「アベノミクスの評価」なるもの | Tempo rubato

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アニメーター・演出家 平松禎史のブログ

安倍首相が解散総選挙を宣言され、2日から選挙運動が開始されました。

宣言から野党やマスメディアがにわかに「アベノミクス」という言葉を使って2年間の安倍政権を評価し始めました。
おそらく選挙戦でもそれが活発に行われるのでしょう。

「衆院選:経済再生…アベノミクス是非大きな争点」 毎日新聞

記事の要約によれば
野党は「円安の弊害」「格差の拡大」「実質賃金低下による中間層の貧困化」を挙げ、負の効果を「アベノミクスの失敗」とひと塊にして批判しています。

また、政府、与党の反論には事実も含まれるものの、都合の良い数字の見方をしたものがあります。

国民から聞こえてくる(主にネット上ですが)安倍政権の反対層・支持層の双方の多くの批判・擁護も上記それぞれの発言に依っている。

しかし
ボクはこのような「アベノミクスの評価」なるものに違和感を持っていました。

批判にも擁護にも、です。

どちらも「アベノミクス」を大まかに捉えて言い過ぎではないか? と。

なぜなら、アベノミクスには3種類の目的と効果の異なる政策群があるからです。
それをひと塊にして批判したり、養護するのは 何か変だと思うわけですね。

三本の矢、と言われる三種類の政策群は以下の通り
一、大胆な金融緩和
二、機動的な財政出動
三、民間投資を喚起する成長戦略

三つとも、目的と効果が異なります。
バランス良く適切な時期に行えば景気回復への効果があることは、過去の歴史から見てもかなり期待できるものだと政権発足当時は高評価でした。
しかしバランスや行う時期を誤るとマイナス効果が大きくなることも、同時に懸念されていたのです。

アベノミクスを高評価していた方々はおおむねこのように言っていました。
金融緩和によってマネーを増やし、財政出動によって実体経済に循環させ需要を喚起すれば景気回復へと進むだろう、と。

そして懸念の中心は第三の矢・成長戦略でした。
構造改革・規制緩和・グローバリズム…新古典派経済学・新自由主義の思想による政策群は、デフレ期にはマイナス効果が大きいと評されていました。

アベノミクスには、現在失敗していると言わざるを得ないところがあります。
しかし、全て失敗かどうかは三つの政策群を見ていかねばわかりません。

アベノミクス成功未満と失敗の可能性
第一の矢、金融政策は文字通り大胆に行われて「異次元緩和」、黒田日銀総裁の名をとって「黒田バズーカ」
などと評されまして、長らく続いた円高・株安を脱しものの、その効果が実体経済には循環していません。
トリクルダウンは起きないのです。
金融緩和だけでは成功未満です。

検討段階とはいえ、株価に影響がある第三の矢、成長戦略もデフレ時には逆効果です。
雇用の流動化や残業代ゼロ、外国人労働者の拡大は実質賃金を下げます。
(金融緩和の物価上昇で上がる名目賃金で見ても意味がありません。)

非正規雇用の法改正では正規社員を採る会社が減っていく可能性が高い。
政府・与党は正規雇用は増えていると主張していますが定年を迎える世代が増えてきて労働者の分母が減り、見かけの数字が増えただけ、という意見があります。
対して非正規が増え続けていますから全体で見た雇用状況は悪化している、と。
デフレで、コストカットをせざるを得ない状況で雇用の流動化を高めればそうなるのは自明、というわけです。

デフレ時には以上のような負の効果があると言われ、経済指標にも表れてしまっています。
失敗の可能性が高い。

アベノミクスの実行不足と希望
言い換えれば、希望があるところです。
これは、第二の矢、財政出動が不足しているからだと経済学者、評論家が指摘します。
金融緩和で増えたお金は日銀に積まれたままであり、投資を控えている企業は内部留保を手放さず、国民も貯金を消費に回すことに消極的なまま。

政府が支出を削減している時に民間が支出を増やすことはないわけです。

公共事業には相も変わらず「悪玉論」が叫ばれて、「バラマキ」を止めるよう主張する野党やマスコミが多いですね。
目的がハッキリしている公共事業はバラマキには当たりません。
民主党時代の子ども手当や、安倍内閣の(住宅購入給付は良いと思いますが)低所得者向け・子育て世帯向け給付金のようなものが、消費に回るか貯蓄されるかわからないバラマキです。


公共事業によって民間需要が刺激されるのは下請け会社や地域商業への実体的な刺激であり、国土強靭化は安全性を高めて地方活性化の効果を狙うものであり、いわゆるトリクルダウンではありません。

安倍政権発足後の予算は、最初が10兆円、次が5.5兆円でした。
景気の押上げ効果は公共事業分が最も大きかった。
次回の予算は3兆円~4兆円では?と聞こえています。
どんどん減ってるじゃないですか!

アベノミクスが最初に効果を出したのは10兆円の予算(財政出動)とセットだったから、ということを否定するのは難しいでしょう。
なぜなら、予算削減とともに懸念材料が増えてきているからです。
そこへ消費増税のショックが来たのです。

消費税増税は、前政権から予定されていたものです。
安倍政権で、これを変更せず予定通りに行いました。

消費税増税はアベノミクスとは無関係ですが
これが、バランスを欠いたアベノミクスを(現時点で)「失敗」へと導いたと言えるのではないでしょうか。

アベノミクスには元々、実体経済へ好循環を起こさせる政策群が用意されているのです。
第二の矢を今後徹底的に行うことで、「成功」へとV字回復させることは不可能ではありません。
歴史的な成功例もあり、直近でも効果が認められるからです。

状況と中身を見て、上手くいっていないところを見直していくことが必要な時期だと思います。

今必要なのは積極財政でしょう。


野党もマスコミも安倍政権反対派も「アベノミクスは失敗」とひと塊にして批判するのではなく
与党も安倍政権擁護派も「アベノミクスは失敗していない」とひと塊にして擁護するのではなく

中身を見て、足らないところを批判し、足るように求めることがまっとうな議論であり、まっとうな民主主義を発動させる必要条件なのではないでしょうか。

特定政権・政党の批判・支持を目的とせず
国民が豊かになることを目的に、議論が活発化するような選挙戦を期待します。