最近ではあまり耳にしないが、昔は心中事件が多く発生していた。今みたいに自由恋愛が許されなかった時代だからだ。
愛し合った男女の心中というと、手と手をつないで海に飛び込む、あるいは睡眠薬を飲んで眠りながら死ぬのが通常のパターンだった。しかし、なかにはセックスしたまま、つまり結合したまま死のうとするカップルがいる。
気持ちは分かる。つながっているときは一体感があるからだ。性欲ではなく愛情でセックスをする男女はなおさらだろう。挿入による気持ち良さではなく、一体感を強く感じてこのまま離れたくないという感情になるからだ。動かさなくてもいい…つながったまま二人で息を引き取れれば幸せ…そんな気持ちになるのだ。
だが、果たしてそんなにうまくいくものなのだろうか?
私は以前、監察医の上野正彦先生に懇意にしていただき、多く仕事をさせてもらった。当然のことながら興味深い話も多く聞くことができた。その中で結合死は可能なのかどうかという質問をしたことがある。今回はその時の話を抜粋して紹介しよう。
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以下は上野先生の解説。
男は性欲を抑えきれなくなり、その理性を超えるととんでもないことを行う。とくに若いときなどは、円柱の形で中がくりぬかれたもの(竹輪やトイレットペーパーの芯)などを使ってオナニーをする人がいるという。なかには動物(ヤギや犬)を使う人も。
また、理性を失くす段階まで来ると死姦を行う。レイプしようとしたが激しい抵抗にあい殺してしまった。しかし、やらずには終えられないので、死んだ女性に対して挿入行為を行うといった具合に。また偶然に、見ず知らずの若い女性の死体を見つけたので、ついやってしまったなど……。
だが、男は全然気持ち良くないはずだ。締まりがなくなるからである。ちなみに、今までレイプ殺人の検死をしたことはあるが、それが死姦だったかどうかの確定はしたことがない。
さて、心中で時おり男女が試みる結合死だが、これはあり得ない。先ほどの死姦でも説明したが、人は死ぬと神経が麻痺して、筋肉は弛緩して緊張が取れる。そのため女は締まりがなくなり、男は萎むからである。
死後硬直するのではないかと勘違いする人がいる。つまり勃起したまま陰茎が硬直するのではないかと。しかし、硬直は死後2~3時間経たないと起こらないものであり、生前に勃起していても死ねばすぐに萎む。
そもそも、陰茎には関節がないから、他の箇所に死後硬直の兆候があってもそこは硬くならない。死後硬直とは関節と関節の筋肉が収縮硬化して動かなくなることであり、骨のない陰茎には関係がない話だ。男はすぐに萎み、女も膣が緩むから、結局は離れてしまうことになる。
どんなに下半身を強く縛っても外れてしまう。かつて、お互いの体を縛りあって心中した男女がいた。胴体と足首をきつく縛ったままセックスにおよび、挿入した段階で二人同時に青酸カリを飲んだのだ。
発見された時の体位は正常位のままで、男が上で女が下になっていた。これは非常に稀なパターンで、今までこういう形で死のうとした数例の心中死体を見てきたが、重なったままの状態というのは後にも先にもこの一例だけだ。
しかし、これはたまたま偶然が重なったからに過ぎない。きつく体を縛り合ったことに加え、青酸カリは飲んで1~2分で死んでしまうし、お互いが苦しいので強くしがみついて息絶えることになるからだ。しかも、冬用の重い掛け布団を掛けていたことで体がずれずにすんだというわけである。
それでもやはり局部が結合したままというのは無理だった。
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やはり理想通りにはいかない。どんなに着飾って綺麗に化粧をしても、首吊り自殺をすれば小便を漏らした姿で発見されるというし…。例え糞尿を漏らさず、その時は綺麗な格好のまま死ねたとしても、すぐにウジ虫だらけで発見されてしまう。結局、自殺で綺麗な死に方なんてないのである。
[編集後記]
実は、この手の話に興味を持つのは、男性よりも女性が多い。仲間内で話す時も女性の方が関心を示す。文化放送でラジオ出演した時も、“性”にまつわる死の話について、女性アナウン
サーがしつこく食い下がってきたことがある。女性がいかに“性”に関して興味を持っているかを窺い知ることができた。