幼児は「高い高い」が大好きだ。何がそんなに嬉しいのか分からないが、とにかく「高い高い」をしてもらいたがる。そして、必ず大喜びする。泣いている1~2歳児にすると、たいてい泣き止んでくれる。状況を理解できない乳児でも稀にニコッとすることがある。それだから、大人も楽しませてあげようと「高い高い」をしてあげる。
だが、乳児に対しては、この行為が危険を及ぼすこともあるのだ。まず挙げられるのは落下事故だ。特に男親は、加減が分からずに少々乱暴に扱うことがある。あるいは、喜ばせてあげようと張り切り過ぎ、調子に乗って空中で手を離したりすることも。万が一キャッチし損ねて床に落下させようものなら、とんでもない事故になりかねない。下手をすると過失致死罪だ。
もう一つ懸念されるのが、激しく「高い高い」をしてしまうことで、脳が揺さぶられて硬膜下血腫やクモ膜下出血を引き起こしてしまうこと。いわゆる『揺さぶられっこ症候群』と同じになる。
乳児が泣き止まないと親はあやすために「揺さぶる」という行為をする。これは昔から誰もが行ってきたこと。しかし、すぐに効果が表れないとイライラが募ってしまい、ついつい激しく揺さぶってしまう。
ところが、乳児は首の筋肉が弱くすわっていない。しかも、頭が大きくて重いためバランスが悪い。さらに、脳が未発達のため脳と頭蓋骨の間には隙間ができている。
そういう状態で激しく揺さぶられるということは、脳が頭蓋骨の中でシェイクされているようなものだ。そのような強い衝撃が起こると脳の表面にある多くの血管が損傷を受けて出血してしまい、硬膜下血腫やクモ膜下出血になってしまう。他にも脳挫傷や頚椎損傷につながる場合もある。これが『揺さぶられっこ症候群』と呼ばれる所以だ。
乳児は何か異常が起きても自分から訴えることができない。そのため後遺症が起きていても親は気づかないし、医者も外見的異常が認めにくいので正確な診断が難しくなる。確実に脳の異常に気づくのは2~3歳になってからだ。
最近では、発達障害が注目されていて、普通とはちょっと違った行動をする幼児がいても、個性で片づけられてしまう。だが、いつまでも喋らない、涎を出し続ける、目の焦点が合わないなどの状態が続けば、乳児期になんらかの障害を脳に受けたと考えられなくもない。
可愛い子どもをあやすための「揺さぶり」という日常的な育児行為が、大切な我が子に脳障害を残したり死亡させたりすることになりかねないのだ。くれぐれも「高い高い」と「揺さぶり」は慎重にしてもらいたいものだ。
また、ミルクを飲ませた後にゲップをさせることがある。背中をトントンと叩くのだが、早くさせないといけないとか、なかなか出ないからといって強く叩いてしまう行為も危険だ。反動で頭が大きく振り動かされることで、激しい「揺さぶり」と変わらなくなるからだ。
乳児の取り扱いは十分注意したいものである。
[編集後記]
以前、このエピソードを監察医の上野先生と紹介した時に、関西テレビが関心を示してくれて再現という形で放映されたことがある。本当なら全国ネットのゴールデンでやってもらえれば、危険性がもっと周知されたのではないかと思っている。