Tomorrow’s Girls
Donald Fagen
Our town is just like any other
Good citizens at work and play
Normal folks doin' business in the normal way
This morning was like any other
Mommies kissing daddies goodbye
Then the milkman screamed
And pointed up at the sky
私たちの町は、他の所と似たようなもの
良い住民が、働いたり遊んだり
普通の人たちが、普通に働いている
今朝もいつも通りだった
奥さんたちはキスをして、ダンナと別れていた
そんなとき、牛乳配達員が叫んで
空を指さした
『ヒップの極意』(ドナルド・フェイゲン著、DU Books)を読んだ。「皮質・視床停止ーSFで育つ」の章で、彼のSF好きを充分に紹介している。「サイエンス・フィクション・ブック・クラブから最初の[今月の本]が送られてきたのは、12歳のときだった」とのこと。SF小説を定期購読するほどだったわけだ。フィリップ・K・ディックやジャック・フィニィ、ヴァン・ヴォークトといった、著名な作家の名前が出てくる。
1番の歌詞に出てくる、「牛乳配達員が叫んで空を指さした」という表現は、いかにも昔のSF映画のようで、「ジャジャーン」とか「ガガーン」なんて効果音が似合いそうな場面。穏やかな日常から、大きく場面が展開していく。
From Sheilus to the reefs of Kizmar
From Stargate and the outer worlds
They're speeding towards our sun
On a party run
Here come tomorrow's girls
Tomorrow's girls
シールス星から、キズマール星の岩礁まで
スターゲートと、外の世界から
我々の太陽へ急いでいる
賑やかにね
トゥモローズガールたちが来るよ
未来の娘たち
「Sheilus」を調べて、夜空で最も明るい星シリウスかと思った。でも、続く「Kizmar」と共に、「Titan」というネットSF小説(?)に出てくる、架空の星のようだ。
ドナルド・フェイゲンが、2012年に音楽のツアーへ出かけて、ライブ会場に相当な不満があったときのこと。自分のマネージャーに鬱憤を書いたメールを出す。「もうたくさんだーー次元を超越してやる。6004年7月11日の午後2時に、セレッション・シティにあるヒッグスとユニックスの角で会おうじゃないか」と、現実逃避。日常の中でも、こんなSF的な文章表現が、充分に身についているのだろう。
そのツアーは「デュークス・オブ・セプテンバー」というバンドに帯同。ボズ・スキャッグスやマイケル・マクドナルドとコラボしたもの。そのツアー日記に「TVベイビー」という言葉が出てくる。
例えば「昨夜のサンホセは、いちばん出来の良かったライブ。年齢層もぴったりで、TVベイビーはあまりいなかった」とのこと。かなり馬鹿にした表現で、他にも似た文章が何度も出てくる。ドナルド・フェイゲン自身が説明してくれている。「わたしのいうTVベイビーは、TVが完全に子どもたちのロボット子守役になり、それゆえ彼らの魂を主に形成することになる、そう、1960年以降に生まれた人々を指す」
2012年の時点で、ドナルド・フェイゲンは64歳。1960年以降生まれとは、52歳以下の人に当たる。要するに、若いヤツは気に食わない、ということか。
女性に対しても同じで、ホテルのプールサイドでスマホ(ブラックベリー端末)をいじるギャルをTVベイビーと呼んでいる。
そう考えると、この賑やかにやって来る「トゥモローズガールたち」を、ドナルド・フェイゲンは苦々しく、悪く捉えているんだろうなと思われる。
You see them on the grass at lunch hour
Soaking up the vertical rays
In their summer dresses
A little smile can really make your day
Their kisses feel like real kisses
And when they cry they cry real tears
But what's left in your arms
When the static clears?
昼時には、芝生の上で見かける彼女たち
天からの光を吸い込んでいる
夏の装いに身を包んで
微笑みかけられたら、幸せな気分になるぜ
あの娘たちのキスは、本物のキスの味
泣くときは、本物の涙を流す
でも、雑音が消えたら
君の腕の中に、何が残るっていうのか?
でも、そんな彼女たちに微笑みかけられて、恋に落ちてしまう。恋に落ちるのは、地球の男たちだ。キスや涙は、その人間らしさを表すが。突然、腕の中から消えてしまう。肉感を持ちながらも、はかなく消えてしまう不思議な存在がトゥモローズガールたち。それでも、強い魅力を持っているのだろう。
ピンク・レディーの『UFO』では、宇宙の男の魅力が歌われる。地球の男では味わえない、感じ得ない恋愛の形や情感が、歌詞に表されていた。この『Tomorrow's Girls』では逆に、宇宙から来た女性の魅力が歌われていると言える。ただ、恋愛の形は地球スタイルのようだ。本物のキス、本物の涙、これらがあれば、そりゃあ地球の男は恋に落ちるよなぁ。
They're landing on the Jersey beaches
Their engines make the white sand swirl
The heat is so intense
Earth men have no defense
Against tomorrow's girls
Tomorrow's girls
あの娘たちは、ジャージー島の海岸に着陸している
そのエンジンで、白砂が渦を巻く
排気熱は強烈で、
地球の男には、守る術はない
トゥモローズガールたちにはあらがえないのさ
明日の娘たち
いかにも宇宙船で飛来したような表現が出てくる。未知の技術や機械が前面に出て、今までの女性らしい柔らかい言葉からは、大きな変化となる。急にトゥモローズガールたちは、取り付きにくい存在と感じるようになってしまった。「守る術はない」なんて、トゥモローズガールたちは一体どうするつもりなのか。地球を侵略しようとするのか・・・。
もし、宇宙人が攻めてきて、それがかわい子ちゃんばかりだったら、あなたはどうします?
In the cool of the evening
In the last light of the triple sun
I wait by the go-tree
When the day's busywork is done
Soon the warm night breezes
Start to rolling in off the sea
(Warm night breezes rolling in off the sea)
Yes, at lantern time
That's when you come to me
(Come to me)
Come to me
夜の涼しさの中
3つの太陽が、最後の光を照らしている
ゴーツリーの側で待っているのさ、
1日の忙しい仕事が終わるのを
もうすぐ、暖かい夜の風が
海から吹き込み始める
そう、ランタンの明かりを灯すとき
キミがボクの元へ来るときだよ
ボクの元へ
1番は朝、2番は昼、そしてこの3番は夜と、違う時間の中で見せる情景を歌っている。夜の場面になり、音楽の雰囲気も急に穏やかになった。見たことも聞いたこともない超自然の景色が歌われ、どこか別の星にいるような雰囲気となる。
ここで出てくる「ボク」は誰なんだろう?ここに来る「キミ」も、トゥモローズガールたちのことなのか?海辺のコテージみたいな場所で男女がしっぽりみたいな、穏やかではあるけど胸躍る歌詞。ボクとキミは、恋に落ちている。
Ah
Our home is just like any other
We're grillin' burgers on the back lawn
Some time goes by
We fall asleep with the TV on
I dream about a laughing angel
Then the laugh becomes a furious whine
Look out, fellas
It's shredding time
私たちの家は、どこにでもある家
裏庭でハンバーガーを焼いているんだ
しばらく過ぎて
テレビをつけたまま、眠ってしまう
笑顔の天使が夢に出てきて
すると、その笑顔は、怒り狂った泣き声になる
注意しておくんだ、お前たち
細切れの時間が来るぞ
夢の中で、天使が出てきた。この天使は、誰なのか。トゥモローズガールのこと?もしそうだとするなら、その真なる姿、その恐ろしい姿がここから現される。なんと彼女らは、笑顔から急転直下で怒り狂うような女性特有の(というのは、大変な失礼な表現であるのは、重々承知ですが)存在のようです。これを読んでいる男性諸氏なら、そのような存在に思い当たる節があるかもしれません。シュレッダーのように細切れにされちまうぞ、気をつけろ!
They're mixing with the population
A virus wearing pumps and pearls
Lord help the lonely guys
Hooked by those hungry eyes
Here come tomorrow's girls
あの娘たちは、人々に紛れている
パンプスと真珠で着飾ったウイルスさ
ああどうか、孤独な男たちを救ってやってください
愛に飢えたせいで、夢中になってしまっているんだ
トゥモローズガールたちが来る
「孤独な男たちは、愛に飢えている」、そのせいでトゥモローズガールたちに「夢中になってしまっている」。でも、彼女たちは宇宙から来たウイルスも同然で、科学を超越した侵略者なのだ。だからこそ、男たちを救わなきゃいけない。たとえ、たとえ、どんなに魅力的な姿をしていても。
From Sheilus to the reefs of Kizmar
From Stargate and the outer worlds
They're speeding towards our sun
On a party run
Here come tomorrow's girls
Tomorrow's girls
Tomorrow's girls
シールス星から、キズマール星の岩礁まで
スターゲートと、外の世界から
我々の太陽へ急いでいる
賑やかにね
トゥモローズガールたちが来るよ
未来の娘たち
『キーボードマガジン』1993年9月号は、この曲が入っているアルバム『KAMAKIRIAD』発売に合わせてのドナルド・フェイゲン特集を組んでいる。記者はアルバム全体を「新しい蒸気の自動車”カマキリ号”の誕生を語る。後部の荷台に水耕栽培の野菜畑を完備した特注品で、派手に破壊された未来を展望する旅を続け、最後に寂しい”フライタウン”にある”ティーハウス・オン・ザ・トラックス”に到着するまでを語っている」と紹介する。ドナルド・フェイゲンは「SFの場合、プロットやキャラクターに関しては、完璧なまでに自由だから。・ストーリーを考えるのに、それは良い前提だと思ったんだ」とのこと。その思い通り、想像の飛躍を促すような素晴らしい曲、アルバムだと思う。
You're not my Ruthie, You’re not my Debbie
You're not my Sherry
You're one of tomorrow's girls (Tomorrow's girls)
キミはボクのルーシーじゃない、
キミはボクのデビーじゃない、
キミはボクのシェリーじゃない
トゥモローズガールたちの1人さ
ここからの部分は、似た歌詞が繰り返される。「ボク」は誰なのか?海岸でランタンを灯し、キミを待っていた「ボク」なのか。もしそうなら、自分の愛している女性は来なかったことに落胆しているのか。「どうせ、キミもトゥモローズガールの1人だろ?」って。言い換えれば、「キミもTVベイビーの1人だろ?」と、相手の女性を馬鹿にしているのかもしれない。もう少し言えば、本物のキス、本物の涙を流し、穏やかで、落ち着いた感情を持った、本物の女性を見た目や上辺の雰囲気にだまされずに探せ、とでも訴えたいのか。
You're not my Nancy, You’re not my Barbie
You're not my Betty, You’re one of tomorrow's girls
Not my Julie, Not my Chloe
Not my Judy You're one of tomorrow's girls
You're not my Rona, You’re not my Mona
Not my Sarah, You’re one of tomorrow's girls
You're not my Lucy, You’re not my Linda
You're not my Lisa, You’re one of tomorrow's girls
You're not my Joni, Not my Judy
Not my Rosie, You’re one of tomorrow's girls
Not my Dottie, Not my Lottie
Not my Lina, You’re one of tomorrow's girls
Not my Cindy, Not my Mindy
Not my Sally, You’re one of tomorrow's girls
You're not my sister, You’re not my mother
Significant other, You’re one of tomorrow's girls
ボクの妹でもない、母親でもない
大切な存在でもない、トゥモローズガールたちの1人
Not my Ellie, Not my Emmy
Not my Susie, You’re one of tomorrow's girls (Tomorrow's girls)
Not my Annie, Not my Lani
Not my Carrie, You’re one of tomorrow's girls
You're not my Brenda, You’re not my Wanda
You're not my Sonya
参考、引用文献
『ヒップの極意』ドナルド・フェイゲン著 DU Books
『キーボード・マガジン』1993年9月号 リットーミュージック