アメリカにいた野口英世が、年老いた母親から帰国を願う手紙をもらったという、いわゆる『野口シカの手紙』は非常に感動的だとして有名だ。
初めてこの存在を知ったのは、テレビ番組の一コーナーである『今日は何の日』を観た時だった。わずか10分の内容だが、母と子の絆の強さと、母が子を思う気持ちを紹介した後、最後にシカの手紙をナレーターが感情をこめて読み上げ締めくくった。
観終わった時、泣いた泣いた。手紙を受け取った野口英世はもっと号泣したに違いない。これほど母親の愛情がストレートに強く伝わる手紙はなかった。
今でも、そのナレーターの声が耳に残っており、何度も何度も繰り返される「早く来て下され」という母の切なる思いを込めたセリフを思い出すと、目がじわ~としてくる。
久しぶりにシカの手紙を読みたいと思い、もう一度あの時の感動を味わいたいと思い、ネットで探してみた。
直筆の手紙を見つけたので読んでみた。しかし、字を書けないシカが、必死に書いたその文字は汚く誤字が多くすんなり読むことができず感動が伝わってこなかった。
次に手紙を読み上げるだけの動画を見つけた。しかし、リアル感を出すために福島弁で語っていたため、よく解釈できなくて感動できなかった。
その点テレビの方は、伏線として前半に上手くストーリーを展開させ、メインである手紙の内容を標準語で感情込めて語らせていた。だから、号泣物の作品に仕上がったのだ。同じ『野口シカの手紙』なのに、見せ方によってこうも人の心への伝わり方が違うものかと驚いた。
演出の仕方一つで名作は生まれ、逆に名作が生かされないこともある。
[編集後記]
かつてエンタメレビューで紹介した『予告犯』も然りだね。
以前『ムっちゃんの詩』の演劇を見て号泣したという話を書いた。その後、原作本を読んだのだが、なぜか泣けなかった。演劇の持つ凄さに加え、演出効果もあったのかな?