イケメン版
「マイフェアレディ」*4*




パーティー当日。
洗練されたミニョの黒のドレス姿に、テギョンは息を呑んだ。

「おかしくないですか?」

ミニョは、大きく開いた胸元やドレスの裾を気にしている。その仕草さえ色気を晒していた。
半年前、自分の目の前に現れた生娘が、見違えるほどに変貌を遂げていた。

「あの・・・テギョンさん?」

先ほどから、一言も話さないテギョンに、ミニョは首を傾げながら聞く。

「べ、別に・・・悪く、ない」

「良かったです」

ニコッと微笑みながら、胸を撫で下ろすミニョ。

「行くぞ」

「あの、テギョンさん、ネクタイ曲がってますよ」

ミニョがテギョンの前に立ち、テギョンのネクタイを直す。
ふたりの距離が縮まり、テギョンの身体が硬直する。
ミニョから香る仄かな甘い香りが鼻孔を擽り、長い睫毛や柔らかそうな胸元が、否応なしに目に入ってしまう。

「はい、直りました。」

ハァァ…と大きく息を吐き出すテギョン。

“俺は、コ・ミニョごときに、何を動揺してるんだ・・・”

ミニョが近付くだけで、動悸が激しくなり、平常心を保つことが出来ない自分に、テギョンは呆れていた。

ふたりは、パーティー会場に向かう。

「お前は、俺のパートナーとして呼ばれているんだ。エスコートするのは当たり前だろ?」

咳払いをしながら、腕を差し出すテギョンに、ミニョは、「よろしくお願いします」と頭を下げながら手を回した。

皇太子が招かれるだけあって、著名人の姿も見える、煌びやかなパーティーに、ミニョの顔にも緊張の色が見えた。

「やぁ、テギョンヒョン、元気だった?」

ひとりの青年が、親しそうにテギョンに話し掛ける。

「ジェルミ皇太子、お元気でしたか?」

テギョンが、恭しく頭を下げる。この金髪頭の青年こそ、ジェルミ皇太子なのである。

「うん。それより、テギョンヒョンが女性を連れてくるなんて、珍しいね。まさか、テギョンヒョンの彼女?紹介してよ~」

興味津々にミニョを見ているジェルミ皇太子。

「彼女ではありません。仕事のパートナーです。」

顔色を変えずに、冷静に否定するテギョン。

「コ・ミニョと申します。初めまして、ジェルミ皇太子。」

「よろしくね、ミニョ。テギョンヒョンの彼女じゃなかったら、ボクと付き合わない?」

ジェルミ皇太子がミニョの手の甲にキスをする。
目を丸くして驚いているミニョ。

「ダメです。」

返事をしたのは、テギョンの冷静な声だった。

「なんでぇ~彼女じゃないんでしょ?」

「お言葉を返しますが、ジェルミ皇太子には、エイミー王女がいますよね?」

口を尖らしているテギョンに、ジェルミ皇太子は苦笑いを浮かべる。

「ごめん、冗談だって。テギョンヒョンが、彼女じゃなくても、女性を連れてくるなんて、珍しかったから・・・」

「おふたりは、お知り合いだったのですか?」

「うん、テギョンヒョンのパパが、皇室で働いていたときがあったんだ。そのときに知り合ったんだよ」

「そうだったんですか・・・」

ミニョは、テギョンの生い立ちに驚いていた。

“やっぱり、テギョンさんは、雲の上のような人なのね・・・下賎の私が、どれだけ綺麗に着飾ったとしても、このような華やかな場所にいることは、不釣り合いなことかもしれない・・・。”

周りを見ると、自分だけが浮いているように見えてきてしまい、ミニョは俯くと、ドレスの裾を掴んだ。

「ジェルミ皇太子様、探しましたよ」

「あぁ、悪い。今、行く。」

「それじゃ、テギョンヒョン、ミニョ、またね。」

ジェルミは、ニッコリ笑い手を振りながら、去っていく。

「テギョンさん、私、帰ります」

「おい、コ・ミニョ・・・」

制するテギョンに、ミニョは頭を下げると、長いドレスの裾を掴み、走り去るように行ってしまう。

ミニョの心情がわからないテギョンは、不服そうに口を尖らしていた。




★★★★

ミニョのドレスのイメージ。
ちょうど、「美男ですね」~「オレスキ」の間のシネちゃんです。