元もじぴったんプロデューサーの生の知恵ブログ -12ページ目
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商売で本当に大事なのは「売上・利益」より「信頼」

商売において、確かにお金は大事である。それがなければ本来やるべき事が出来なかったりする事もある。

しかしながら、売上や利益をあげようとするあまり、お客様や取引先の信頼を失ってしまっているケースはこの業界にも少なくない。


発売すれば明らかに不満が出るだろうタイトルをスケジュール優先で発売したり、足りない売上を補うために、クオリティの伴わないタイトルを連発したり...


そうすれば短期的に売上利益は上がるかもしれないが、実際には本当に大事な「信頼」を失って、将来の売上利益を失っているのだ。


時に、少しの事で企業やブランドは大きく信頼を失ってしまう。

そして、その失った信頼はそう簡単には回復できない。


かつてNo.1のブランドだった「雪印」の例を挙げるまでもないだろう。


簡単には積み上がらないが、プロデューサー(あるいは経営者)の仕事は、その信頼をコツコツと積み重ねていく事だ。


その信頼、ブランドこそが本当の財産なのだから。


戦略の発想がなければモノは売れない

僕は商売の成功に必要なのは「戦略」であると思います。


「戦略」とは「戦い」を「略する」事です。どう戦うか、ではなく、いかにして「戦わないか」。

商売においては多くの場合、「戦った時点で負け」になるのです。
価格競争、ボリューム競争、品質競争....

消費者にとっては短期的に見れば嬉しい事のように見えるかもしれませんが、その競争で生き残れる企業、ブランドは一握りです。企業は身を削って生き残りを計るしかなくなります。

ですから戦いをしないために、知恵が必要になります。
  • まず第一に商品の狙いが他にない事。そもそも競合商品がないモノを作るという事。
  • 他にマネできない事をする事。自分たちの個性を生かして他に出来ない事を仕掛ける事。
  • 土俵の上で戦うのではなく、土俵を作ってしまう事。そこに1番乗りすること。
  • 自社だけでなく他社にも大きなメリットがあるようにすること。(etc...)

これらを実現するためには、クリエイティブ、非常識な発想と、そこから一本の道筋を見いだす能力が必要になります。

プロデューサーの大きな仕事の一つはこの「戦略立案」にあるのです。

今世の中に出ているゲーム商品を見て思うのは、殆どに戦略がない、という事です。
表向きによく見えているもの(売れているもの)にはちゃんと戦略がある場合が多いから、そう感じないかもしれませんが、その陰で戦略なきまま発売され、まったく売れない商品が山のようにあります。

カイガイ戦略、とかいいつつ、ガチ勝負してわざわざ負けに行ってるとか、その最たる例ですね。

プロデューサーにも非常識発想が求められている

ゲーム業界でモノが売れて行かなくなった原因の一つはゲームにアイデアと、それを産み出すクリエイティブが足りないからだ、という話をしました。


僕は同時にゲームプロデュースにも非常識な発想、クリエイティブが求められているのに、足りていないと感じます。
ゲーム自体に魅力がなければ売れないのは当然ですが、仮にそのゲームに新しいアイデアと魅力があったとしても、プロデュースがダメなら売れないのです。もちろん予算をたっぷりかければ沢山の広告をして売る事ができるかもしれませんが、普通は考えつかないようなアイデアで、お金をかけなくても商品の魅力を届けるべき人に届ける、という事がプロデューサーには必要とされます。

コンシューマーゲームですら、国内で1年に1000本程度のタイトルが発売されています。普通の売り方をしていても、商品は売れていかないのです。

あえてコンシューマーゲームで例をあげますが、ゲームのリリースをうって、ゲーム雑誌に掲載して、ホームページ作って、見たかどうかよく分からない程度のTVCMをして(するだけましな場合が最近は多いですが)、タイトルと絵だけ描いてあるパッケージを出して、発売後数週間たったら、もう何もしない。そんなのが普通になってます。

あたりまえかもしれませんが、ゲームプロデューサーには非常識発想、クリエイティブな能力が必要とされています。同時に冷静な分析能力も必要で、それらを組み合わせて他に無い戦略を持たなければどんなにいい商品でも簡単には売れないのです。

残念ながらこの業界に、そういう能力を発揮できるプロデューサーは多く育っていません。

僕自身もまだ勉強、経験ともに足りませんが、今までの経験を活かして今後プロデューサーとなる人に役立つ知恵を提供できたらよいと思っています。

教える事は学ぶ事ですしね。


枯れた技術の水平思考

最近あるゲーム会社の経営者がこうこぼしたそうです。

「最近はクリエイターがいなくなった。皆サラリーマンになってしまった」と。
僕も確かに同じ事を考えていました。
でも多分、それを言った経営者はそうなったのは何故なのか、については分かってはいないでしょう。分かっていればもう行動に移しているはずですから。

過去のエントリで言いましたが、ゲーム機のハードの高機能化、高度化を「常識」とし、そのハード用のゲームの開発にお金が過去の2倍も3倍もかかることを「常識」としてしまっていたのが、僕はそもそも間違っていたと思います。

当然、利益は圧迫され、経営的に余裕がなくなり開発者からは自由を奪う方向に行くでしょう。自由を奪われた開発者からはクリエイティブが自然と失われます。

遊びは遊び(ゆとり)から生まれるんです。

場合によっては、本当にクリエイティブな人ほど、その会社から離れる事になるでしょう。
ハードが進化したなら、逆に開発費は1/2, 1/3になってもいいのでは?高機能だからって全部の機能を使い切らなくてもいいのでは?こう考えるのはナムコ(バンダイナムコゲームス)でもごく少数でしたが、少なくとも僕は、

「お客様を楽しませる事が目的ならば別にすごい技術やすごいハードは必要ない。そこに必要なのはアイデアだ」

と10年前から考えていました。

最初の家庭用もじぴったんの開発費は社内でも1,2を争う低予算でした。当時の社内の別プロジェクトに「ああ、あのプロジェクトは12もじぴったんだね(もじぴったん開発費の12倍の意味)」等と笑いながら言ってました。

PS2版のもじぴったんは、PS2の処理能力の数%しか使ってませんでした。通常、ある程度の処理をするゲームは最後にチューニングして、処理スピードを上げないといけない事が多いのですが、もじぴったんには殆ど必要ありませんでした。メモリがたっぷり余るので、オンメモリ(全部最初にロードして、途中のロードなしにする)にすれば、さくさく遊べていいからそうしよう、とプログラマに言いました。技術的にはそっちが簡単だし、お客様にもメリットがあるからです。

種明かしをすればお手本がありました。

「枯れた技術の水平思考」

これは元任天堂でゲームボーイ等の開発をした故横井軍平さんの言葉です。
DSやWiiが従来の延長線上、つまり常識的な考え方ではない方向で発想されて世の中に出たのは、任天堂にその考え方が根本的にあったからだと思います。

横井軍平さんの事をもしご存じなければ関連書籍を悩めるゲーム開発者に是非読んで欲しいと思います。

ゲームの父・横井軍平伝  任天堂のDNAを創造した男
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横井軍平ゲーム館 RETURNS ─ゲームボーイを生んだ発想力
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ナムコ入社時に感じたワクワク感

13年前、僕がナムコに入社したとき、その開発の自由な、自由すぎる環境に本当に驚きました。当時僕は大型、中型筐体、いわゆる体感ゲームなどを作る部署にいました。そこにあるものはゲームセンターの未来でしたし、僕らは本当にワクワクしながら物作りをしていました。

僕はたまに自分の席を離れて社内を歩き回るのが好きでした。のぞき込むと見たこともないものが動いていたりしました。声をかけると、皆喜んで説明してくれたものです。それらも、誰かにやれと言われたわけではなく、結構勝手に作ってみたとかそんなものが一杯あったのです。

ナムコの未来研究所(今はなくなりましたが横浜の都筑にありました)に行くと、なんじゃこりゃ!な試作品や完成間近の筐体が動いていたりしました。試作室は大きな町工場という感じでしたが、本当に、そこにはゲームセンターの「未来」があったのです。

驚きがありました。この場にいないと見られないという事、これが世の中に出たらどうなんだろう?と考えて、ワクワクしてました。

今になって思うと、ワクワクしている人達が人々をワクワクさせる構図があったのです。ナムコの往年のゲームが産み出された環境はこんな自由な雰囲気のおかげだったのだと思っています。

今ゲーム開発の現場にあのワクワク感はあるでしょうか。
ないとしたら、何故ないのでしょうか。

エンタテインメントには驚きが必要

分かっている人にはあたりまえの事かもしれないが、僕は今のゲーム業界にはクリエイティブとアイデアが不足していると思う。


常識的には発想できない事を発想し実現するのがクリエイティブ。その結果として今までにないアイデアが生まれる。今までにないアイデアを産み出すためには常識を破る必要がある。常識的に考えたものは誰もが想像がつくものになるからだ。エンタテインメントには驚きが必要とされている。驚きとは予想しなかった、つまり常識的に考えても想像もしなかったことが起こった時に人は感じるのだ。
そういう驚く、楽しい事が次々に起こるとき、人はワクワク感を感じる。そのワクワク感こそがエンタテインメントには求められているのだ。僕と同世代のゲーム好きな人なら分かるだろうが昔はゲームにはそのワクワク感を感じていた筈である。今はどうだろう。あの時のようにワクワク感を感じられているだろうか。

今のゲーム業界には驚きが足りない、と思う。クリエイティブが不足しているのだ。結果新しい驚きのあるアイデアが出てこない。お客様はワクワクしない。結果的にゲームに何かを期待している人は減少しているというのが現状なのではないかと思う。

残念ながらゲーム業界でこの事を理解して行動に移している経営者は本当に極少数だ。
ネガティブなループに入って余裕がなくなっている今は、それどころではないと考えているかもしれないが、そういう時こそ本当はクリエイティブである事が大事なのだけれど。

今のゲーム業界に足りないのは「クリエイティブ」と「アイデア」

今からおよそ10年前、僕はナムコで働きながら、当時のゲーム業界の流れになんともいえない違和感を感じていました。PlayStation 2 が絶好調な時代、ゲーム開発者の誰もが「綺麗でリアルなグラフィックのゲームが売れる」と言わんばかりに開発に時間とお金をかけて、そのような方向に進んでいました。確かにそのような指向のゲームにヒット商品は生まれていたし、PS2でなければ実現できないゲームを作るというのは、確かに当時の進む方向性の一つではあったとは思います。


ただ、そういう方向性で進んでいくとPlayStation 1 の時代に比べて遙かに開発費も時間もかかるにもかかわらず、売り上げが2倍、3倍になるか、といわれれば決してそんな事はなかったように思います。何かがおかしい、僕はそう思っていました。
そんな時に出会ったのが「もじぴったん」の企画。アイデアにあふれた、シンプルで今までにない面白さのゲームでした。僕がやりたかったのはこういうものだ、そう思い立ち上げからずっと「もじぴったん」に関わってきました。

その後ハイエンド機の話が段々明らかになっていくと同時に、PlayStation 2の時でも開発費の高騰とそれに見合う売り上げが上げられるか微妙な状態だったのに、いったいどうなるんだろう?本当に従来の延長線でモノ作りをしていくべきなのだろうか。それを疑問に感じていました。僕はもっと違う発想、アイデアが必要に感じていました。

10年経って、あの時に感じていた違和感が、ただの思い過ごしではない事を実感しています。今後しばらくの間、立ちゆかなくなるゲーム会社が続々と出てくるでしょう。
今のゲーム業界に足りないのは「クリエイティブ」でありそれから生まれる「アイデア」だと思います。残念ながら構造的に本当にクリエイティブが発揮できる環境でゲームを作っている人は希でしょう。

ですからネガティブスパイラルに陥り、さらに「アイデア」が不足する状況にあるのです。

次回は何故「クリエイティブ」と「アイデア」が必要なのかについてお話しようと思います。

中村が伝えられること

2000年にナムコで構造改革がありプロデューサー制がスタートした際、中村は最初のプロデューサーとして「もじぴったん」の担当になることになり、当時ちょうど開発のスタートしていたPS2,GBA版のもじぴったんの開発にあたりました。

プロデューサー、といっても会社や組織によってその役割は異なります。ナムコでの当初のプロデューサーの役割は、商品の開発リーダーであり、宣伝等も含めてトータルに商品の総責任者という役割を任されていました。
予算管理、進捗管理、チームマネージメントだけでなく宣伝、販売戦略の立案を担当しました。当然商品の売り上げ利益については一番責任を持つというのがプロデューサーでした。
元々プログラマの自分は家庭用製品を手がけるのも初めてで、流通の仕組みも宣伝のやり方も何も知らない状態で、なおかつナムコ社内では低予算のプロジェクトだったので、ディレクターも兼任しつつ日々分からないことを社内で聞きまくり、勉強、勉強の日々を過ごしていました。
当時の自分を突き動かしていたのは、「もじぴったん」というゲームは世の中にとってもっと価値がある商品であって、なんとかして沢山の人に遊んで貰ってその価値を知って欲しい、このおもしろさを感じて欲しいということでした。

しかしながら、色んなところで壁を感じていたのも事実でした。

商品の価値をお客様に感じてもらって購入していただく、ということがどれだけ難しいか、ということは日々感じていたし、ではどうしたらよいのか、ということをずっと考え、思いついた事は行動に移してみました。
そんな中、様々な出会いがありました。一つは社内研修をきっかけとしたマーケティングとの出会い。
徹底した現場主義、科学的なアプローチのやり方が自分には合っていたのかもしれません。吸収できるものは吸収し、実践、方向修正を繰り返し、自分の中でノウハウといえるものが段々溜まってきました。
ゲームデザイン、マーケティング的ノウハウだけでなく、仕事に対する取り組み方、商売にとって大事なこと等、それから働いていく上で必要になることを多岐に渡ってお伝えできるかと思います。

プロデューサーの知恵を身近に

元(と言った方がいいのかな?)もじぴったんプロデューサーの中村と申します。

今年(2010年) 3月末にナムコ(現バンダイナムコゲームス)を退社して、現在はフリーです。
最初はソニーにて携帯電話の開発にソフトエンジニアとして関わった後、どうしてもゲームを作ることを仕事にしたい夢を捨てきれず、ナムコへ転職し、その後13年間業務用ビデオゲーム、家庭用ビデオゲームなどの開発に携わりました。

代表作となった「ことばのパズル もじぴったん」シリーズでは、メインプログラマ、ディレクター、プロデューサーという形で関わり、一つのブランドをそこそこのヒットにするまで現場のリーダーとして関われたことは僕にとっては大きな財産となりました。

実は、ナムコ社内で4年に渡って社内で僕が実際にプロデューサーとして体験した経験、知識、あるいはノウハウ、知恵というものを少しずつブログの形で書いていました。
かなり「濃い」内容でしたので、ナムコ社内でも非常に人気があるコンテンツであったと思います。時には「そんなの書いたら首だろ!」寸前の記事もあったように思います。

退社して最初に思ったのは、4年に渡って書いてきたそれらの知恵は、(もちろん秘密にあたることを除いては)広く公開できるのではないかということです。

退職直前に、ナルトシリーズの開発で有名な、サイバーコネクトツーの松山社長から是非講演をして欲しいという話をいただいていたので、5,6,7月の3回に渡って講演をさせていただきました。もちろん、この講演で話した内容は、そうした僕の経験から得られた知恵のほんの一部に過ぎませんが、Ustreamによる中継など、これまでにない試みを行えてよかったと思います。
http://www.cyberconnect2.jp/live/
講演も終了したところで、このブログを立ち上げることにしました。
ゲーム開発関係者だけでなく、商品サービスを企画する方、エンタテインメントに関わる方など多くの人の参考になれば、と思っています。
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