「恋しくて…」

*3*



一歩  あなたを見送るたびに
涙がでる

一歩  あなたが離れるたびに
また  涙があふれる

手を伸ばしても   手を差し出しても

届かない場所へ

あなたが行ってしまうのに  引き留められず

泣いてばかりの私


どうしよう   どうしよう

あなたが  行ってしまう

どうしよう   どうしよう

私を置いて 行ってしまう

愛してる   愛してる

泣いて 叫んでも

あなたには 届かない

心の中の   叫びだから


ステージの上、眩い光に包まれ、ファン・テギョンが歌っている。
客席は暗く、ファン達が揺らすペンライトの光が星のように浮かんでいるように見える。
また一段と情感が溢れ、切なさが増した低音の歌声に、ファンはうっとりと聞き惚れている。

歌っているテギョンの目は、何処か遠くを見つめていた。きっと、此処にはいない誰に、歌を届けようとしているのだろうか・・・。

コンサートが終わり、クラブを貸し切り、打ち上げパーティーが始まる。

ジェルミとマ室長、そして、コ・ミナムがステージで陽気に踊っている。
シヌはカクテルを呑みながら、3人のステージを笑いながら見ている。
カウンター席には、乗り気のないテギョンの姿があり、ひとりで酒を呑んでいた。
テギョンはメンバーとは、基本的に仕事以外は口を利かない。
ミニョがミナムだった頃は、ミニョを守る為に妙な団結があり、ミニョを囲み、よく話していたこともあったが、今は、同じ合宿所にいても、話すことはない。

ただ一度だけ、ミニョがアフリカに行ったあと、ミナムが、珍しく合宿所で、テギョンを呼び止めた。

「ミニョからの伝言。
ミニョは、あんたの母親はやっぱり赦せないけど、あんたのことは、一度も恨んだことはないって。
ただ、あんたを見てると、辛くて、苦しくなるんだってさ。だから、遠くに行くんだ、と。

あと、オレに、ヒョンニムは悪くないから、絶対、喧嘩はするなって。
あんたの母親は嫌いだけど、あんたのことは嫌いじゃないし、認めてるつもりだから。これからも、よろしく頼むよ。

あぁ、あと、返してくれた母さんの“あの”歌、あんたなら歌っていいよ。父さんも喜ぶだろ、きっと・・・。」

ミナムとミニョの話をしたのが、そのときだけ。後は、ミナムがミニョと連絡を取り合っている姿を見たことはなかった。

「さて、コ・ミナムが加入してからのファン待望初の写真集の発売が決定した。撮影は、明後日からニューヨークだ!」

翌日、社長室に呼ばれたメンバーに告げられた新たなスケジュール。

これが、コ・ミニョとの再会を果たすことになるとは、このとき、誰も知る由もなかった。





★★★★

次回、感動の再会??
















「恋しくて…」


*2*



ニューヨークの撮影スタジオ

長身の外国人モデルがポーズを変えるたびに、シャッターの切る音が鳴り響く。


「コ・ミニョ、早くしろ!!」

「はい、すみません!!」

カメラのファインダーを覗いたままのソンミンが急かす声に、アシスタントを務めるミニョが急ぎ足で戻ってくる。
今、ミニョは、ソンミンのアシスタントをしながら、ニューヨークで暮らしている。


韓国を離れ、2年の月日が流れようとしていた。
ミニョがニューヨークに来て驚いたのが、ソンミンが有名なフォトグラファーだったこと。ニューヨークに事務所兼スタジオを構えていた。何人か、事務所で働いていたが、アジア人は、ミニョとソンミンだけ。
ソンミンの言葉どおり、アシスタントという仕事は、体力的にハードな仕事だったが、衣食住はしっかりと面倒を見てもらっていた。
治安のいい場所にアパートを借りたが、家賃が高いため、アパート代の半分はソンミンが出してくれているし、給料も払ってくれているため、食にも困らない。服は古着屋で安く買っている。ソンミンに、よく「ダサイ」と笑われていたが、前よりもオシャレになった気もする。
英語も日常会話は出来るようになっていたから、だいぶ、ニューヨークの暮らしにも慣れてきたところだった。

「ミニョ、今日は、コリアンタウンでメシ食べるか?」

「そうですねぇ~、だいぶ寒くなってきたから、そろそろキムチチゲが食べたいですねぇ~」

仕事中は、ピリピリと緊張感のある関係だが、仕事が終われば、笑い合う親しい間柄に戻る。
最初は、慣れない仕事で、相変わらず粗相をして、ソンミンに叱られてばかりだったが、持ち前の根性でなんとか乗り越えてきた。
ソンミンもミニョの根性を認めていたし、何より、ミニョの素直で純粋な性格に好意を抱いていた。

コリアンタウンでご飯を食べた後、ソンミンと別れ、赤いレンガのアパートに帰る。
すでに家具が付いており、ミニョは、トランクひとつでニューヨークに渡った。
窓の外に広がる眠らない街を眺めながら、後ろで結わえた髪を下ろす。
アフリカにいたときはショートヘアだった髪が胸あたりまで伸び、流れた年月を物語っていた。

眠らない街の夜空には、星は見つけられない。
それなのに、ミニョが夜空を眺めてしまうのは、今は見えないあの大好きな星を、無意識に探してしまっているからだろうか・・・








そして

ニューヨークの街に雪が散らつく頃、ソンミンの事務所に一本の電話が入った。

「おじさん、久しぶりですね。
   元気でしたか?

    はい?仕事依頼ですか?

  『 A.N.JELL』の写真集を撮ってほしい?

  『A.N.JELL』てなんですか?

  おじさんの事務所?
  韓国のアイドルグループ?

 わかりました、いいですよ。

 大事なおじさんの頼みですから。

ニューヨークと韓国で撮影ですね。

先にこちらに来ていただけるんですね。

あとは、メールでスケジュール送りますよ

はい、こちらこそ楽しみにしています。

よろしくお願いします。」






★★★★

ソンミンのおじさん、わかりましたね?
ソンミンは社長のお姉さんの息子という設定です。社長にお姉さんがいるか、どうかもわかりませんが、あくまでもオリジナル設定です。
これで、再会になりますが、 次回は、一度、テギョンさんの様子を見るとしましょうかね(笑)








「恋しくて…」

*1*




ミニョがアフリカに来て、半年が経とうとしていた。
ミニョは、今、病院でボランティアの仕事をしている。ミニョは医療の資格は持っていないので、患者の介助をしたり、病院の雑務をしている。
持ち前の根性で、体力的にキツイ仕事もこなしていたが、もうひとつ言葉の問題があった。
ミニョは、少しの英語とボディーランゲージで周りとコミュニケーションをとっていた。夜は、病院の寄宿舎で過ごし、疲れた身体を休ませることなく、眠い目を擦りながら、もっと、地元民とコミュニケーションをとれるために、その国の言葉と英語を勉強をして、夜遅くに眠りに就いていた。

そして、寝坊しても許される休みの前の夜は、星を見上げていた。

星を見上げるたびに、思い出すのは、眩しいくらいに輝いていた星のことだった。
そして、一度だけ一緒に星空を見た日のことを思い出す。



今、横を見ても、一番見たい星はいない。

「今日もいっぱい星が出てますけど、やっぱり、大好きな星が見えません・・・テギョンさん、やっぱり、もう一度、会いたいです。」

ミニョは涙を流しながら、自分の横にはいない、テギョンを思い出していた。




そして、一年が経ち・・・

今も変わらず、星を見上げるミニョの姿。もう少しで、ミニョのボランティアの任期が終わろうとしていた。

一年経っても、テギョンへの思いは変わらない。
任期が終われば、会いにいけるのに、ミニョには、勇気がなかった。
会って、どうすればいいんだろう・・・
テギョンさんは、もう、吹っ切っているかもしれない。
「なぜ、会いにきた?」
と、あの冷たい目で見られてしまえば、きっと、耐えることが出来ないだろう・・・

「どうしよう・・・帰れないよ」

「帰れないって何処に?」

「きゃッ!?ビックリしたぁ・・・ソンミンさん、驚かせないでくださいよ・・・」

突然、耳元で聞こえた声に、ミニョは身体を飛び上がらせた。

「で、何処に帰れないの?韓国に帰れるんだろ?家がないのか?」

ミニョに色々と聞いてくる、この『ソンミン』は、つい1ヶ月前にフラリとやって来たフリーのフォトグラファー。
リュックとカメラだけを持ち、世界を回っている。
ミニョと同じ韓国人だが、育ちは、アメリカで、ミニョの顔を見ても、『コ・ミナム』と結びつかず、アジア人だと思ったらしく、ソンミンのフレンドリーな態度と同郷で、すっかりふたりは親しくなった。

「・・・帰れる家が、ないかもしれないです。すでに両親は亡くなってますし、兄も別に暮らしてます。それまで、修道院でお世話になってましたから、一度、修道院に戻って、仕事と住まいを探さないといけないかもしれません。」

「帰る場所がなければ、俺のとこ来るか?」

「えっ!?そ、それは・・・」

首をブンブン横に振るミニョ。

「おい、お前!何、変なこと考えてるんだよ?
そんなんじゃなくてな、仕事を与えてやるし、住まいもなんとかしてやる、って言ってんだよ。ただし、韓国には帰れないけどな。俺の拠点は、ニューヨークだからな。」

「そうなんですか・・・?」

「まぁ、少し考える時間くれてやる。
仕事は、体力的にキツイぞ。だけど、衣食住に関しては、心配いらない。面倒見てやる。」

「行きます、一緒に行かせてください!よろしくお願いします!」






★★★★

『ソンミン』オリジナルキャラ登場。
いいヤツですよ。
さて、ミニョ、アフリカ脱出です。
お次は、ニューヨークに飛びます。