙を舞ってるのは初めて見た。
最初にマンションに入居した時、キッチンの窓ガラスに格子があったのが不思議だった。それさえなければ窓から顔を出して左側を向けば、東シナ海に沈む綺麗な夕陽を見られたものを!と思っていた。だが、バケツが高速で空を飛ぶ光景を目の当たりにして、格子が必要な意味を知った。
音も怖い。ゴォーという荒れ狂った重い音が絶えず聞こえてくると頭がおかしくなりそうだ。しかも、轟音は前夜から起こっており、うるさくて全然眠れなかったのが実情だ。
その風の強さはベランダの非難はしごの蓋をも勝手にこじ開けていた。さらに、重い洗濯機が移動していたのには正直驚いた。
窓の外で時々白い稲光が発することがある。よく見ると雨の塊が瞬間的に横向きに飛んでいたのだ。雨粒は均等に降るのではなく、場所場所によって白い塊となって飛んでいるのである。
一番怖い思いをしたのは、その白い塊が窓ガラスに叩きつけられた時。周囲に建物がないためにモロ直撃された。何度も何度もバケツの水を叩きつけられるような感じというか、荒波が叩きつけられるような感じなのだ。それが轟音と共に絶え間なく押し寄せてくる!そのうち窓が破られるのではないかと思えるほどの凄い衝撃の連続だった。
テレビで観る映像と実際はまるで違う。暴風の衝撃波が体感として伝わるか伝わらないかの差も大きい。また、一番酷い状況の時は、中継などできないということもわかった。とてもできる状態ではないのだ。
風速56メートルはダテじゃねぇ……。
今まで何度も台風には遭遇してきたが、怖いと思ったのは生まれて初めてだった。もう本場の台風を体感したいなんて冗談にも口にできない。
[編集後記]
台風が過ぎ去ったあと、人々が一斉に街へ飛び出し、スーパーを再開するスピードには驚かされた。