「恋しくて…」


*6*





セントラルパークにある『ストロベリー・フィールズ』という名の記念碑。
記念碑の真ん中には『IMAGINE』の文字。
それは、偉大なグループ『ビートルズ』のひとり『ジョン・レノン』の記念碑。

音楽の道を志す者なら、一度は憧れを抱くのではないだろうか・・・

A.N.JELLもまたアーティストとして憧れを抱いているだろうと思い、ソンミンが撮影場所に選んだ。

メンバーたちは黒のスーツに赤い薔薇を持ち、その記念碑を見つめている、その姿をソンミンが撮っていた。

ミニョはメンバーたちの姿を、遠くで作業をしながら見つめていた。

“前は、私も同じ場所に立っていたこともあったのに・・・なんか、不思議・・・”

ミニョがミナムとしてA.N.JELLにいたのは、たった数ヶ月だけ。その数ヶ月の濃密な日々を思い出すことは、最近は、ほとんどなくなっていた。思い出すことがなくなるほど時間が経っていたことに気付き、少しだけ寂しくも感じた。

“やっぱり、星は、遠くで見つめていた方がいいのかな・・・”

どれだけ時間が経っていても、星は輝きを失うことなく、眩しいくらいにキラキラと輝いていた。

昼食の時間になり、テイクアウトして用意されたベーグル、サンドイッチ、コーヒーなどを持ちながら、各自、自由にベンチや芝生などで休憩することになった。

ミニョもひとりベンチに座り、撮影の資料を見つめながら、ベーグルを食べていると、「ミニョ、隣いい?」と声を掛けられた。
ミニョが顔を上げると、ニッコリと笑っているシヌとジェルミの姿。

「・・・どうぞ」

ミニョは驚きながらも頷き、ふたりはミニョを挟むようにして座った。

「ねぇ、ホントにあのコ・ミニョなの?なんか、仕事にも、ニューヨークにも慣れてる感じ。ニューヨークに来てどれくらい経つの?」

ジェルミが大きく口を開けながら、バケットのサンドイッチを頬張った。

「もう1年は経ちますね。仕事は、いつもソンミンさんに叱られてばかりで、全然ダメです。」

首を横に振りながら、ミニョが苦笑いをする。

「ミニョは、十分、頑張ってると思うよ。見ていて、そう思う。」

もう、クセになってしまったのだろうか、シヌがごく自然に、ミニョの頭を撫でている。ミニョも肩を竦めたが、シヌに対する信頼感だろうか、気にする様子などなかった。

「あ、ありがとうございます。」

ミニョは、照れくさそうに頬を染め、髪を弄る。

「アフリカのあと、韓国に帰らず、そのまま、ニューヨークに来たんだろ?寂しくなかったのか?」

ミニョの顔色が一瞬だけ曇る。

「もちろん、すごく寂しかったです。ホームシックになったこともあったけど、でも、帰れなかったんです。」

「それは、やっぱり、テギョンが関係すること?」

「えっ…あ、あの…」

ミニョの胸がドキッと驚きで鳴るのを感じ、胸を抑える。

「オレ、“鈍感”って言われることあるけどさ、ミニョとテギョンヒョンのことは、オレでもわかってたよ。」

大きく頷くジェルミと顔を覗き込むシヌに、ミニョは溜め息を洩らした。

「・・・一体、どんな顔をして、皆さんに会えばいいか、わからなかったんです。何も言わずに、自分から離れてしまったから・・・もう、戻ることも会うことも出来ないんだって・・・だから、帰ることが出来なかったんです。・・・ごめんなさい。」

最後は涙声になり、ミニョは涙でぐちゃぐちゃになった顔を両手で覆った。

「泣かないでよ、ミニョ。もう一度、会えて嬉しかったんだからさ!!それに、会わない間に、本当にキレイになったよね。見違えちゃったよ。ねぇ、ミニョ、今からでも遅くないから、オレと付き合わない?」

「ジェルミ、それはダメ。諦めろ。もし、付き合うなら、俺とだよな、ミニョ?」

「えっ!?シヌヒョンだって、ミニョにフラれたでしょ?」

ふたりの話に、泣いていたミニョが、驚きで目を丸くしたり、クスクスと笑っている。

「ミニョ、やっと、笑ったね。オレとシヌヒョンは、残念ながら、ミニョにフラれちゃったけど、テギョンヒョンは、まだ、ミニョのことを忘れてないと思うんだ。
テギョンヒョン、いつもコンサートでソロのとき、同じ歌を歌ってるんだ。聴いてみる?」

ジェルミは、ポケットからスマートフォンを取り出し、ミニョに接続されているイヤホンを渡す。

ミニョの耳に聴こえたメロディーは、父が母のために作った歌だった。

“約束・・・守ってくれたんですね・・・”

切なく響くテギョンの歌声に、ミニョは漏れそうになる嗚咽を手で抑えながら、涙を流していた。






★★★★

生まれてから、一度も日本を出たことないので、もちろん、ニューヨークには行ったことがありません。
ただ趣味というのか、行くことがないのに、旅本(ガイドブック)を見るのが好きでして、行った気になったつもりで妄想しながら、楽しいんでます。ちょっとヘンなコと思われそうですが…アハハ(*/□\*)

今回は、そんな旅本から、ニューヨーク編のハナシが出来てきています。












「恋しくて…」

*5*



「え、え、あ、あ、あの・・ソンミンさん・・・」

ソンミンは、狼狽えているミニョの肩を組んで、ミニョにニッコリと笑ってみせる。

「オ、オ、オットケ・・・」

ミニョは真っ赤になりはじめた頬を両手で挟み、さらに狼狽えている。

「おいおい、待てよ・・確か、ミニョssiは、シヌと付き合っていなかったか?」

アン社長は困惑顔で、シヌを見る。
シヌはミニョと視線を合わせ、一瞬だけ微笑んでみせると、すぐに、冷静な顔で首を振った。

「いいえ、付き合ってませんよ。」

「付き合ってないって、交際宣言したじゃないか・・・」

「あのとき、ナラ日報のキム記者が、執拗にミニョを追い回していたんです。一般人のミニョを匿うためには嘘をつくしかなかったんです。俺にとって、ミニョは妹みたいにかわいい存在ですから、兄が、妹を守るのは当たり前ですよね?」

アン社長に、ニコッと笑ってみせるシヌに、ミニョはホッと胸を撫で下ろす。

「それなら、ノープロブレムだな。」

豪快に笑うアン社長と肩を組んでいるふたりを、テギョンは不機嫌そうな顔で見ていた。

そのあとは、撮影の打ち合わせをして、食事を終えた。

「では、皆さん、明日からよろしくお願いします。」

メンバーたちは、レストランからほど近いホテルに泊まっているため、徒歩で帰るが、ソンミンとミニョは、タクシーで帰る。

ソンミンはタクシーを呼び、ミニョをタクシーに乗せ、ソンミンも乗り込む。

タクシーでふたりきりになるが、ミニョはなんとなく気まずくて、窓の外をキョロキョロと見ている。

「で、誰と付き合っていたんだ?」

「は、はい?」

「カン・シヌ?それとも、ファン・テギョン?」

「・・・いいえ、誰とも、付き合っていませんよ。」

ミニョは、静かに首を横に振った。

テギョンとは、恋人関係になる前に、別れてしまったのだから・・・。
それは、一瞬だけ咲いて、すぐに散ってしまった花のように、儚い夢のようなモノだった。

寂しそうに目を伏せたミニョの長い睫毛が揺れる。

「どうして、そんな悲しそうな顔をするんだ?お前は、笑顔を見せるが、本当に心の底から笑っていないように見える。」

「・・・そうですか?笑ってますよ、ちゃんと。」

「じゃあ、誰と付き合っていなければ、俺と付き合ってくれるな?」

ソンミンは、真剣にミニョを見つめながら、ミニョの手を握った。

「そ、そ、それは・・・」

また狼狽えながら、視線を外すミニョに、ソンミンは深い溜め息を吐いた。

「な?出来ないだろ?お前、まだ、引き摺ってるんだよ、その恋を。
俺と一緒にニューヨークまで来て、逃げても、結局、また、会っちまったんだ。
その恋を、もう一度、始めることも、そのまま、終わらすことも出来るんだ。
だから、自分のためにも、もう一度、ちゃんと、向き合え。わかったな、コ・ミニョ?」

すべてお見通しのソンミンに、ミニョは降参したかのように、涙で濡れた顔を手で覆った。

翌朝

撮影の準備をしていると、メンバーたちが現れる。

「ミニョ、おはよ~」

「おはようございます。よろしくお願いします。」

ミニョは、頭を下げる。
メンバーたちは、すでに衣装に着替えていた。
ミニョの視線が、黒のスーツを着たテギョンに向かう。



忘れることの出来なかったヒト

忘れることの出来なかった恋

星が、また、目の前で輝きだす。





★★★★
























「恋しくて…」


*4*




「明日、新しい撮影の顔合わせを兼ねてディナーがあるんだ。ミニョ、お前も一緒に来いよ。」

ソンミンに言われ、ミニョは、普段は履くことのない高いヒールとワンピースを着て、事務所にやって来た。

「うーん、まあまあ だな」

ミニョの格好を見たソンミンの辛口評価に、ミニョはいじけたように口をすぼめる。
ソンミンはそんなミニョを見て、アハハ笑いながら、カメラのシャッターを切った。
ソンミンは、ミニョのクルクル変わる表情が被写体としておもしろいのか、写真を撮ることがよくあった。

「まぁ、前のダサイ格好に比べたら、マシになった方かもな。よし、時間だ。行くぞ。」

着いた場所は、ニューヨークでもオシャレで有名なレストランだった。




受付で上着を預け、ウェイターに、マンハッタンの夜景がよく見える窓側の席を案内された。

暫く、待っていると、ウェイターの後ろをついてやって来たアン社長に、ミニョの目は、大きく見開かれた。

「久しぶりです、おじさん。」

「ソンミン、久しぶりだな、元気だったか?」

ソンミンは立ち上がり、にこやかに社長と握手をしている。

「えっ!?ミニョ!!?どうして、此処にいるんだよ!?」

素っ頓狂な声を上げたのは、アン社長から遅れてやってきたミニョの兄、コ・ミナムだった。

「「「「えっ!?」」」」

ズラズラとやって来た懐かしい顔触れが、ミニョをまじまじと見ている。
そして、その中には、テギョンの姿もあった。いつもポーカーフェイスのテギョンですら、驚きを隠せないでいるのか、目を見開いて、じっとミニョを見ている。
ミニョもテギョンを一瞥すると、深々と頭を下げた。

「あ、あの、皆様、ご無沙汰しています。」

「ミナムに言われなかったら、コ・ミニョだって気付かなかったよ・・・だって、変わりすぎでしょ?」

最後に会ったときは、まだミナムになったままのショートヘアで、ブカブカの服をしていた。それが、今は、緩くウェーブのかかった栗色の長い髪に化粧した顔、女性らしい曲線が顕わになったワンピースを着ているのだから、みんなが驚くのも無理がなかった。

とりあえず席に着くと、ソンミンがミニョと顔を寄せ合い、ヒソヒソと話をはじめた。

「ミニョ、まさか、知り合いだったのか?」

「はい、すみません。別に、隠していたわけではないんですけどね・・・双子の兄がいるんです。ソンミンさんも、アン社長がおじさんって・・・」

「おじさんは、俺の母親の弟なんだ。」

「そ、そうだったんですか・・・」

韓国から離れたニューヨークで、まさか、再会を果たすとは思ってもいなかった。

ソンミンと顔を寄せ合い、親密そうに話をしているミニョに、テギョンの顔は不機嫌そうに口を尖らしている。

「久しぶりですね、コ・ミニョ ssi」

「お久しぶりです、アン社長」

ミニョは、アン社長に頭を下げる。

「コ・ミニョssi  何故、ニューヨークにいるんですか?」

「あ、あの・・そ、それはですね・・・」

アン社長の質問に、吃(ども)りはじめたミニョに、ソンミンが答えはじめた。

「コ・ミニョとは、たまたまアフリカで会って、韓国帰っても仕事がないって言うからさ、うち(事務所)で雇ってやったんだよ。」

「まさか、お前たち付き合ってるのか?」

そのアン社長の言葉に、いち早く反応を示したのは、他でもないテギョン。

「いや、“まだ”、付き合っていないよ。」

ニュアンスをつけ、ニヤリと笑うソンミン。

ソンミンは、さっきから、痛いくらいにテギョンの強い視線を感じていた。
それは、まさに、“睨まれている”と言って良いだろう。
強い視線を感じてテギョンを見るが、テギョンは無表情のまま、すでに視線を逸らしている。
ミニョはミニョで、目の前にいる懐かしい顔触れと顔を合わせようとしていない。
それに、ミニョの表情が重苦しく、辛そうに見えた。
アフリカでミニョが星を見ながら、泣いていることを、ソンミンは知っていたが、ミニョに聞くことはなかった。

ソンミンは、ミニョを被写体として撮影しながら、ずっと思っていた。

ミニョの笑顔は、笑ってはいるが、その笑顔に、何処か陰を感じていた。
そして、たまに見せる憂いの表情と、
ミニョが韓国に帰れなかった本当の理由が、此処にあるのかもしれない・・・と。








★★★★

ソンミンはテギョンにとって恋敵になるのでしょうか・・・
どうやら、テギョンは、恋敵(ライバル)と認識したのか??

・・・というわけで、また次回。

とりあえず、新しいミッションとして、シヌヒョンにセリフを言わせなければ・・・
ちゃんと、シヌヒョンいるんですけど、カレは、どちらかというと静かな傍観者ですからね。
でも、ソンミンとシヌヒョン、性格似てるかもな・・・ふたりともオトナだし。

今のところサクサクと毎日更新してますが、また更新が滞って、遅くなると思います。
今は、まだ、頭にハナシが纏まっているうちに進めていきたいだけなので、皆様は、皆様のペースで、どうぞお楽しみください。( ゚д゚)ノ