曖昧という英知 | 午前零時零分零秒に発信するアンチ文学

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時事問題から思想哲学に至るまで、世間という名の幻想に隠れた真実に迫る事を目的とする!

「機動戦士ガンダム」で印象深いやりとりがある。

ホワイトベースの艦内でクルーが集まる中、敵ジオン軍が用意した新兵器の映像を見せつけられて、どう対処するかとブライトは頭を悩ませていた。カイは「親孝行しにいっちゃいけないのか?」という。

「生き延びたいだけなら、それもかまわん」とブライトは答えるが、カイにしてみれば、命令だけで、こっちが困った時は何もしてくれない俺たち連邦軍の馬鹿な官僚や参謀の盾になって死ぬのが嫌だといいたい訳だ。ミライが「カイのいうことは正しいわ、でも今の相手はザビ家(ジオンを牛耳る連中)よ」といった後、「じゃ、(ジオンをやっつけた)後で連邦も叩くかいセイラさん?」とカイが訊く。

「政治のことはよくわからないわ、自由の為の戦いとしか」というセイラの曖昧な返答にカイは肩をすぼめるのだが、「曖昧でいいんじゃないですか」とアムロがいれる。嘗て、ジオンの創始者ジオン・ダイクンがいった「人の革新論」(※ニュータイプ)の行き着く先は、誰もわかってなかったのである。

※ニュータイプ
増えすぎた人口を宇宙生活者としてスペースコロニー(人工の大地)へ移民させ、地球とは違った環境で生まれ育った子供の中には、それに順応するかのように常人離れした特殊能力を獲得する者もいる。いわば、そういう者を種族としての革新と考えた概念のこと。思想や人格ではなく能力的に新しい人類ともいえる。連邦軍ではアムロやセイラ、後からミライやレビル将軍にもニュータイプと思われる映写がある。ジオンでは、シャアやララァがニュータイプに該当する。しかし、その定義は無きに等しく、誰も解ってない。当然、戦争に利用されることにもなる。

アムロは続ける。

「でも人間は環境に従って変化していく能力は持っています。そんな人の能力を阻止するものは拒否したい、それはみんなの感情の中にだってあるはずなんです。こいつは嫌だなとか、危険だなって感覚です。そんなものに対しては戦わなくっちゃいけないってことです。そう思いませんか?」

嫌だと思う感覚は外にない。全部内にある訳だ。だから、戦うことなく無視しとけばいい。ただ、環境に従って変化していけるというのは曖昧だからこそ可能になるのであり、台詞全体的には物事の的を得ていると思う。


閑話休題


「物事を白黒ハッキリさせたほうがいい」というのは、人類の悪しき慣習だ。これは恐らく、何でもかんでも「○×問題」で正誤を決めつけている学校教育の弊害だろう。だから、いい歳をした大人になっても、どちらかハッキリさせることが正しいことだと勘違いしているのだ。勿論、ハッキリさせたほうがいい場合もあるが、それよりも知恵のある者は曖昧を好むのだ。

これは経験上の話だが、相手から「思っていることをハッキリと言え」といわれて、事が上手くいったことは一度もない。真中が好きなんだよねえ、僕は。だから、赤、青、黄の三色のうちなら黄色が一番好きである。

例えば、告白してきた男性が王子様のような素敵な青年なら言うこともないだろうが、「こいつだけは関わり合いたくない」という人物だとすれば、どうだろうか?

ましてやストーカーのように付きまとわれ「君の気持ちを聞かせてほしいんだ。正直に言ってほしいんだ。そのほうが後腐れないから」なんて言われたとしても、僕が女性の立場なら、まずハッキリとは言わないだろう。相手の迷惑も考えずに自己都合を優先するような男だぞ。そんな奴は放っておいて自然消滅を狙うのが一番だ。それか愛想尽かされる方法を考えればいい。

反ってハッキリした態度を見せることによって、凶器になることもある。いや、そのほうが圧倒的に多いだろう。だから賢い者は、あえてハッキリさせずにおおらかな態度を取るものなのだ。その中で、頭を冷静にして何が一番ベストな方法かを考えるのだ。勿論、その中にはビシッと言ってやったほうが良い結果になる場合もある。だが、それはあくまでも選択の一部なのである。

つまり、我々の基本的なポジションは、赤でも青でもない。真中の黄色にある。そこで、赤と青のバランスを取っていくのである。

そういう意味では、日本語というのは随分と曖昧な要素を含んでいる。同じ音(おん)でも全然違うし、同じ漢字でも全く違った使われ方をする。また、全然違う単語でも、見た目が全く異なる言葉でも、それぞれ意味が同じだったりすることもある。こと使われ方という話になれば、それこそ千変万化になる。

それでも、会話が成立するのが日本語の優れているところだ。
言いにくい事でもマイルドに味付けすることが可能だからだ。なぜか?

それは、言葉の中に曖昧さが含まれているからだ。それがクッションになってくれる。言葉というものはあくまでもデジタルな現象だから、物事や真意を100%伝えることは出来ない。しかし、使い方によっては駆け引きすることが出来る。こちらが意図したことでなくても、相手は他の何かを読み取ってくれることがある。

まるで日本人が残してきた英知が詰まっているようだ。

何が白で、何が黒なんてことは重要じゃない。
それを忘れることが出来れば、心は平和になれる。

唯物主義が悪いとは思わないし、また良いとも思わない。
精神論が悪いとは思わないし、また良いとも思わない。
どちらでもないし、どちらでもあるのだ。

だから、どちらも取りこぼさぬように調和を取っていくことが重要だ。

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