私はアナログ人間なので、「ちょっと、いい曲、ないかなぁ?」というときはいつもCDショップに行っていたのである。
大きいCDショップには無料試聴できる機械があり、その店のおすすめのCDなんかが聴けるようになっているので、私は運命の曲を求め、ウロウロとしていたのである。
ところが、昨今の日本の音楽事情はといえば、町からどんどんCDショップがなくなっていっているという現実がある。私の地元でも、いつも愛顧しておったイオンショッピングモールの『ミヤコレコード』がなくなったのである。
「私と音楽をつなぐ最後の一本の糸が切れた‥‥」
そう事務所で嘆いていたところ、私に言わせるところの“ITの申し子”、「困ったことは成井に聞け」の成井ちゃんから、『iTunesレコード店』のことを教えてもらったのである。
成井ちゃんは私のiPadをぶんどると、なぜか知っている私のApple IDとパスワードを勝手に入力し、私のiPad上にレコード屋さんを一軒開店させたのである。その所業はもはや神業といってもいい。
「神様、仏様、成井様。どうか、私に大きいレコード店をください!」
「よしよし、その代わり、お賽銭ならぬ給料をもう少し上げるのじゃぞ」
‥‥というかんじで、私にレコード店を1軒、プレゼントしてくれたのである。
そして、使いはじめてみて、「ああ、びっくり!」。
いままでの私は、レコード店で無料試聴していい曲が2〜3曲あると、そのアルバムを3,000円ほど出して買っていたのである。
が、しかし、このiTunesレコード店のすごいところは、アルバムの曲をバラ売りしてくれるところなのである。
と、私が偉そうに言わなくたって、読者のみなさまはそんなことぐらいとっくにご存じであろう。
しかし、御年57歳、昭和レコード育ちの私からすれば、もう、びっくりなのである。
「な、なんと、LPレコードの曲をバラ売りに!」
いままでは3,000円出してアルバムごと買っていた好きな曲を、1曲250円、3曲であれば750円にダンピングして買えるのだから‥‥。
そりゃあ、町のレコード店はつぶれますよね‥‥;;;
アーティストからすれば、「アルバム全曲で私を表現している」と言いたいところであろう。
が、「きみの目元だけをずっと見ていたい‥‥」とか、「そのかわいい耳たぶを愛したい」とか、そんな男心もあることを理解していただきたいのである。
さらに、である。
この『iTunesレコード店』のいちばん素晴らしいサービス‥‥というかコンシェルジュぶりは、何曲か購入しただけで私の趣味嗜好を熟知し、私の音楽ライフをナビゲートしてくれるところなのである。
『おすすめ一覧』なるものがあり、「平様、こういう曲がお好きではありませんか?」と、聞いてもいないのにすすめてくれる。
それがなんと、マイ・フェイバリット・ソングばかり!
「おお! この曲は20年前に大好きだった曲じゃありませんか!」というように、私自身、忘れていたようなお気に入りの曲を出してきてくれたりするのである。
まるで、大人のオモチャ屋さんでムチを購入したところ、併せてロウソクとアイマスクもすすめてくれるような気遣いぶりなのである。
「す、す、素晴らしすぎるぞ、iTunesレコード店!」
そして、凝り性の私はついついよろこびいさんで買ってしまうのである。
しかも、である。
このiTunesレコード店では、以前は1曲ごとにパスワードを入れなくてはいけなかったのであるが、神様・仏様・成井様が「それは面倒くさいでしょう」と指紋認証だけで買えるようにしてくれたのである。
指紋認証だけで買えるようにしてくれたのであるからして、ついつい、気軽に買いすぎるのである。
「塵も積もれば山となる」なのである。これを一番認識されているのが、うちの経理担当の奥さまである。
「最近、200円とか250円という額の大量の請求がクレジットカード会社から来ますけれど、またへんなサイトに投資したりしていないでしょうね?」
「い、い、いや、こ、これは、仕事用に必要な曲をネットで購入しているんです! あ、あ、あ、浅野くんが100曲ほど買ったって言ってました‥‥。それに比べたら、ほんの30曲ぐらいじゃないですか‥‥」
賢明なうちの奥さまは、私が言っていることよりも、怯えおののき、宙を見ているようなその態度を見て、容赦なく責めてくるのである。
おそるべし、『iTunesレコード店』
『しまむら』と同じく、安さにつられ、買い過ぎてしまう今日このごろの私なのである。