誤解がないように言っておくが、浪人をしていたからといって、どこかの藩に仕官を求めるとか、侍をしていたとかいうわけではない。
その息子がようやく長い冬を終え、桜の花が咲いたのである
が、しかし、である。
基本、子どもというものは親の事情などまったく関知せず、気分の赴くままに受験する。そして、適当な志望校に合格する。
親としてはそれはそれでうれしいのであるが、しかし、なぜ、あのように、けっして家から通えないところばかりを受験するのであろうか？
現役生のとき、うちの息子はいちおう国立大学受験コースにいた。しかし、そのあまりにも高い壁にはね飛ばされ、浪人生になってからは私立受験コースに変更した。
親の学力を考えれば、「そもそも、なぜ、あのような無謀なことをしたのか？」と理解に苦しむのであるが、まったく同じセリフをよく事務所で言われるので、あのときの息子の判断は遺伝によるものだったのだと思う。
関西の私立大学でよく知られるのが“関関同立”である。
関関とは、私の母校であり、うちからも近い関西学院大学、うちのいとこが通っていた関西大学のことである。この2つは家から通うことができる。
同立とは、同志社大学と立命館大学のことである。どちらも京都にある。そして、なぜか、うちの息子はこの同立を中心に受験したのである。
そして、幸いなことに両方ともに通った。
めでたいといえばめでたいのであるが、うちからは通えない。そこで、一人暮らしを始めることとなったのである。
橋の下にテントを張るとか、公園の隅でダンボールで寝るとかさせるわけにはいかないので、いちおう、学生向けのワンルーム・マンションあたりを探すのである。
この学生向けワンルーム・マンション探し、いきなり町の不動産屋さんに飛び込むようなことはしない。なぜなら、ほとんどが大学の生協または大学が作っている不動産会社によって仕切られているからである。
全国のみなさん、いま、大学は多角経営の時代のようですぞ！
「学生を紹介するので、うちの系列の不動産会社になりなさい」と町の不動産屋さんを束ねている親分なのである。
さらに、である。
不動産を紹介する係の人は、なんと、全員が学生なのである。試験の終わった春休み、学校は職を求める学生を上手に使っているのですぞ！
「ああ、これは見習わねば‥‥」
そして、現役学生ならではの適切なアドバイスがなされるのである。
「学生生活ではコンパとか飲みにいく機会が多いので、繁華街である四条河原町に近いほうが帰りがラクですよ」
「バイトするったって、どうしても大阪方面が多くなります。駅から離れれば離れるほど、家賃は安いけれど、帰りのタクシー代がかかります」
「この物件の家賃は高めですが、インターネット使い放題ですから、プロバイダー契約することを考えれば安いものですよ、おとうさん。ハッハッハッ！」
このように、説得力ある言葉を聞かされたおとうさんは見事に高い物件をつかまされたのであります。
そして、学生によるオススメ物件から候補を決めると、こんどは不動産会社の人が実際の物件を見せてくれるのでありますが、なんと、タクシーで物件回りをしてくれるのです。
「5,000円分はタダですので、超過分だけ払ってくださいね」
なんという温かいお言葉。おとうさまもおとうさまで、いっそこのまま物件は見ず、タクシーで神戸まで帰ろうかと思った次第であります。
ともあれ、なんとシステマチックな新入生取り込みシステム！ ホイホイいい気分にさせられ、あっという間にまんまとやられてしまった次第であります。
それでも、「契約のハンコを押すときだけは、徹底抗戦して家賃を負けさせてやる！」と息巻いていた私なのである。
しかしながら、不動産会社のミニスカートのおねえさまに「おとうさま、これはとてもよい物件ですよ」とウインクをされると、不思議なことに右手が自動的に動き、ハンコを押していたのである。
「おお、なんという全自動システム！」
大学の門をくぐり、生協にたどり着いたが最後、ベルトコンベアに載ったごとく、すべてがあっという間に決まってしまうのである。
おそるべし、私立大学！
当社でも無料説明会からコース加入まで、このようなシステムをぜひ導入したいと思った次第である。
まずは、ミニスカートの似合う社員の募集から始めたいと思う
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