皆様、どうもです。
前のブログから間が空いてしまい、すみません。色々と相変わらず忙しく過ごしております。
現在進行中の「待宵月に揺れる花」のハナシが思い浮かばず、なかなか更新出来ず、代わりに《SS(ちょっとしたハナシ)》をお送りしたいと思います。

設定は、まだ、ミニョがミナムだった頃のハナシです。
お互いの思いが通じあう一歩手前の状態のとき、《もしも…》『テギョンが風邪をひいたら…』をお送りします。

テギョンが、ミニョを看病するのは、ご存知のとおり、ドラマであったんですけど、逆バージョンはなく、一度、描いてみたかった題材です。

それでは、前置きはこれくらいにして、それでは、どうぞお楽しみくださいませ。







SS

『冷たい手』


夜のA.N.エンターテイメントの地下作業室。
パソコンを打つ音だけが、静寂な部屋に響き渡る。
凄い集中力で黙々と仕事をする男、ファン・テギョンである。

「・・・ッ!」

テギョンの手が止まり、痛みが走るこめかみを押さえた。

先ほどから、頭痛がする。
集中し過ぎたのだろうか・・・
こんなイヤな仕事、早く終わらせたいのに・・・

ブルッと肩を震わせ、また、パソコンを打ちはじめる。

室内の温度は快適なはずなのに、寒気までしてくる。

まさか、風邪か!?

いや、あり得ない・・・。

日々の体調管理は、基本中の基本。バッチリのはずだが・・・。

先ほどからの頭痛、寒気・・・

イヤな感じがする・・・。

早く、あのヒトに頼まれた仕事を終わらせたいのに・・・

一先ず、今日は、早めに帰った方がいいかもしれない・・・。

テギョンは、作業の手を止め、合宿所に帰ることにした。

合宿所に着く頃には、熱が上がっているのがわかった。
テギョンは、フラフラとした足取りで、合宿所に入る。
水を飲もうとキッチンに入ったとき、ミナムと出会した。

「あ、ヒョンニム、お帰りなさい。

ヒョンニム??」

何も言葉を発しないテギョンに、ミナムが首を傾げる。
グラリとテギョンの身体が揺れ、ミナムの肩にテギョンの頭が凭れ掛かった。

「ヒ…ヒョ…ヒョンニム!?」

突然のことに目を丸くして驚くミナムの耳元で、テギョンの熱く荒い息が掛かる。
息苦しそうなテギョンに、鈍臭いミナムでも、非常事態なのがわかった。

「ヒョンニム、ヒョンニム、大丈夫ですか?」

ぐったりとしてるテギョンに、ミナムが声を掛ける。

「オトカジ… オトカジ…

とりあえず、ヒョンニムをベッドに運ばないと。

ヒョンニム、お部屋に行きましょう」

オロオロしながらも、テギョンの腕を肩に回し、引き摺りながら、なんとか、テギョンを部屋に運ぶ。
ミナムは、ベッドにテギョンを寝かそうとするが、ベッドの下にあるラグに足を躓かせ、テギョンと一緒にベッドにダイブした。

「キャッ!?」

ミナムの身体は、力のないテギョンに押し潰されていた。

《あッ・・か、顔が、ち、近いです・・・。》

つい、息を潜め、目の前にある端正な顔立ちに思わず見惚れてしまうが、今は、そんな状況じゃない。
テギョンの身体を押し退け、なんとか脱出した。

「ハァ…ハァ… ヒョンニム、ジャケット脱がせますね。」

すでに疲労が顔に出てるミナムは、テギョンの身体からジャケットを脱がせると、ジャケットをハンガーに掛けた。

やっと、テギョンをベッドに寝かせたミナムは、ホッと息を吐きながらも、次の作業に入るため、キッチンに入った。
洗面器に氷水を用意して、タオルも用意する。水の入ったペットボトルも持ち、テギョンの部屋に戻る。

氷水の入った洗面器の中にタオルを入れ、絞ると、テギョンの額に乗せた。
冷たいのが気持ちいいのか、心なしか、テギョンの顔が和らぐ。
もう1枚タオルを濡らし、テギョンの頬や首元にタオルを宛がう。

何度か、タオルを替えていると、テギョンの睫毛が揺れた。

「ヒョンニム?」

テギョンが薄目を開ける。

「大丈夫ですか?ヒョンニム。
お水、飲まれますか?」

「俺は・・・」

「熱があったようで・・・」

ミナムの手が、テギョンの額に触れる。

「まだ、熱、ありますね。お薬、飲まれるようであれば、何かお腹に入れないといけないんですけど・・・」

「お前、手が冷たいな・・・」

「ああ、すみません。」

ミナムが慌てて手を引っ込めようとするが、テギョンがミナムの手を引き寄せる。

「おい、離すなよ!ひんやりしてて、気持ちいいんだ。」

テギョンの熱い手が、ミナムの冷たい手を包み込むと、頬に当てた。

「子どもの頃、熱を出してもひとりだったから・・・。
まさか、事故多発地帯のお前に看病される日が来るなんて、な。」

《そうか・・・ヒョンニムは、いつも、ひとりだったのよね・・・》

ミナムは、嗚咽を漏らしながら泣いていたテギョンを思い出していた。

最初は、手を握られドキドキとしたが、ミナムは、テギョンの話に胸を痛め、口をキュッと結んだ。

「私は、ヒョンニムのお役に立ちたいと思うだけです。今日は、事故起こさないで、やりますから、安心して寝ててください。」

いつの間にか、テギョンが寝てしまったようだ。

しかも、ミナムの手を握り締めたまま・・・。

「オ、オトカジ…」

離すに離せなくなってしまったミナムの手。
グッスリと寝るテギョンを起こしたくなくて、その寝顔は、いつものテギョンより幼く見えて、ミナムは、そのまま、テギョンの寝顔を見つめていた。

どうか、このヒトには幸せであってほしい・・・

傷ついた心が、癒やされるように・・・。

そう願わずにはいられなかった。


熱がすっかり下がり、久々にゆっくり眠れたテギョンが、清々しい朝の目覚めを感じた。
ふと、横に目をやると、テギョンは、驚きで目を見開いた。

枕元で、小さく踞って眠るミナムの姿があった。

「やっぱり、コイツは、事故多発地帯だ」

呆れながらも笑っているテギョン。

テギョンにとって、自分がどれだけ、テギョンを癒し、慰めになっているか、ミナム本人は、知る由もない。

ミナムが、小さなクシャミをする。

《また、風邪をひかれたら、ヤバイな・・・。》

一緒のベッドに眠らせるわけにもいかず、テギョンは、咳払いをする。

「コ・ミナム!」

「ハイ!!?」

テギョンのよく響く低音に、飛び起きるミナム。


このふたりが、お互いを愛し、生涯を共にするのは、もう少し先のハナシ・・・

今は、試練のとき。
これから、どんなことが起きようと、その手は離さないで・・・



★★★★




「待宵月に揺れる花」*2*


「望み」





眩しい朝日の光が射し込む寝床では、明け方まで、愛し合っていたふたりが、ぴったりと肌を重ね合ったまま、ひとつの布団でぐっすりと寝ていた。

先に目を覚ましたのは、ミニョだった。身体に腕が巻きつけられ自由はきかないが、すぐ傍にある顔を見て、顔を綻ばせる。
テギョンの寝顔は、いつもより幼く見え、ミニョは、テギョンの寝顔を見ているのが好きだった。

“また、この寝顔を見れるなんて・・・”

感慨深そうにミニョは、そっと、テギョンの顔に指を滑らせている。

「おい、くすぐったい」

「あっ・・・」

目を閉じて寝ていたはずのテギョンの声に、ミニョが驚きの声をあげると、手首を掴まれ、あっという間に、組み敷かれ、唇を塞がれてしまう。

至福な朝を迎え、やっと、起き上がったふたりは、衣を身につけ、遅めの朝食を口にしたあと、これまでのことを語り合っていた。

「アン大監が仰っておりましたが、御結婚されなかったのですね。
私は、テギョン様は、あの婚約者の方と、御結婚されたのだと思っていました。」

「どうしても、ヘイに心許すことが出来なかった。それ以上に、忘れ得ぬヒトがいただけの話だ。」

「・・・テギョン様」

テギョンの真っ直ぐな視線に、ミニョは、心苦しさで胸が苦しくなった。

「俺が生涯を共にしたいと思った女は、ひとりしかいない。
その者と共に出来ないのなら、家を捨ててでも、生涯、独り身を貫こうと思った。
“なんて馬鹿なことを!!”と思うだろ?
でも、すべてを投げ出すくらいに、お前に心底、惚れていたんだ。
後悔など、何もしていない。
こうやって、また、お前に出逢えることが出来た。」

爽やかな笑顔を向けるテギョンに、ミニョは、泣かないように唇を噛み締めていた。

「・・・本当です。
なんて、馬鹿なことをしたんですか!?
家名を捨てるなんて・・・
婚約を破談にするなんて・・・

どうして・・・

そんなこと、許されるはずもないのに・・・

幸せでいてくれることを、ずっと、祈っていたのに・・・

でも・・・

でも・・・」

涙を流しながら、ミニョが、テギョンの襟元を掴むと、その胸に縋りつく。

「嬉しかった・・・。

もう二度と逢えないと覚悟をしていた・・・貴方に、もう一度、逢えてるなんて・・・

卑しい身分として、私は、何も望まずに生きてきましたが・・・

貴方のように、何も投げ出すものもない、卑しい身分でございますが、私を、もう一度、貴方の傍においていただけますか?」

テギョンは返事の代わりに、ミニョの身体をきつく抱き締めた。




★★★★





「今宵、月明かりの下で…」最終話より続くハナシからはじまります。



「待宵月に揺れる花」*1*



「再会」




『桜花閣』の妓生「ウォルファ(月花)」の部屋では、酒肴膳が用意され、アン大監と、その部下であるファン・テギョンが盃を交わしていた。
ウォルファが、テギョンの猪口に酒を注ぐため、隣に座る。
テギョンは、ただじっとウォルファの横顔を見つめていた。
その視線に気付いたウォルファも、テギョンを見つめ返す。

運命に逆らえず、別離を選んだはずなのに、お互いに忘れることなど出来ず、夢にまで見た、たったひとりの最愛のヒトが、今、目の前にいた。

言葉など、何も必要なかった。
お互いを見つめるだけで、全てを語っていた。

「私は、そろそろ帰るとするよ。
テギョン、あとは、頼んだぞ。」

ふたりを取り巻く雰囲気に、察したアン大監が気を利かして、部屋を立ち去る。

「またな、ウォルファ。」

「ありがとうございました、アン大監様。また、お待ちしております。」

部屋の外に出て、アン大監を見送ったウォルファが部屋に戻ってくるのと同時に、強い力で抱き締められた。

「ミニョ・・・」

テギョンが振り絞るように出した切ないその声だけで、もう十分だった。

たったひとりだけ、自分の真名で呼んでくれる、愛しい男性(ヒト)・・・

ミニョは溢れる涙を止められなかった。
テギョンは、ミニョの涙で濡らした頬に触れながら、唇を重ねた。
息も出来ないくらいに、舌を絡ませ貪り合う口づけに、着ている衣服さえも邪魔になり、剥ぎ取っていく。
露になるミニョの柔らかな素肌に触れ、夢中で唇を這わしていく。ミニョの甘い吐息がテギョンの耳を擽る。
久々に触れあった肌は心地よく、テギョンは昂る気持ちを抑えきれず、性急に深く繋がり合った。
ミニョの甘く甲高い啼き声と自分の熱い吐息が、部屋に漂う甘い花の香の香りと溶け合い、更に甘さと熱気が増していた。

「夢を・・・見ているようだ」

「私も・・・です」

汗ばむ身体を重ね合わせ、荒く熱い息を吐く。
額同士を合わせ、お互いを見つめ合っていた。
ミニョは、幾筋も頬に涙を流していた。
テギョンも、同じように目に熱いものを感じていた。

「でも、夢では、ない。
そうだろ?ミニョ・・・」

熱帯びた身体も、
耳を擽る甘く低い声も、
自分だけを見つめるその深い瞳も、

「ミニョ、愛してる」

愛を囁くその言葉も、

「もう、夢では、ありません。」

ミニョは嬉し涙を流すと、テギョンの身体にしがみつくように腕を回す。

ふたりは、再会を喜び合うように、白々と空が明けるまで、何度も、深く繋がり合った。






★★★★