(本好きな)かめのあゆみ -38ページ目

(本好きな)かめのあゆみ

かしこいカシオペイアになってモモを手助けしたい。

気鋭の社会学者による初の小説集らしい。

 

読み始めて

なるほど社会学者らしい

と思った。

 

と同時に

これは都市の(それと一体のものとして地方の)若者の

ある一面の現実ではあるけれども

それがすべてではないはずなので

社会学者としては危険な表現なのではないか

とも思った。

 

ここに登場する若者たちは

誰もみな同じように

劣悪な労働環境で低収入

希望なんてない

みたいに描かれている。

 

ある一面ではたしかにそうだ。

 

就職のタイミングでどの仕事にありつけるか

もっとさかのぼればどの家庭に生まれるか

によってその後の人生が既定されてしまうような社会。

 

ひとたびそっち側にはいってしまうと

もう希望なんて持ちようがないし

努力なんてする気も起きないこの社会。

 

息苦しい。

 

荒んでいかないわけがない。

 

カップラーメン

ファストフード

コンビニ

そして

ビニール傘。

 

それらが彼ら彼女らの息苦しさ生き辛さを象徴している。

 

彼ら彼女らには努力が足りない

なんてぼくはいうつもりはない。

 

やはり家庭環境によって進める道はある程度限定されるのがいまの現実。

 

それを乗り越えられるのは一部の少数者であって

それをすべてのひとにあてはめるのは無理がある。

 

少子化してるっていうんだったら

もっと社会はこどもや若者に金をかけられるんではないだろうか。

 

若者に元気や希望がない社会は

中年や高齢者にとってもつまらない社会なのではないだろうか。

 

でも中年や高齢者も生きるのに必死で

若者に構ってられない。

 

ああなんだかつらい。

 

こういう社会批判はもちろんあるけれども

かならずしもそうではない元気で希望のある若者だっているのは事実。

 

彼ら彼女らだって必死に生きてる。

 

それに

息苦しさ生き辛さを象徴している

カップラーメン

ファストフード

コンビニ

そして

ビニール傘

だって

シチュエーションによっては

豊かで楽しい人生の舞台や小道具になることを

ぼくは知っている。

 

 

 

--ビニール傘--

岸政彦

パワフル。

エネルギッシュ。

 

肉子ちゃんとキクりんはなんで同じ名前なの?

キクりんのお父さんってどれ?

お父さんが美形だったってこと?

それにしても肉子ちゃんアホすぎるやろ!

まあこういうひとときどきいるけどあんまり関わり合いになりたくない。

っていうかキクりんかわいそう。

でもお母さんやしなあ…

 

などと思いながら読んでいた。

 

西加奈子さんの作品には

わかりやすく素敵なひととか

無条件で共感できるひとなんて出てこない。

 

みんなどこかしらいびつな面を持っているけれども

そんなんも全部ひっくるめて憎めないっていうか

愛すべき存在。

 

おとなもこどももみんな誰でもなにかを抱えて生きている。

 

それにしても肉子ちゃんほんとにいけてない。

 

トイレットペーパーをセットするとき上下が適当だし

食後のデザートに唐揚げだし

水族館のペンギンをペン太って勝手に呼ぶし

休日は休日っていうだけで自動的によろこび

お葬式はお葬式っていうだけで自動的にかなしむし

どこに行っても関西弁を捨てないというかさらに強調するし。

 

いろいろあって終盤。

 

キクりんの

客観的で分析的で冷静で一歩引いたようでいて

でも愛のある視点がとても好きだったけど

そういう事情があったなんて。

 

でもそれも含めてキクりんは魅力的。

 

愛しくて抱きしめたくなる。

 

大丈夫だよ、きみはきみのままでいて

とか言いたくなる。

 

終盤のサッサンのキクりんへのことばが沁みる。

 

そして肉子ちゃん。

 

すごくいい。

 

ぼくは付き合いきれないけどすごくいい。

 

こういうひとを素直に愛せるひとになりたかった。

 

でももうなれないだろうなあ。

 

架空の漁港のあるまちでの

肉子ちゃんとキクりんとまちのひとびとのいろんなこと。

 

この地方のことばがかわいい。

 

元気出るわあ。

 

西加奈子さんのあとがきも

思いがこもっていてすごくいい。

 

真摯。

 

 

 

 

 

--漁港の肉子ちゃん--

西加奈子

序盤は

ああまだこの年齢の感情は未知なるものなのでいまひとつよくわからないわ

まあこの年代のひとがみんなこんな感じで日々生きているわけではないだろうけど

ぼくなんかはわりにこんな感じで生きてそうな気がするな

わからないけど

っていう感じでなんとなく薄い印象で読んでいたのだが

118ページから惹きこまれた。

 

ロッキー。

 

不屈。

 

まあそういうのではないかもしれないがとにかく熱かった。

 

静かな熱量。

 

ひとりであってひとりでない。

 

これまでの人生におけるさまざまな時期の自分。

 

それがあってのいまの自分。

 

これからの自分。

 

つながっていく。

つながっている。

ささえられてる。

まえにすすむちからをくれる。

 

ぼくも考えるのが好きな方なので

桃子さんの感じはなんとなくわかる気がする。

 

東北弁

っていうくくりのことばがあるのかどうかはわからないけど

桃子さんのことばは思索にうってつけだね。

 

終盤はおだやかなエピローグみたいなものかな

って思ってたらラスト。

 

ああ

こんなところに未来が。

 

そして未来は現在を照らす。

 

 

 

 

--おらおらでひとりいぐも--

若竹千佐子