溝口健二監督の『雨月物語』は日本の古典映画の名作とされている。焼き物職人の男が、身分の違う美貌の姫の虜になっていくのだが、その姫というのが実は物の怪(もののけ)だった…。
泉鏡花原作の『天守物語』は、鷹匠の男が、妖怪の巣窟である白鷺城に住む物の怪の姫と恋に落ちる物語。
同じく泉鏡花の『高野聖』を基に映画化された『白夜の妖女』。高野山の僧が、物の怪の姫とやはりいい仲になってしまう。
これら3作品に共通しているのは、姫がオバケであること。そして美女であること。その美しいオバケに人間の男が恋してしまうということ。
ふと思った…。姫が不細工だったらどうなんだ? お姫様とはいえ心奪われるのか? 答えは完全無欠なNOだ。不細工であっても人間ならまだいいが、不細工に加えてオバケとあってはどうにもならんだろ。オバケでも美女だから妥協できるのだ。
…まぁ、こんなこと言ったら、上記3作品に代表される“物の怪恋愛ストーリー”なんて成立しないんだけどね。そもそも「姫=美女」というのは固定観念として定着したものであり、世界共通の認識でもあるから。
仮に不細工な物の怪の姫と人間の男が恋に落ちるというストーリーがあったとしよう…。…やっぱり、あり得ないな。考えるまでもない。そもそも観る気が起こらない。
やはり、姫と言われる限りは美女でなければならないし、例えオバケであっても男は美女に弱いのだ。
バケモノの王子と人間の女の恋…これはあるな。『美女と野獣』がその代表作。『美青年と不細工姫』…やっぱりピンとこない。短編の漫画でならありそうだけど、ヒットは想像できない。
海外に目を向けると、人間と魚の融合体として、女の化け物に「人魚姫」がいる。やはり美しいお姫様だ。こういう点でも世界共通。
一方、男は「半魚人」とされ、醜い容姿と相場が決まっている。これってどうなの?
美しい人魚に惚れる人間の男…有り得るなぁ。醜い半魚人に惚れる人間の女…絶対有り得ない。むしろ襲われる方が絵になる。
やはり幽霊・妖怪の類における恋愛物は、美女のオバケであってこそ鉄板なのだな。
[編集後記]
個人的に『天守物語』が好きです。映画ではなく深夜のテレビ「ノイタミナ」枠でやったアニメ版の方。切ない恋の物語が胸を打つ。