最近、ふたたび登山に目覚めた私は、奈良県の奥地、大峰山脈から大台ヶ原周辺の山をたいそう気に入っているのであります。
そして、奈良県の東部で高速を降りて南の方に走っていくと、桜で有名な吉野があります。
そのあたりまで来ると、電柱に付いている看板に「陀羅尼助」という文字がたいそうたくさん出てくるのであります。
「陀羅尼助？ いったい、なんぞや？ そもそも、なんて読めばよいのだろう？」
この看板には、以前から奈良県の奥地の温泉をめぐっているときにもよくお目にかかっていたのであります。
で、今回、この陀羅尼助について、ちょっと調べてみたのであります。
読み方は「だらにすけ」。胃腸に効く名薬として知られる漢方薬なのであります。
胃腸のことならなんにでも効くといわれており、正露丸のような薬とイメージしていただくとよいのかもしれません。
この陀羅尼助は、修験道の開祖である役行者がつくり、「自分が死んだあとにも、この薬を多くの人に施せ」と、製薬方法を弟子の前鬼・後鬼に伝授したものらしいのであります。
前鬼・後鬼は元々は大峰山脈に住んでいた鬼なのですが、役行者の法力により、役行者を手伝う召使いのような弟子のような存在になったらしいのであります。
架空の話のように聞こえますが、奈良県の釈迦ヶ岳の麓の大仲坊というところには、いまだに前鬼の里と呼ばれる修験者たちの宿があり、前鬼の子孫のみなさんが経営しておられるのであります。
修験道の行者さんたちは、いまだに大峯奥駈道の修業に行っておられます。大峯奥駈道とは世界遺産になった『紀伊山地の霊場と参詣道』の一部で、吉野から熊野本宮大社に至る山脈の参拝ルートなのであります。
その山脈を歩き通す際、前鬼の里が中間地点にあたるので、ここで休息をとられるのであります。
さて、陀羅尼助を買おうと思ったら、現代人である私どもはドラッグストアや薬屋さんに行けば、胃腸薬の一つとして売られていると想像しますよね。
ところが、現代文明ではちょっと信じられないのですが、なんと奈良には陀羅尼助屋さんがいっぱいあるのです。
売っているのは陀羅尼助だけ。
それも、縁側のようなところに腰かけたり、玄関を入ったところの座布団に座ったりして「陀羅尼助ちょうだい」と言い、横に陳列してある数種類の陀羅尼助の中から欲しいものを購入するという、「江戸時代か！？」というようなお店なのであります。
そもそも吉野および洞川温泉は町並が江戸時代。陀羅尼助屋さんのほかに、吉野葛だけを売っている店、柿の葉寿司だけを売っている店もたくさん存在するのです。
江戸時代はこれだけでやっていけたでしょうが、令和の現代、これじゃあメシは食えないだろうと想像するのですが、頑なに伝統を守っているようなのです。
話は陀羅尼助に戻りますが、この薬はとてもちっちゃな粒で、15歳以上の大人は1回30錠飲まねばなりません。
30錠が透明のフィルムで個包装されているのもあるのですが、昔ながらの飲み方は、小さな凹みが10個ある専用スプーンで粒々を3回掬って30を数えて飲むのであります。
私はこのスプーンを使いたかったので、わざわざバラ売りのほうを買ったのであります。
ということで、買ったばかりの陀羅尼助、専用スプーンで掬ってみたのであります。10粒上手に取りたいのですが、これがなかなか10粒揃わず、必ず2〜3粒落ちてしまうのもまたおもしろい。
結局、ちっちゃい黒い粒々を指で30個数えて飲まなければいけなかったのでありますが、この不便さこそ私が求めていたものであったのであります。
あとで調べたところ、陀羅尼助はドラッグストアでも売っていることが判明。しかし、包装からして私が求めたような風情があるものではなく、現代的な陀羅尼助なのでありました。
そして、陀羅尼助を飲みつづけているせいか、なにやら食欲旺盛な今日このごろなのであります。
ニコニコ動画にて
【お知らせ】 2021年9月・10月の生放送は、平のスケジュールの関係で ＜木曜21時＞ の放送となります
次回は、10/21日（木）21時～ 『運命の出会い症候群』
10/28日 （木）21時～ 「師弟スペシャル対談」ゲスト：池尾千里
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