青森空港から八甲田山中の一軒温泉宿『酸ヶ湯』に向かった私は、猛吹雪の中、18時10分に宿にたどり着き、無事に夕食にありついた。
私はしゃべるのが仕事なので、ノドのために夜は暖房をぜんぶ切って寝たいほうなのであるが、八甲田山中のこの宿ではガスストーブがずーっとついているのである
で、宿の人に聞いたのである。
「暖房、消して寝れますか?」
すかさず、答えが返ってきた。
「死ぬよ」
はっきり言う。敬語ですらない。
ストーブをつけている間、部屋の中は20度近いのであるが、明け方は氷点下15度ぐらいまで当たり前のように下がる。
昔ながらのガラス戸1枚のこの部屋は、氷点下10度ぐらいまで下がるらしい。毛布もなく布団1枚であるので、そこで寝ていると、どうも、死ぬらしい。
「温泉宿の部屋の中で凍死した」というのは笑い話としてはいいのであるが、宿の人にはものすごく迷惑であろう。よって、残念ながら、ストーブはつけっぱなしにして寝ることとしたのである。
それにしても、せっかく八甲田まで来たのに、明日中には東京に帰らなければならないのである。あさっての朝早くから、リーダーシップ・トレーニングがあるのである。よって、明日は八甲田中の温泉巡りに忙しい。
そして、次の日、チェックアウトのギリギリまで温泉につかった私は、駐車場で雪だるまになった車の掘り出しに忙しかった。
朝7時過ぎに宿の人がいったん掘り出してくださるのであるが、チェックアウトまでの3時間でふたたび車は雪だるまになっているのである。
それを予想し、ちゃんと目印を付けておいたので、間違うことなく掘り出せるのである。
この日は足元湧出泉で有名な谷地温泉と蔦温泉に行きたいのであるが、ただいま蔦温泉は改装中で、どうやら入浴のみ受け付けているらしいという情報があった。
気になるので寄ってみると、やはり宿は休業だったが、入浴は問題なく楽しめた。ここは酸ヶ湯といって、清らかな透明の単純泉のような薄めの温泉である。
「ああ~~、気持ちがよい」
しかし、あまりゆっくりもしていられないので、お気に入りの谷地温泉に向かうこととしたのだが、な、なんと、谷地温泉は冬期休業中であった。たしか、この宿は冬でもやっていたはずなのだが、どうも、改装工事をしているようなのである。
いきなり、きょうのメインがなくなってしまったのでガッカリしたのであるが、八甲田にはそれ以外にもいろいろな温泉がある。
が、しかし、この時点で猛吹雪は猛猛猛吹雪になっているのである。
みなさんがホームごたつの中で、テレビの列島大寒波のニュースを観ておられたであろうそのとき、私は大寒波の本場である八甲田山で一人実況中継ごっこをして遊んでいたのである。
「こちら、江坂のカウンセリング予約センター、吉見です。八甲田の平さん、どうぞ!」
「はい、こちら八甲田は視界が5mもないほどの猛吹雪。このように実況している私がみるみる雪だるまになるぐらい、すごい状況です!」
などと車の外で遊んでいるだけで、私はもう雪だるまである。
そのとき、私はふと思ったのである。
「こんな猛吹雪で飛行機は飛ぶのであろうか?」
ほんとうに素朴な疑問であった。なにぶん、私は今日中になんとしても東京まで帰らねばならないのである。
「最悪、青森で借りたこのレンタカーで東京まで帰らねばならないかもしれぬ‥‥」
そこで、ちょっぴりビビりながら青森空港に寄ってみたのである。
私としては、「これぐらいの吹雪、まったく問題ないですよ、ハハハ」という答えを期待していたのであるが、青森空港に着いたのが15時05分で、空港関係者曰く、「15時25分発の東京行きは必ず出発しますが、それ以降は天候によっては飛ばないかもしれません」。
「‥‥‥‥‥‥。」
20分後の羽田行きの機内に私はいたのである。
その後、次の便はだいぶ出発が遅くなり、当初、私が乗るはずだった便は出発しなかったようだという噂を聞いた。
以上、八甲田から平リポーターがお届けしました。 おしまい。