イケメン版

「マイフェアレディ」


*5*



テギョンの家に着くと、ミニョは泣きながら、服を着替え、鞄に荷物を詰め込んでいた。

「コ・ミニョ、何をしている?」

テギョンが帰宅する頃には、ミニョは荷物を抱えて、玄関を出ようとしていた。
ミニョの姿を見つめながら、テギョンは不服そうに口を尖らし、腕を組ながら、玄関ドアの前に立ち塞がった。

「契約は本日をもって終了しましたよね?だから、私は、元の貧しい生活に戻るつもりで、出ていく準備をしていたのです。」

淡々と話すミニョの頬には、すでに涙の跡も消えていた。

「今まで、お前が身につけてきたことを、水の泡にするつもりなのか?
それに、今日のお前は、よくやっていたぞ・・・」

面と向かって、褒めることが気恥ずかしいのか、ミニョから視線を外し拳を口に当てるテギョン。
チラリと横目でミニョを見るが、顔色は変わらない。

“いつもなら、少し褒めただけでも、ニッコリと嬉しそうに笑うのに、何故、笑わないんだ・・・?”

「皆さんが、私の為に良くしてくれたことは、とても感謝しています。
だけど、此処には、自分の居場所がありません。
外見やスキル、マナーを磨いても、結局、中身は、貧しい花売りの自分のままだったことに、気付いてしまったのです。」

淋しそうに頬笑むと、顔を隠すように、ミニョは俯いた。

「此処を出たとしても、身寄りがないお前が、何処に行こうが居場所がないだろ?
そ、それに明日から、誰が、俺のスケジュール管理をするんだ?
誰が、俺の健康管理をするんだ?」

現在、テギョンの秘書的な役割を担っているミニョ。
テギョンのスケジュール管理から、アレルギー持ちで、しかも偏食のテギョンの健康管理までしていた。

「居場所がないなら、俺が与えてやる。」

「テギョンさん・・・?」

ミニョは驚きで顔を上げ、テギョンの顔を見つめた。

「それに、お前以外に誰が、俺のパーティーのパートナーをやるんだ?
お前の居場所は、十分、此処にあるだろ?それとも、秘書として雇った方がいいのか?」

怒ってるようにも見えるテギョンの表情をミニョは、ただ見つめることしか出来なかった。

「あ、あの・・・ほ、本当に、私は、此処に居ても、いいのですか・・・?」

テギョンの言葉が信じられなくて、でも、嬉しくて、感情が溢れ出すように、ミニョの瞳から、大粒の涙が落ちる。

テギョンの手がスッと伸び、ミニョの涙を拭う。そのまま、テギョンの手がミニョの頬を包み込む。

「半年間で、お前も、随分、変わったが、俺も、変わってしまったようだ・・・。」

半年間、ミニョを一人前のレディに育成している間に、テギョンは、知らないうちに、ミニョに惹かれ、ひとりの女性として好きになっていたことに、漸く、気付く。

そして、テギョンは言葉の代わりに、驚きで目を大きく見開いているミニョに口角をあげると、ミニョの唇に、自分の唇をそっと重ねたのだった。



★★The End★★














イケメン版
「マイフェアレディ」*4*




パーティー当日。
洗練されたミニョの黒のドレス姿に、テギョンは息を呑んだ。

「おかしくないですか?」

ミニョは、大きく開いた胸元やドレスの裾を気にしている。その仕草さえ色気を晒していた。
半年前、自分の目の前に現れた生娘が、見違えるほどに変貌を遂げていた。

「あの・・・テギョンさん?」

先ほどから、一言も話さないテギョンに、ミニョは首を傾げながら聞く。

「べ、別に・・・悪く、ない」

「良かったです」

ニコッと微笑みながら、胸を撫で下ろすミニョ。

「行くぞ」

「あの、テギョンさん、ネクタイ曲がってますよ」

ミニョがテギョンの前に立ち、テギョンのネクタイを直す。
ふたりの距離が縮まり、テギョンの身体が硬直する。
ミニョから香る仄かな甘い香りが鼻孔を擽り、長い睫毛や柔らかそうな胸元が、否応なしに目に入ってしまう。

「はい、直りました。」

ハァァ…と大きく息を吐き出すテギョン。

“俺は、コ・ミニョごときに、何を動揺してるんだ・・・”

ミニョが近付くだけで、動悸が激しくなり、平常心を保つことが出来ない自分に、テギョンは呆れていた。

ふたりは、パーティー会場に向かう。

「お前は、俺のパートナーとして呼ばれているんだ。エスコートするのは当たり前だろ?」

咳払いをしながら、腕を差し出すテギョンに、ミニョは、「よろしくお願いします」と頭を下げながら手を回した。

皇太子が招かれるだけあって、著名人の姿も見える、煌びやかなパーティーに、ミニョの顔にも緊張の色が見えた。

「やぁ、テギョンヒョン、元気だった?」

ひとりの青年が、親しそうにテギョンに話し掛ける。

「ジェルミ皇太子、お元気でしたか?」

テギョンが、恭しく頭を下げる。この金髪頭の青年こそ、ジェルミ皇太子なのである。

「うん。それより、テギョンヒョンが女性を連れてくるなんて、珍しいね。まさか、テギョンヒョンの彼女?紹介してよ~」

興味津々にミニョを見ているジェルミ皇太子。

「彼女ではありません。仕事のパートナーです。」

顔色を変えずに、冷静に否定するテギョン。

「コ・ミニョと申します。初めまして、ジェルミ皇太子。」

「よろしくね、ミニョ。テギョンヒョンの彼女じゃなかったら、ボクと付き合わない?」

ジェルミ皇太子がミニョの手の甲にキスをする。
目を丸くして驚いているミニョ。

「ダメです。」

返事をしたのは、テギョンの冷静な声だった。

「なんでぇ~彼女じゃないんでしょ?」

「お言葉を返しますが、ジェルミ皇太子には、エイミー王女がいますよね?」

口を尖らしているテギョンに、ジェルミ皇太子は苦笑いを浮かべる。

「ごめん、冗談だって。テギョンヒョンが、彼女じゃなくても、女性を連れてくるなんて、珍しかったから・・・」

「おふたりは、お知り合いだったのですか?」

「うん、テギョンヒョンのパパが、皇室で働いていたときがあったんだ。そのときに知り合ったんだよ」

「そうだったんですか・・・」

ミニョは、テギョンの生い立ちに驚いていた。

“やっぱり、テギョンさんは、雲の上のような人なのね・・・下賎の私が、どれだけ綺麗に着飾ったとしても、このような華やかな場所にいることは、不釣り合いなことかもしれない・・・。”

周りを見ると、自分だけが浮いているように見えてきてしまい、ミニョは俯くと、ドレスの裾を掴んだ。

「ジェルミ皇太子様、探しましたよ」

「あぁ、悪い。今、行く。」

「それじゃ、テギョンヒョン、ミニョ、またね。」

ジェルミは、ニッコリ笑い手を振りながら、去っていく。

「テギョンさん、私、帰ります」

「おい、コ・ミニョ・・・」

制するテギョンに、ミニョは頭を下げると、長いドレスの裾を掴み、走り去るように行ってしまう。

ミニョの心情がわからないテギョンは、不服そうに口を尖らしていた。




★★★★

ミニョのドレスのイメージ。
ちょうど、「美男ですね」~「オレスキ」の間のシネちゃんです。






「キミはボクのモノ」*1*



朝から、今にも泣き出しそうな天気の中、ジョリーに散歩をせがまれ、ジェルミは公園に向かった。

そして・・・

「ただいまぁ。誰か、タオルちょうだい!!」

ビショ濡れになって帰ってきたジェルミが合宿所の玄関から大声を出してる。
シヌはすでに仕事に行ってしまい、キッチンで水を飲んでいたテギョンが、バスタオルを持って玄関に向かう。

「ありがとう、テギョンヒョン」

ジェルミのパーカーの中からミャ~ミャ~と鳴き声がする。

「ごめん、今、出してあげるから」

ジェルミがパーカーのファスナーを下ろすと、真っ白な仔猫が顔を出した。

「ジョリーと公園を散歩してたら、ミャ~ミャ~鳴き声が聞こえて、そしたら、コイツがいて、親とはぐれたのか、ひとりだったんだよ。しかも、脚をケガしてるみたいだから、病院連れって行ってやったら、雨降ってきちゃって…。ちょっと、テギョンヒョン、コイツ持ってて。猫アレルギーないもんね?大丈夫でしょ?」

ミャ~ミャ~鳴きながら、仔猫がテギョンの腕の中に収まる。
ふわふわの肌触りの真っ白な仔猫。
ケガをした脚には包帯がしてあった。





「かわいいでしょ、コイツ、ねぇ、ヒョン、飼ってもいい?」

「ダメだ!家の中が毛だらけになるじゃないか!猫アレルギーがなくても、これから、アレルギーになることだってあるんだぞ!俺が歌えなくなってもいいのか?」

アジアで人気を誇るアイドルバンド『A.N.JELL』のボーカルを務めるテギョン。完璧を求める人間だが、その反面、アレルギー体質のせいもあり、人一倍、喉には気を遣っている。

「う゛っ…で、でも、コイツ、ケガしてるんだよ?せめて、ケガが治るまでいいでしょ?」

末っ子が持つ甘えん坊パワー全開で上目遣いで見ているジェルミの目と、もうひとつ、ジーッと真ん丸の青い目がテギョンを見つめていた。

“か、かわいい・・・”

ジェルミより、仔猫の可愛らしさにやられてしまったテギョン。

「ケ、ケガが治るまでだからな!」

「やったぁぁ~!!良かったなぁ、ミニョぉ~!」

「ミニョ?」

手を上げて喜んでいるジェルミと、テギョンの手に、ミャ~と鳴きながら、スリスリと顔を擦り付ける仔猫のミニョ。

「そう、コイツの名前決めたの。かわいいでしょ?
テギョンヒョン、俺、シャワー浴びて、着替えてくるから、ミニョにミルクあげてね。」

ジェルミはシャワーを浴びにシャワールームに行ってしまう。

ミャ~

まるで、せがむように鳴くミニョを連れてキッチンに向かうテギョン。

お皿にミルクを入れると、ペロペロと美味しそうに舐めはじめる。

こうして、仔猫のミニョとの生活がはじまったのである。







★★★★

「マイフェアレディ」終わってないのですが、1話更新です。
設定はドラマと然程変わらず。もちろん、ミナムが加入する前のハナシになります。