「ゴルトベルク変奏曲」を連想した「ごった煮」政策集 | Tempo rubato

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アニメーター・演出家 平松禎史のブログ

J.S.バッハの曲に「ゴルトベルク変奏曲」という大好きな曲があります。

「ゴルトベルク変奏曲」というのは通称で「由来」としてこんな話があります。
カイザーリンク伯爵が眠れない夜のために音楽を書いてくれとバッハに願い出て、音楽の生徒だったゴルトベルクがこれを弾き、伯爵は安眠できたのでした。
…という逸話が残っておりますが、現在はおおむね否定されています。

クラヴィーア曲集におさめられているタイトルは「アリアと種々の変奏曲」で
アリアと30の変奏曲で構成されています。
けっこう激しい曲もあるので安眠は無理かなぁ、と思います(^_^;)

第30変奏の次には「Aria da capo, é Fine」とありまして、もう一度アリアを演奏して(アリアの中の繰り返しはしないで)終わるよう指定されています。

アリアも30の変奏曲もとても魅力的なんですが、縦横に張り巡らされた法則性に則って構成されているとこも大変面白いのです。

30もある変奏曲が決して思いつきで並べられたものではなく、それぞれが不整合を起こすこともない。
第30変奏から「アリア ダ・カーポ」へと流れこんでいくカタルシスは、スリリングな映画を観るような気分で、聴き終わった後の幸せな疲労感は良い運動した後のようです。

変奏曲の表面的な形 と 内面的な骨組み
この変奏曲の法則性は簡単に書くとこうです。
アリアは、全32小節で、8小節のメロディ、16小節で前半と後半に分かれています。
30の変奏曲はアリアの主旋律ではなく、低音部の旋律を変奏したもの。
変奏曲は3曲で1組となり、それぞれ3曲目にカノンが配置される。
第16変奏はフランス風序曲で変奏曲群を前半と後半に分けています。
カノンは同度で始まって第6変奏で2度のカノン、それ以降は1度ずつ広がって第27変奏で9度のカノンとなる。
最後の第30変奏では、10度のカノンにはならず、民謡をテーマにした「クォドリベット」(「好きなように」の意)になっています。

各変奏曲は、アリアの主旋律でなく低音の旋律を使っているので表面的にはアリアと関係無いように聴こえますが、なんとなく…つまり内面的にはアリアの雰囲気が続いてるように感じます。

このような仕掛けで、30もの変奏曲が全く別物のようでいて、変奏曲集として不整合を起こさない原理なのです。

とはいえ、レオンハルトの演奏で47分23秒。
ミカ・ヴァユリネンのアコーディオン編曲版で75分37秒もある長大な曲ですから
基本のはずの最初のアリアが忘れられてしまいます。
最初はなんとなくアリアっぽいかな?と聴けますが、こねくり回された変奏やカノンでだんだん何を聴いているのか不安になって来ます。

そこで第30変奏のクォドリベットが効いてきます。
使われている民謡にはこんな歌詞が付いているそうです。
ごった煮の野菜がおいらを家から追い出した。」
「おふくろがを煮てくれりゃ、もっと永く居たものを。」
「おいらは久しくお前に合わぬ。さあさ来やれ、さあさ来やれよう。」


「肉」とはアリアのことです。
アリアが聴きたいのに
いろんな変奏曲(野菜)がごった返すばかりで、おいらは追い出されそうだ。
アリアよ帰って来い!

という意味ですね。
そして、呼びかけに応じてアリアが戻ってきてハッピーエンドになるのです。

30もの変奏曲は全く別個のようでそうではなく、ハッピーエンドに向けて周到なツジツマを積上げていくわけですね。

さて選挙です
300近い重点政策を掲げている政党があります。
自民党です。
三橋貴明さんは「ごった煮」をイメージして批判していますよね。
ボクも政策集発表のニュースを読んで「ごった煮」のようだと率直に思いました。

そして「ゴルトベルク変奏曲」を連想したのです。

政策の一つ一つは立派な「野菜」かもしれません。

しかし、この政策たちで
デフレ不況からの脱却と経済成長という、国民の豊かさ…はどうなるんでしょう。
「おいら(国民)は追い出され」てしまいませんか?

ごった煮状態の政策は相殺し合って効果を生まない不整合がある。
一定の法則性もなくただ並べただけのように思えます。


次の増税は延期されません。安倍首相がそう言っています。
経済状況によっては延期できる「景気条項」は削除されるそうです。
それまでの2年ちょっと。
消費税は8%になっています。
現実のデータは’97年の増税時よりも早い景気後退を示しています。
これまでの約2年と同じ路線の政策群で、消費税8%の状況で、国民を苦しめないほどに景気回復できますか?
これまでと同じ路線で、どうやって景気回復するんでしょう?
必ず10%に上がる時までに。

アリア…「肉」とは何を指すんでしょう?
歴史的にも直近の効果でも実績のある、積極財政でしょう。

「肉」だけでも困ります。
引き立てる野菜…例えば金融緩和とか…も大事です。
余計な具…構造改革・規制緩和…は鍋から出しましょう。
雑炊にするときに入れたら良いかもね。

まずは良い肉を入れてバランスを取りましょうよ。

今のままでは
闇鍋状態で誰も幸せにならない状況が続きそう。
アリアは帰ってきそうにないですね…