イケメン版
「マイフェアレディ」*3*




テギョンの家に着いても、ミニョは、グスグス鼻を啜りながら泣いていた。
着替えもせず、施した化粧も大粒の涙によってボロボロになっていた。
テギョンは無言のまま、階段を昇り自室へと行ってしまった。

「ミニョ、顔を洗って、着替えておいで。その間に温かいお茶を淹れてあげるから。」

テギョンとミニョの様子を見ながら、全てを察したシヌは小さな溜め息を吐き、泣いているミニョに声を掛けた。

顔を洗い、着替えを済ませたミニョは、リビングの椅子に腰掛けた。

「はい、どうぞ」

シヌが淹れてくれたお茶を飲み、ミニョは落ち着きを取り戻しはじめていた。

「初めてのお茶会はどうだったんだい?」

「緊張のあまり、事故を起こしてしまい、テギョンさんを怒らせてしまいました・・・だから、私は、テギョンさんに追い出されてしまう前に出ようと思います。シヌさん、短い間でしたが、お世話になりました・・・」

ミニョは、シヌに深く頭を下げる。

「お前の勝手にはさせない。」

階段から声が聞こえ、ミニョは顔を上げた。

「テギョンさん・・・」

テギョンが不服そうに口を尖らしながら、階段を降りてくる。

「残念ながら、まだ契約が残っている。」

「契約・・・ですか?」

「お前と俺は半年の契約を交わしたはずだ。まだ、半分は残っている。
最終目標は、皇太子が招かれるパーティーに出席すること。明日から、地獄のような特訓がはじめる、覚悟しておけ。」

「はい・・・頑張ります」

テギョンの言葉に、ミニョの顔が花が咲いたように明るくなった。

そして、翌日から地獄のような特訓がはじまった。
時に、テギョンに罵声を浴びせられながら、ミニョは唇を噛み締め、必死に耐え抜いた。

そして、月日が流れ・・・

「おい、コ・ミニョ。今日の俺のスケジュールはどうなっている?」

「はい、テギョンさん。本日は、学会の出席が午後からございます。」

いつの間にか、テギョンはミニョに秘書の役割までさせていた。

「あと、マ室長が昼食をご一緒にしたいと、仰っていましたが・・・」

「わかった、お前も同行するか?」

「申し訳ございません。私、本日、ワン御姉様との約束がございます。」

「御姉様?」

「ワンさんが、そう呼べと。」

「まあ、いい。俺は行く」

「いってらっしゃいませ。」

「そうだ、お前にコレが届いてたぞ」

珍しく口角あげたテギョンがミニョに差し出したのは、最終目標であるパーティーへの招待状だった。






★★★★


イケメン版
「マイフェアレディ」  *2*



テギョンの家に住み込みで、ミニョは訓練を受けることになった。
テギョン以外にも、テギョンの親友であるカン・シヌと服飾関係の仕事をしているワンも呼ばれた。

シヌとワンを呼んで、ディナーを食べることになった。
生まれてはじめて見るような、美味しそうな料理の数々にミニョの目は輝き、テーブルマナーも気にせず、がっつくように食べている。

「フォークで肉を刺すな!
スープは、音を立てて飲まない!
ワインも一気に飲まない!
パンも全部口に入れない!
・・・コ・ミニョ、下品極まりないぞ」

「・・・すみません」

ミニョは、フォークとナイフを使おうとするが、上手く使えず、カチャカチャ金属音を鳴らし、最後は、床に落としてしまう。
口をすぼめながらシュンとしてしまうミニョ。

「面白いコだね、テギョン。」

シヌはミニョを見つめながら、にこやかにワインを飲んでいる。

「ミニョ、よく見ててね。フォークは左、ナイフは右。フォークで肉を押さえながら、ナイフで切るんだよ」

シヌは、まるで子どもに教えるように、ゆっくりな動作でやってみせる。

「テギョン、ミニョは、何も知らない子どもと同じなんだから。丁寧に教えてやらないと。俺が、基本的な所作を教える。テーブルマナーや、お茶の所作とかね。よろしくね、ミニョ」

シヌが立ちあがり、ミニョに手を差し出す。

「よろしくお願いします。」

ミニョは頭を下げながら、シヌの手を握った。

「私は、このコの外見を磨いていくわ。ちゃんと化粧して、いい格好させれば、それなりに見えるはずよ。元は、イイみたいだし。」

ワンは飲みかけのワイングラスを片手に持ったまま、ミニョの顎を指でしゃくった。

テギョンは、上流社会で必要な知識をミニョに教育していく。

数日後

ミニョの身なりもだいぶ整いはじめ、マナーも人前で恥ずかしくないくらいのレベルになりつつあった。

「今度の日曜日、パーティーに行ってもらう。お前の社交界デビューだ。
くれぐれも俺の顔に泥を塗るようなことをするなよ。」

「はい、頑張ります。」


そして、日曜日。
着飾ったミニョが、テギョンとともにお茶会に向かった。

「あら、テギョン。いらっしゃい」

出迎えたのは、気品漂う美しい女性だった。

「お久しぶりです、母さん」

その女性こそ、テギョンの母、ファランだった。

「テギョン、貴方の隣にいるのは?」

「コ…コ・ミニョです。よろしくお願い致します、マダム。」

「テギョンのお知り合いの方ね。
どうぞ、楽しんでいってちょうだいね
。」

美しい笑みを浮かべたファランに家の中へと通された。
天井の高さに驚き、キラキラと輝く美しいシャンデリアに目を奪われる。周りも、上流階級の高級な服に着飾った人々に溢れ、ミニョの緊張は最高潮までに達していた。ミニョは息苦しさを感じながら、ウェルカムドリンクを受け取ると、一気に飲み干した。
カァーっと身体の熱が上がり、頭がクラクラするのを感じて、近くにあった椅子に腰かけた。

「キミ、大丈夫?」

「あぁ…はい…大丈夫です。慣れない場所に緊張してしまって…」

「僕と一緒だ。僕、キム・ドンジュン。キミは?」

「コ・ミニョです…」

ふたりは自己紹介をし、握手をする。

「素敵な名前だ。」

ドンジュンがミニョの手を握ったまま離さず、手の甲に口づけようとしたとき…

「コ・ミニョ、そこで何をしてる?」

「すみません、テギョンさん。すぐに行きます。」

ミニョがドンジュンの手をスッと離して行ってしまう。

ドンジュンは、ミニョがその場を去っても、うっとりとミニョを見つめたままだった。

「お前、顔が赤いが大丈夫か?」

「だ、大丈夫です。」

「ウェルカムドリンクは飲むなよ、あれは、酒だ。」

「わ、わかりました・・・」

゛あれ、お酒だったんだ。どおりで・・・゛
ミニョは、内心ヒヤヒヤしたが、頭がクラクラするのも治ってきたから大丈夫だと思っていた。
テギョンは、ミニョを連れながら挨拶をしていく。

「コ・ミニョ、俺の上司、アン教授だ。アン教授は、外国語専門で教えている。外国での生活も長いんだ。」

「はじめまして、アン教授」

「オォ~、ビューティフルレディ」

アン教授はすでにアルコールが回っているのか、握手の代わりに、ミニョの身体を引き寄せ抱き締めた。
アン教授の手が、ミニョの腰の辺りに触れたとき、ミニョは大声をあげた。

「キャー!?」

誰もが、ミニョの方を向く。

「この人が、私のお尻を触ったんです!
!」

「私は、触ってない!!」

「触ったでしょ?スケベじじぃ!!」

ザワザワと周りが騒ぎ出す。

゛もう、ダメだ・・・゛

テギョンは、途方に暮れたように、大きな溜め息を吐くと頭を抱えた。

「何事なの?テギョン!」

「すみません、母さん。
帰るぞ、コ・ミニョ・・・」

テギョンは、怒りを抑えるように低い声で言う。

ミニョも、自分が仕出かしてしまったことがわかった。

「・・・は、はい」

ミニョも、泣きそうになるのを堪えながら、俯かせたまま小さな声で返事をする。

ふたりは、一度も口を聞かないまま、家路へと向かうのであった。



★★★★

ブログをはじめてから、ずっとメールでブログを投稿していたのですが、今度のスマホはダメなようで…文字化けしてしまいました・゜・(つД`)・゜・なので、再度やり直し。ショック…(´Д`)

イケメン版
「マイフェアレディ」*1*




それは、まだ身分制社会だった時代のハナシ。

ある街の広場には、たくさんの人々が行き交う。
上流階級の紳士淑女から、最下層の者まで、様々だ。
最下層の者たちは、その日暮らしの生活費を稼ぐため、様々な物を売っている。

「花はいらんかね?キレイな花だよ!
そこの旦那、奥さんにどうだい?」

花を両手に抱え、花を売る娘の姿。
しかし、その花を買う者は、誰ひとりといない。
娘の顔は汚れ、手も真っ黒、服も所々糸が解れ、破れた場所には違う布が当ててあり、みすぼらしい格好をしていた。
そんな姿では、上流階級の者などは、況しての他、近寄ることなどしない。

しかし、そんな彼女を、広場のベンチから見つめるひとりの上流階級の若い男がいた。
その若い男は、彼女の姿を見つめながら、持った紙にペンを走らせていた。

そろそろ陽が暮れ、娘が店仕舞いをはじめた頃、その若い男が娘に近付いてくる。

「おい!」

呼ばれた娘は聴こえてないのか、若い男に見向きもしない。
若い男も、娘にあまり近付く気がないのか、娘との距離があった。

「おい!そこの娘!!」

「ん?あたしのこと?お花買ってくれるのかい、お客さん?」

「花は苦手だから、いらん。」

「そうですか、じゃあ、あたしは帰ります。」

そそくさと荷物を持って帰ろうとする娘を、若い男が引き留める。

「おい、待て!!」

「なんですか?」

「俺は、ファン・テギョン。お前を雇いたい。」

「雇う?目的は、あたしの身体?」

娘の顔の血の気が消え、身体を守るように手で抑えながら怯えた表情になっている。

「おい、勘違いするな。俺は、教授だ。
俺の手にかかれば、半年で、お前を上流階級に通用するレディに教育してやることが出来る。明日、小綺麗な格好をして、此処に来い。わかったな?」

テギョンは自信満々に言うと、娘に地図が書いてある紙を渡した。

翌朝、テギョンの家のベルが鳴る。

まだ、起きて間もないガウン姿のテギョンがドアを開けるが、次の瞬間、すぐにドアを閉めてしまった。

「ファン・テギョンさん、開けてください!!
一張羅のワンピースで来ました。顔も手もちゃんと洗ってきました。あたしを素敵なレディにしてください!!」

取り残された娘は、ドンドン、ドアを叩く。

「なんだ、その格好は?昨日と一緒じゃないか?何処が違うんだ?」

「おい、テギョン、開けてくれ!何事だ?この娘は誰なんだ?」

外から新たな声が聞こえ、テギョンは仕方なしにドアを開けた。

「あぁ、マ室長か?」

「この娘は、誰なんだ?」

テギョンの同僚であるマ室長が、丁度、テギョンの家を訪ねて来た。

「コ・ミニョです!」

ミニョも追い出されないように必死で、名前を告げる。

「お前、名前負けまでしてるぞ」

ミニョの顔を見ながら、溜め息を吐くテギョンは頭を抱えている。

「テギョンの例の実験台か?」

「あぁ…だが、見誤ったようだ。」

ヒソヒソ話をするマ室長とテギョン。

「あたしには、帰る家がありません。唯一の身寄りだったおばさんに追い出されてしまいました。精一杯、頑張ります、よろしくお願いします。」

床にまで頭をつけそうな勢いで頭を下げるミニョ。

「テギョン、お前まで追い出したら、可哀想じゃないか?もし、成功したら、俺が、この娘の授業料を支払ってやるよ。それで、どうだ?」

「フン、コ・ミニョ、運が良かったな。
お前の教育を引き受けてやる。訓練は厳しいぞ。逃げ出すなよ」

「ハイ!頑張ります!」

こうして、テギョンによる、ミニョのレディになる教育が始まったのである。




★★☆★